第30話 正月は餅が旨い
馬鹿息子から『食い切れない分の餅は運んどいたから後はよろしく』とメッセージが来た。
連絡を寄越した翌日に持って来るとは、律儀な奴め。
「そろそろ酒も切れそうだし、取りに行くか」
『うむ』
作務衣の下に発熱素材のインナー上下を着てから、厚手の靴下を履き、ダウンジャケットを着てニット帽と手袋を着けてから外に出る。
「今日は化け狐に乗ってくから今度な」
玄関を出てすぐの所に、新顔の狼がいて乗って欲しそうにこちらを見ていた。
茶色い毛で大型犬ぐらいの大きさの狼で、送り狼なのか子育て狼なのか、はたまた別の狼なのかはわからんな。
とりあえず、今日の今日では信頼性が低いので断りを入れてから、化け狐の背に乗って山を下りる。
加夫羅太伊は雪が降る様になってからは、家庭菜園から出なくなった。
多分寒いのが苦手なのではないか、と思われる。
うちの場合は火の玉が共存してるし、雪女が降らせてるんで雪国みたいな寒さではないんだが、流石に雪の上を移動するってなるときついのだろう。
我が家の雪女は冬しか活発に動けないので、外が暖かくなるまでは我慢して欲しい。
やっぱり送り狼の類なのか忠犬的な存在なのか、狼も山の麓まで着いて来た。
頭と背中に積もった雪を払ってやると、嬉しいのかブンブン尻尾を振る。
犬みたいで可愛いな。
俺の荷物を置く用の納屋に入ると、のし餅が大量に積まれていた。
確かに軽トラの荷台に満載して持って来いとは言ったが、三十枚はあるか?
餅は寺で搗いたり、お裾分けで貰ったりで、大量に集まるのは確かなんだが。
『我が食うぞ。気にするな』
化け狐は餅好きなので、数日で消費し切る可能性はあるが。
「俺も食うからな。雪女に頼んで冷凍しておいて、当分の主食は餅だ。」
山暮らしを始めてから思ったが、冬は保存の効くものがありがたい。
それに米だと炊くのが面倒だから、焼くだけで食える餅は主食に良さそうだな。
人によっては食い過ぎると飽きるだろうが、俺も化け狐も餅は好きだし、冬の間ぐらいは全然問題無いだろう。
「狼が着いて来てて良かったな。
餅、背中に載せて運んでくれるか?」
狼に聞いてみると頭を下げてブンブン尻尾を振るので、良いよって事だろう。
「あやかしって本当に凄いよな。
どんだけ重くても平然としてるのな」
『その狼でも、その程度ならば容易かろう』
寺で餅を搗く時は一升、つまりは一.八キロのもち米を使って餅を作る。
えっさほいさして完成した、でかい丸餅の状態を一升餅と言って、のし餅にする時には一升餅を半分にする。
一.八キロの半分で、水分もあるから仮にのし餅一枚を一キロとしよう。
それを三十枚。
つまり三十キロ載せても狼は平然としていて、何ならもっと載せて良いよとでも言っているのか、尻尾をブンブン振っているのには驚く。
いや、まあ全部載せた俺も俺なんだがな。
もしもこれがあやかしでなかったら、動物愛護的なあれで叩かれている所だろう。
見えない側からすると、縦に積まれた餅が浮いている様にしか見えないだろうが。
「問題無さそうなら酒を持ってさっさと帰るか」
『うむ、早く焼き餅を食いたいぞ』
走っても餅は崩れる事無く屋敷まで着いた。
狼にはそのまま屋敷の中まで上がって貰って、餅を下ろした。
すぐに食う分以外は雪女に頼んで瞬間冷凍。
座敷童達が順番に狼の背に乗って遊んでいる。
狼も尻尾を振って楽しそうだし、何よりだ。
「やっぱり餅は旨いよなぁ!」
『うむ!これを食わねば新年は始まらん!』
囲炉裏で焼いた餅を化け狐と食う。
醤油にきな粉に砂糖醤油。
あんこも注文しておくとしようか。
搗きたてではないけれども、やはりパックされた餅とは食感がまるで違う。
囲炉裏で焼けば焦げ目が香ばしく、ただでさえ旨い餅の味にアクセントを加える。
柔らかく伸びて、蕩ける様な食感が最高だ。
化け狐ではないが、確かにこの旨さは年が明けた実感が湧いてくるな。
こちらの小説はアルファポリスで開催中の【第7回キャラ文芸大賞】にエントリーしています。
アルファポリスでは既に完結済みですので、是非そちらもご覧頂き、面白いと思ったら【投票】をお願いします。




