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第39話 寺への帰還

 久々に愛車を運転して寺へと向かう。

 何ヶ月もあけて運転するとおっかねぇな。

 帰りは運転代行を頼むかな。


「一つは土産にするから残しとけよ」


『一つぐらいなら良いだろう。それ』


 助手席に座り、BODIVAをムシャる化け狐が一粒投げて来たので、口でキャッチする。

 甘いけど旨い。

 高級チョコレートなんて、奇をてらわずにBODIVAで十分だよな。

 産地の違うカカオの食べ比べセットとか貰っても、食った後のリアクションと感想に困るんだよ。


 俺がボケた爺だったら危なかっただろうが、道を間違えたりもせずに寺まで辿り着いた。

 まだまだ俺の脳も捨てたもんじゃないらしい。


『耄碌する様な歳でもないだろう』


「若くても若年性認知症になる可能性はあるんだぜ?

 俺の場合は、もう六十だから若いって言って良いかは微妙だけどな」


 若年性認知症と診断されるのは六十五歳以下だったか。

 そんな事は今はどうでも良いな。


 車を降りると、ちょうど寺を手伝ってくれてるパートがいたので話掛ける。


「よう。久しぶりだな」


 佐藤という、ありふれた苗字のパートは、もう二十年以上も働いてくれている大ベテランだ。

 事務や雑務はこのパートに任せておけば大丈夫と重用していたら、毎年のように春闘だと言って賃上げを要求してくるがめつい婆である。


 佐藤は俺の顔をみると少しばかり驚いた様子で。


「永海さん。最近見ないなと思ってたけど、あんた何処行ってたのさ?

 あんたがいないから冬の間忙しかったんだよ」


 そういえば誰にも言わずに寺を出たんだったな。

 って馬鹿息子は従業員に何も伝えてないのかよ。


「ああ、実は色々あってな。死んでたんだ」


 折角なので俺は縁起でもない返答をし。


「なるほどね。死んでたんだったら仕方がないね」


 納得するんかい。


 佐藤からは、賃上げを要求したのに馬鹿息子が給料を上げなかった不満をぐちぐちと聞かされ、俺の方からも説得してくれなんて言われたので、右から左へ聞き流す。

 寧ろ今まで上がって来たのが奇跡だと思って、俺を拝み倒す方が先だと思うぞ。


 どうやら今日はすっぽりとスケジュールが空いているらしく、馬鹿息子は寺にいるらしい。

 今は寺務所にいるんじゃないか、と言われて佐藤とわかれ、我が家に上がり込んで寺務所へと向かう。


「久々に帰って来ると人様の家みたいな匂いがしてくせぇな」


『先祖代々続く寺に対してその発言はどうかと思うが?』


「なんつうかな。この線香の匂いと畳の匂いとよ。

 嗅ぎ慣れてるから普通だと思ってたもんが、少し離れてみると冷静になっちまって思うんだよ」


『何をだ?』


「くせぇなって」


『同じ言葉を繰り返しただけではないか。

 我はここの匂いが好きだがな。だが一つだけ大事な匂いが足らんが』


 ほう、化け狐はこの匂いが好きなのか。

 しかし最後の方が聞こえなかったぞ。


「最後何て言ったんだ?」


『何も言っていない!』


 ふむ、まあ別に良いか。


 ここは俺の家だから、何処へ行くにも自由だ。

 馬鹿息子が中にいるとわかっている寺務所の戸を、声を掛けずに開けるのにも何の問題もないし、躊躇いも無い。


 俺ならまだしも、馬鹿息子だからな。

 どうせ事務仕事をしているぐらいで、面白ハプニングなんて起こる筈も無い。


 そんな訳で寺務所に着いた俺は、勢い良く引き戸を開け。


「あっ、、、」


 馬鹿息子が知らないお姉ちゃんと接吻し掛けている場面に出くわしたのであった。

2月1日よりしばらくの間は作品を非公開とします。

続きはアルファポリスで最終話まで公開していますので是非そちらをご覧下さいませ。

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