第9話 ドラフトテスト・ vsヴァルガⅠ
4月26日更新分(9/9)
ルギルとヴァルガはまたしても相対した。
生まれも髪色も全く違う二人だが、性格だけはよく似通っている。
どちらも負けず嫌いで、どちらも喧嘩早くプライドが高い。
だからこそ、この二人がぶつかるのは必然だったのかもしれない。
「よく七戦目まで残ったなァ、もう死んだかと思ってたぜ。俺に殺される権利を得るために頑張ったんだなァ」
ぱち、ぱち、ぱち、ヴァルガはゆっくりと手を叩いた。
拍手を受けているというのに、ルギルは全く褒められた気がしない。
無論、本人だって褒めてるつもりは更々ないだろう。
「逆だろ? お前が俺に殺されるんだよ」
「クハハ。物を知らん田舎モンは面白えな」
ヴァルガは馬鹿にしたように声を上げて笑った。
ルギルも負けずと皮肉に笑う。
「田舎者、田舎者って。逆にお前は、生まれてから王国の外に出た事はあるのか?」
「出た事はないなァ。ロミナリアよりつまらん場所にわざわざ行く必要は無いだろ」
「ははっ。井の中の蛙だな。大海を知らないらしい」
ルギルの言葉に、ヴァルガの口の端が少し歪んだ。
怒りを若干滲ませて言う。
「運良く六連勝して調子乗ってるみたいだから俺が教えてやるよ。上には上がいるって事をな」
「そりゃありがたい。二席のお前なら詳しく教えてくれそうだ。一席の奴から散々教え込まれたんだろ?」
「ッチ……、言っとけや」
ついにヴァルガから笑みが消えた。
へらへらと嘲笑ってた態度から一変、剣呑な雰囲気で空気がピリつく。
ルギルはそれを感じてほくそ笑んだ。
舌戦は先にイラついた方が負けだと思ってる彼にとって、ヴァルガの態度は敗北を宣言したに等しい。
(はは。まず一勝だな)
心の中で悦に浸る。
ヴァルガの投げやりな言葉で会話が途切れると、両者ともに口を開かなくなった。
所詮、言葉での煽り合いは試合開始までの暇つぶしでしかない。
二人は開戦の銅鑼を静かに待った。
『第七試合、試合開始!』
いつもと同じ、試合開始を告げるアナウンスが流れる。
ヴァルガは、尊大に見えるほどゆっくりと杖を抜いた。
身の丈に合ったやや長めの杖には、先端部分に大きな魔法石が取り付けられている。
髪の色とは違う赤色、燃えるような真紅の魔法石。
おそらくは、炎魔法の効果を増幅するような特性を持っているのだろう。
そのまま、複雑な構成を組んで魔法を展開する。
「『不死鳥の呼び声』」
詠唱の声が低く響くと、ヴァルガの背後に不死鳥が舞った。
杖から見受けられる情報通り、使った魔法は炎属性。
炎魔法で創られた不死鳥は、ヴァルガのピッタリ後ろを張り付いて、ともに行動を始める。
広げた翼は、ヴァルガの背丈と同じぐらいありそうだった。
「サフィーナの操作魔法なんかと一緒にすんじゃねえぞ。使役魔法だ。知ってるかァ?」
サフィーナの操作魔法は、文字通り自分で《《操って動かす》》魔法。
対して、ヴァルガが使った使役魔法は、魔法に知性を持たせて、魔法自身が《《勝手に動く》》魔法である。
ルギルの豊富な実践経験でさえ、使役魔法は一度しか見た事がない。それぐらい使い手は珍しい。
「『精強なる炎球・多重発動』」
ヴァルガが続けて詠唱すると、ヴァルガと不死鳥の周囲に炎の球が漂い始めた。
不死鳥が甲高い鳴き声を上げてからは、更に炎球の数が増えていく。
最終的に、全部で十数個の炎球がヴァルガの周りに浮かんだ。
『多重発動』は同一の魔法を繰り返し使用する補助魔法。
詠唱者の実力や魔力量によって、一度に使える数が変わる。
ヴァルガの周囲に漂う十数個の炎球は、ルギルの感覚で言えば馬鹿みたいに多い。多分、背後に控える不死鳥の働きで、大幅に性能が向上しているのだろう。
(コイツ、球撃ち型かよ)
炎球一つ一つがゴブリンの頭蓋ほどのサイズで、小さくは無いが、一発で致命傷を負うほど大きくもない。
見かけによらず、細かい魔法を重ねてくるタイプか、とルギルは思った。
魔法士は、大きく分けて三つのタイプが存在する。
一つ目が、サフィーナのような、大魔法を使って相手を殲滅するタイプ。魔法士として一番多い型。
二つ目が、レティシアのような、身体にバフをかけて近接戦を仕掛けるタイプ。ルギルもこれが得意。
三つ目が、ヴァルガのような、小から中ぐらいの魔法を多く使って球撃ちするタイプ。ルギルが一番苦手とする型だ。
物量作戦を取る相手との戦いは、魔力量や属性の相性など、基本的なところで勝敗の着くことが多い。
ルギルの専売特許である、魔力コントロールは遠距離魔法で発揮しづらく、近接戦闘のセンスも使えない。
どうしても魔力量が足を引っ張って、戦闘を有利に進める事が難しい。
(炎魔法の球撃ちか、氷魔法との相性は最悪だな)
更に最悪な事に、属性相性がすこぶる悪い。
(今回も近接戦闘すんのか……? ていうかそもそも俺の対魔法士の戦略は、近接戦しか活路が無いのか?)
サフィーナから釘を刺された事で、『閃光』や『麻痺』、『氷弾丸』などの初見殺しを使う気は無かった。
だからと言って、すぐに近接戦に持ち込むのは良くない。球撃ちには球撃ちを、というのが魔法士の基本。
最初から魔法剣など出そうものなら、魔力量に自信がありません、と言ってるようなものである。
初っ端から弱点を悟られるのは避けたい。
仕方なくルギルは、球撃ちに付き合おうと決めた。
(あれでかき回せば……いけるか?)
「随分考えんなァ? 俺はいつでもいいぜェ?」
ヴァルガは、ルギルの詠唱をわざわざ待っていた。
ダンジョンプレイヤーとしての暗黙の了解なのか、それとも余裕の表れなのか、そんな事はどうでもいい。
ルギルはありがたく使わせてもらった。おかげで策も用意できた。
「考えがまとまった。始めようか」
静かに宣言すると、ルギルは元の色すら分からなくなった杖を振るう。
レティシアとの戦闘で一部が欠けたが、結界の効果で元に戻っている。
それでも、結界に入る前よりは戻らないらしく、新品同様とは口が裂けても言えない。小汚いままだ。
ヴァルガの物とは違って、魔法石なんて高価な物は付いていないが、長年使ってきた杖は手足の延長のようなもの。
「『氷炸裂弾・多重発動』」
息を吐くよりも簡単に、体内の魔力は魔法へと転じ始める。
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