15 話し合い
「なるほど、セイラ様がレインダムに必要な聖女だと国王もおっしゃったわけですね」
「ああ。そう言うわけでクレア、君にもセイラがポリウスに帰らずにポリウスの状況を改善できるような策を一緒に考えてほしい」
セイラとダリオスが国王との謁見を終え屋敷に戻って来ると、早速クレアと共に話し合いが始まった。
「わかりました。きっとポリウスの国王やセイラ様の双子の妹君もセイラ様を簡単には諦めないでしょうね。あちらが何か仕掛けてくる前に対応できればいいのですが……。セイラ様、妹君がなぜ聖女の力を使えなくなってしまったのか、心当たりはありますか?」
クレアが銀色の髪をサラリと揺らし、海のような深い青色の瞳をセイラに向ける。
「……恐らくですが、妹のルシアは聖女の祈りを行なっていなかったのだと思います。聖女としての役目も私に任せっきりでしたが、国の人々を思い祈りを捧げることこそ聖女の力が安定する大きな要素の一つです。それを長い間怠れば、聖女の力は自然と失われていくと小さい頃に教わりました」
聖女として生まれた双子は、幼い頃から聖女の力についてや聖女としての心構えなど、聖女としての教育を徹底的に受ける。ルシアも一緒に学んでいるので、わかっているはずだとばかり思っていた。
「今からその聖女の力を復活させることはできるのでしょうか」
「わかりません。そもそも、聖女の力を失った聖女が過去にいたかどうかもわからないので……。祈りを捧げることで力が復活し、また行使できるようになるのであれば、ルシアにそれを伝えればいいのかもしれませんが」
(でも、ルシアにそれを言ったところであの子がそれをやろうとするかどうかはわからないわ)
そもそも聖女の祈りを毎日捧げていれば力が消えることはないはずだし、国が衰退するようなことは起きなかったはずだ。ルシアはセイラがいなくなってからも全く祈りを捧げていなかったということになる。
「国王は、恐らく近いうちにセイラへポリウスから接触があるだろうと言っていた。妹君が直接セイラに接触してくるのであれば、そこで祈りを捧げるよう説得するのも手かもしれないな」
「そうですね、妹君の聖女の力が復活すれば、セイラ様をポリウスに返せと言う必要もなくなるでしょう」
ダリオスの言葉に、クレアも肯定的だ。だが、セイラだけは不安げな面持ちで二人を見つめる。
(私が言ったところで、あの子が聞き入れいてくれるとは到底思えないけれど……でも、ポリウスのためにはとにかくできることをしないと)
「そう、ですね。とにかく、できることをやってみます」
三人での話し合いが終わって、セイラが先に自室に戻りダリオスとクレアの二人きりになった。
「全く、聖女の祈りを捧げることを怠るなんてセイラ様の妹君は酷い聖女ですね」
「聖女の役目を全てセイラに任せっきりで、手柄だけを横取りしているような聖女だ。もはや聖女と言っていいのか疑問になってくるな」
不満そうに言うダリオスを見ながら、クレアは口の端を上げた。
「そういえばダリオス様、いつの間にセイラ様のことを呼び捨てするような仲になったんですか?」
クレアに言われて思わずダリオスがクレアを見ると、にやついた顔のクレアと目が合う。
「……別にいいだろう」
「まあ、お二人は夫婦ですからね。でも、確か契約結婚だったのでは?セイラ様がこの国に来たばかりの頃は、腕が治ったらポリウスに帰すと言っていたはずです。それなのに、今は帰したくないだなんて」
「彼女は聖女としてこの国にとって必要な存在だ。当たり前だろう」
「聖女として、ですか。本当にそれだけ?」
「何が言いたい」
ニヤニヤしながらクレアが言うと、ダリオスはムッとした顔でクレアを見る。だがすぐに大きくため息をついた。それを見てクレアはさらにニヤついた顔で口を開いた。
「いいんじゃないですか、お二人ともとてもお似合いだと思いますよ」
「お似合い、か。そうだといいが」
「何か気になることでも?」
「彼女は聖女としてレインダムと俺のために役目を果たしたいと言っていた。俺と一緒にいたいとも言ってくれたが、それはやはり聖女としての気持ちなんだろう。聖女という肩書き無しに、彼女自身が俺と一緒にいたいと思っていてくれているわけではないのだと思う。それに、それを望むのも贅沢だというのもわかっている」
頭ではわかってはいる、だが、一人の男としてセイラに見てほしいと、ダリオスはどうしてもそう思ってしまうのだ。
「そうでしょうか?セイラ様もダリオス様のことを慕っているように見えますよ。というか、お二人ともお互いの気持ちを確認していないのですか?……まさか、ダリオス様、セイラ様にまだ手を出していない?」
「……その言い方はやめろ」
「ダリオス様、意外と奥手なんですね。ああ、そうか。ずっと騎士として生きてきたから、そういうのに疎いんでしたっけ」
クレアがやれやれと言った口調で言うと、ダリオスはまた大きくため息をついた。騎士としてこの国に命を捧げると決めて生きてきたから、結婚は愚か女性にさえ興味が無かった。それが、今となっては仇となっている。
「彼女の気持ちがどうであれ、俺は彼女を手放すつもりはない。彼女は自分の意志でこの国に残りたいと言ってくれたからよかったが、もしポリウスに帰りたいと言われたら、監禁してでもポリウスに帰さないつもりだった」
「は?監禁?そこまで?」
クレアは若干引いているが、ダリオスはそんなクレアに気付いてもいない。
「そうだ、クレア。君に頼みたいことがある」
そう言って、ダリオスはポケットからとあるものを取り出し、クレアに見せた。ダリオスの手には、オーロラ色の小さな宝石が一粒ついた指輪がある。
「これは……もしかして」
「ああ、これに、とある魔法をかけてほしい。彼女を守るために必要なものだ」
「セイラ様を守るためのとある魔法……?ああ、なるほど。言われなくても察しはつきます。察してしまう自分が憎いですが」
クレアがまた若干引き気味でそう言うと、ダリオスは一体何が問題なんだ、という顔でクレアを見た。