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13 本当の気持ち

「君はどうしたい?君の気持ちが知りたい。お願いだ、教えてくれ。君の本当の気持ちを」


ダリオスの真剣な問いかけに、セイラは息をのむ。


「私は……」


(私も、本当はここにいたい。ダリオス様のそばにいて、レインダムのために聖女として役に立ちたい。それに、きっと私はダリオス様に惹かれてしまっている。でも、そんなこと言ってもきっとダリオス様は困ってしまうわ)


 口を開くが、言葉が出てこない。言いよどむセイラの手を強く握り締め、ダリオスはセイラの顔を覗き込んだ。美しいエメラルド色の瞳が、セイラを射抜く。早く本当の気持ちを言ってくれと言わんばかりの瞳に、セイラの胸は今にも張り裂けそうだ。


「俺は君が必要だ。俺は君とこれからもずっと一緒にいたい。これは俺の本心だ。この気持ちは、君を困らせてしまうかもしれない。それでも、俺は君を手放したくないんだ。どうか、これからもここにいたいと言ってくれないか」


 苦しそうに、懇願するようにセイラへ訴えかけるダリオスを見て、セイラの胸はいっぱいになる。


(本当に?ダリオス様は私を必要としてくれるの?どうして?もう腕が治ってしまえば私なんていなくてもいいはずなのに……レインダムには聖女がいないから、聖女を必要としている?それなら、ダリオス様にここにいてほしいと言われるのもわかる気がするし、私は喜んでここにいたいと言えるわ)


「ダリオス様の腕が治っても、私を必要としてくださるのですか?」

「ああ!君が必要だ、君じゃなきゃだめだ」

「……ダリオス様が、レインダムが私を必要としてくれるのなら、私はここにいたいです。ここでの生活は楽しくて幸せで、ダリオス様やレインダムのためにもっと聖女として頑張りたい、そう思えるんです。だから、ここにいていいと言ってくださるのであれば、私はここにいたいです」


 きゅっとダリオスの手を握り返しながら、言葉を振り絞って言うセイラを見て、ダリオスは大きく息を吐いた。


「ああ、よかった、本当に良かった!ポリウスに帰りたいと言われでもしたら、俺は……君を監禁してでもここにとどめておくつもりだった。そんなことにならなくて、本当に良かったよ。ここにいたいと言ってくれて、思ってくれて、本当にありがとう」


(えっ、監禁?そんな、そんなに?)


 セイラは驚いてダリオスを見るが、ダリオスの顔は真剣そのものだ。その瞳にはとてつもなく強い思いが感じられて、セイラの背筋はゾッとする。だが、なぜか嫌な気持ちにはならなかった。そんなセイラを、ダリオスは急に抱きしめた。


「っ!ダ、ダリオス様?」

「すまない、でも嬉しいんだ。少し、このままでいさせてくれないか」

「……は、い」


 セイラの返事に、ダリオスのセイラを抱きしめる力が強くなった。ダリオスも湯浴みを済ましてきたのだろう、ほのかに良い香りがする。ラフな格好なので服の生地は薄く、お互いの感触がよりリアルに感じられてしまいセイラの心臓の鼓動はどんどん速くっていく。


(ど、どうしましょう、心臓が口から出てしまいそう)


 少ししてダリオスがセイラの体から離れると、セイラは顔を真っ赤にして俯いた。そんなセイラの頬にダリオスは優しく片手を添えて、顔を上げさせる。


「セイラ嬢……いや、セイラ。君は本当に可愛くて愛おしいな。このまま君のそばにいると、どうにかしてしまいそうだ。俺はそろそろ自室へ戻るよ」


(えっ、……どうにかしてしまいそうって、どういうこと?)


 ダリオスの言葉にセイラが赤い顔をさらに真っ赤にさせると、ダリオスは優しく微笑んで頬を撫でると、ソファから立ち上がった。


「さっきの言葉、明日になってから撤回するなんて言わないでくれ。撤回すると言われても、俺は聞く耳をもたないけどね。おやすみ、セイラ」

「おやすみ、なさい……」


 ダリオスが部屋から出て行くと、セイラはぽつんと一人残された部屋でぼんやりとしている。


(ダリオス様に、また抱きしめられてしまった。しかも、あんな、甘いなんて……!)


 セイラは自分の腕で自分の体をギュッと抱きしめる。まだ、ダリオスの温もりを感じて胸がドキドキするし、体の奥がキュンとしている。


(あんなに甘いことを言われたら、勘違いしてしまう。まさか、ダリオス様は私のことを……って、そんな、あり得ないわ!あんなに素敵な騎士様が、私のような影の薄い聖女なんて)


 首をぶるぶると振って、セイラは小さくため息をつく。


(それに、ここにいたいとダリオス様へ言ったけれど、ポリウスのことはやっぱり気になるわ。災害や流行病が蔓延してるだなんて、酷すぎる。私がポリウスに行って祈りを捧げることができればいいのだけれど、でもそれでもきっと一時しのぎにしかならないわ。ルシアが聖女の力を使えなければ、また同じことが起こってしまう)


 どうしたらいいのだろうか。セイラはゆっくりと立ち上がり、胸の前で両手を組んで窓の外の夜空を不安げに眺めた。





 セイラの部屋を出たダリオスは、自室に戻ってドアを閉めるとドアに背中をもたれかけ、そのままずるずるとしゃがみ込んだ。


(やばかった、あのままだと本当に彼女を襲ってしまうところだった)


 ここにいたい、ここでの生活が楽しくて幸せで、ダリオスとレインダムのために聖女として頑張りたいと言ってくれた時、本当に嬉しくてたまらなかった。思わず抱きしめてしまったけれど、その時のセイラの感触を思い出して、ダリオスの体は疼いてしまう。

 寝間着で生地が薄い上に、胸元は肌が出ている面積も大きい。抱きしめた時にセイラの肌に直接触れてしまい、ダリオスは本当に限界に近かった。


(あのまま、セイラにキスをして、ベッドに連れこんで……)


 自然に想像してしまい、ダリオスは思わず首を大きく振る。


(駄目だ、今はそんなことを考えている場合じゃない。彼女の言質は取れた。あとは我が国の国王にどうやってセイラの重要性をわかってもらうかだ。国王がセイラを帰さないと言えば、ポリウスの国王や聖女がどんなに彼女を連れ帰りたくても、もうセイラは絶対にポリウスに帰れない)


 ダリオスは真剣な顔で前を向いて立ち上がり、自分の席に座って計画を練り始めた。


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