第1話 魔法傭兵ルギル
カクヨムで先行連載しています。
4月26日更新分(1/9)
砂塵を巻き上げ、遠くから盗賊が迫ってくるのが見えた。
それら全てが馬に乗り、サーベルを構えている。
護衛の傭兵より明らかに人数が多い。
その事実に商人は顔を青くした。
「おい! 何とかしろ!」
傭兵に向かって大声を出すが、その語尾は震えている。
対照的に、商人が雇った傭兵達は落ち着き払っていた。
「どうする? ルギル」
「『閃光』するから後は成り行きで頼む」
「オーケー。目瞑るから合図くれ」
うるさい商人を無視して傭兵のリーダーはルギルに確認すると、簡素な作戦が立てられた。
了承した仲間の傭兵たちは荷馬者を取り囲むように散開する。
商人は荷馬者の隅っこで、いつもは信じない神に祈っていた。
盗賊達が眼前に迫ってくると、ルギルは合図をする。
「3! 2! 1!」
薄汚れて年季の入った杖を空に向けると、小さな光の玉を打ち出す。
傭兵たちは目を固く瞑って、おまけに光を遮断するように手で瞼を押さえた。
小さな光球はしばらく上昇すると、
「『閃光』!」
ルギルの詠唱で弾けた。
一瞬、周囲が真っ白になるほどの光景。
乾いた両手を思いっきり叩いたような音を伴って、眼を焼くような光が辺りを満たす。
短時間であるが、目を開けていた人間は失明するほどの光量だ。
察しの悪いほとんどの盗賊の眼を焼き、察し良く目を瞑っていた盗賊も騒ぐ馬を押さえるのに必死。
大チャンスである。
「かかれっ!」
「「「うぉぉぉぉぉおおおおおおお!」」」
傭兵のリーダーが合図すると、剣を持った傭兵が盗賊に飛び掛かっていく。
ここからは時間との勝負。
閃光が稼げる時間はそう長くは無い。
剣戟の音が一切せずに、刃物で肉を絶つ音だけが響く。
ルギルも得意の氷魔法で盗賊に命を奪っていった。
「『氷弾丸』!」
親指サイズの先が尖った氷を高速回転させ、敵に向かって放つ。
見事盗賊の心臓部にヒットし、血しぶきが大きく上がった。
盗賊はうめき声を出しながら馬からずり落ちて絶命する。
傭兵は必死に盗賊を倒していくが、まだ殲滅には至らない。
徐々に『閃光』の効果が弱まり、盗賊たちに視界が戻り始めていた。
虐殺から戦闘へと移り変わっていく。
それを見たルギルは第二の矢を放つ。
くるりと小汚い杖を回して詠唱した。
「『麻痺』!」
極限まで人体に流れやすく創った雷魔法。
とびきり細長く編まれた魔法構成は、衣服や防御魔法をすり抜けて相手を麻痺させる。
ルギルの放った魔法は器用に仲間の傭兵だけ避けて、盗賊だけを麻痺させていった。
「うあがっ!」「あぐぅ……」「ぐぐっ……」
盗賊たちは不細工な声をあげて身体の自由を奪われた。
それをぼーっと見ている傭兵は居ない。
戦局はこちらに傾いた。
△ ▼ △
盗賊は全滅した。
ルギルの活躍のおかげもあり、こちらの被害はゼロ。
雇い主の商品にも被害は出ておらず、ルギルはほっとした。
「なんだ今のは? 初めて見た魔法だ」
荷馬車の隅っこで丸まっていた商人がルギルに声をかけた。
いつの間にか出てきて一部始終を見ていたらしい。
「俺の創った魔法だぜ」
『麻痺』も『氷弾丸』も『閃光』も全て、ルギルの創ったオリジナルの魔法である。
ルギルの魔力量は魔法傭兵の平均以下だが、魔法を応用するアイデアに優れていた。
魔法士らしい大規模な殲滅魔法は使えないが、小規模な阻害魔法が得意な変わった魔法士。
それがルギルである。
「面白い魔法だな。敵を倒すのではなく、味方を助けることに重きを置いている」
商人は続けて言った。
「お前、ダンジョンプレイヤーに興味はないか?」
ルギルは初めて聞く言葉の意味が分からず頭にハテナが浮かぶ。
商人は世間知らずのルギルに苦笑した。
「今やコロシアムより人気な娯楽だぜ、腕の良い魔法士をダンジョンに潜らせてそれを放送するんだ。人気になれば、俺が出すちんけな報酬とは比べ物にならない大金が手に入るぞ」
傭兵稼業は限界を迎えていた。
大きな戦争は起こらず、各国が治安維持に力を入れ始めてから、悪党が目に見えて減っていく現状。
実は、先ほどの盗賊も非常に珍しいものだった。
傭兵にとっては治安が良いというのも考え物。最近は護衛の依頼を受けるのも大変である。
当然、魔法傭兵ルギルもそのあおりを受けた一人。
腕の良いルギルでさえ、街道護衛のような小さな仕事で小銭をかき集めるのがやっとの状態だった。
とはいっても、ルギルに出来る事は魔法ぐらいしか無く、減り続ける仕事を微々たる報酬で受ける生活を長らく続けている。
「今シーズンのドラフトテストがもうすぐ始まる。俺なら紹介状を書けるぜ。どうする?」
別に、傭兵が好きで続けていたわけではない。
それしか道が無かったから。それが一番金を稼げたから。
愛着はあるがそんな理由である。
しかし、今更傭兵を辞めて未知の仕事を始めようとはルギルは思えなかった。
難色示すルギルに商人は肩を組んで、耳元で悪魔のように囁き始める。
「トッププレイヤーにも成れば、金なんか有り余る程もらえるだろうなあ」
「……ありあまる、かね」
「そうだ。良い女もかかせないだろう」
「……いい、おんな」
「人気者はどこに行ってもチヤホヤされるからなあ。羨ましいもんだ」
「……ちやほや」
もうすでにドラフトテストに受かって人気になるのが確約されているように商人は話す。大した話術である。
ルギルもその気になり始めているが、一つだけ不可解な事があった。
「どうしてそんなにダンジョンプレイヤー? ってのを俺に押すんだ? 商人さんに何かメリットがあんのか?」
商人がルギルを押す理由が分からなかった。
しかし商人は、そんなルギルの質問を一笑に付す。
「馬鹿言え。ロマンじゃねえかよ」
「ろ、ロマン……!」
「おうよ」
本当は青田買いのような物なのだが、ルギルは目をキラキラさせて気付かない。
「さあ、どうする?」
ルギルの答えは決まっていた。
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