人はかつて全能だった2
「やはりこの程度のストックでは、これくらいが限界か」
男は荒廃した世界を見下ろしばがら、耳後ろのデバイスの電源を切った。
5年後
「起きろ緋咲」
その声で俺は目を覚ました。
「会議中に寝るとはいい根性だな」
「聞くとこは聞いてましたよ。思念体の活動活発についてでしょ」
気づけばあの災害から5年が経過していた。俺はあのあと白い服を着た集団に連れられ、今いるこの施設に案内された。災害直後だというのに妙に綺麗なビルだったのを覚えている。災害の規模は凄まじかった。東京以外は壊滅。インフラが整備されているのはこの都市だけだ。他の都道府県については、まだ復興もままならない状態らしい。
「思念体が活動しはじめたのは、5年前のあの日だ」
そう続けたこの人は藍田。俺の上司ということになるだろうか。黒髪オールバックに眼鏡にひげ。上司って感じの見た目だ。年齢は・・・多分35くらい?俺が21歳になっているからそのくらいだろう。さっきから出てきている思念体というのは、例の白い化け物のことだ。どうやらあれは先人類の意識の残留とでもいうものらしい。なぜそんなものが残っているのかというと、人はかつて全能だったとのことだ。大地を割り、天候を操り大陸を造りそして文明を築いていったという。その神の如き力は世代が進むにつれて薄れていき、異能者という形で世間に紛れていったそうだ。そして、強い力をもつものがこの世に残していく残留思念が例の思念体らしい。幽霊というものが実際にあるなら、その思念体のことかもしれない。
「そもそも思念体というのは無害だったはずです。いままでの観測によれば、ですが」
このいやに丁寧なのは黒川。同僚ということになるのだろうか。
「考えられるのは、たまたま長期間なにもしなかったか、これも誰かの想造力かだ」
「太古ならまだしもこの現代でそんな大規模な想造力が使えますか?」
想造力、先人類が使い次第に薄れていった異能のことだ。ここにいる人間はその想造力というものが使える。もちろん俺もだ。先人類の血を引いているか遺伝子配列によって少しでも能力の才能があるものは訓練次第で使えるようになるらしい。あの日無傷ですんだのはおそらくそのお陰だろう。具体的になにが出来る力なのかは、今の俺はまだぺーぺーだからうまく説明できないかもしれないが簡単なものだと物を作り替えたり、無機物を操作したりと様々だ。だが無条件でそんな異能が使えるはずもなく物質構造の理解や力を使う場所、座標の把握などあらゆる知識、そして計算ができないとまともに力を使うことはできない。使いすぎや連続使用は脳に深刻なダメージを与える。らしい。俺はまだそんな複雑な使い方をしたことないのでよくわからない。つまり、日本国全土に被害を与えられる規模の力が使える人間がいる可能性はいまのとこ低いということだ。
「思念体による人間への危害、そして力を悪用している人間の可能性、問題は山積みだな」
結局、何も話が進展することはなく今日の会議は終了した。