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夜の都に魔法書を  作者: アマモリイロハ
2/2

痣牡丹


初めて入る教室はみんなどこかよそよそしい雰囲気がある。

それもそのはず、高校生活が始まって2日目なのだから。

丈太郎に案内され自分のの席に着くと机の中にはたくさんの書類、教科書が入っていた。それを一つずつ確認していると前の席に座っていた女子が笑顔で話しかけてきた。

「おはよ!!私、カオルっていうの!あなた名前は?」

「おはよ…私は梨子です!」

「梨子って呼び捨てでも良いかな? これから仲良くしてね!!」

「…うんっ!!」

薫は少しギャルっぽい笑顔が可愛らしい女の子だった。

こんな子が私なんかと仲良くしてくれるなんて…、高校に入って初めて友達ができて素直に嬉しい。

今日からたくさんの思い出を薫と作っていく。

そんな甘い考えは休み時間に打ち砕かれたのだった。


1時間目が終わって私は薫とトイレに向かった。

「薫はさ〜」

「はぁ? 何馴れ馴れしく話しかけてんの?」

「え?」

いきなりの変貌ぶりに動揺しているとトイレには続々と女子生徒たちが入ってくる。

みんな見下すような、嘲笑うような不快な笑みを浮かべて。

「薫、どういうこと?」

その時、冷たい水が頭の上から降り注ぐ。

「ひぁっ!!」

小さい悲鳴をあげ、その場にへたり込んでいると髪を引っ張られた。

「痛い!痛いって!!」

「は?マジあんたムカつくんだけど。丈太郎くんと幼馴染か何か知らないけど馴れ馴れしいんだよ!!」

「え?」

「本当頭悪いんだね〜! 私、丈太郎くんに一目惚れしたの。だからあんたが邪魔!これでわかった?」

そうか…薫は丈太郎のことが好きなんだ。

私が一緒にいるのが許せないんだ。

だからこんなことをするんだ。

後から入ってきた女の子たちはきっと薫の手下みたいなもので私を逃げられないようにしているのだろう。

「薫…私が丈太郎に近づかなければもうやめてくれるの?」

「あぁ、そうね! 金輪際話しかけたり一緒に登校したりしなければやめてやってもいいよ?」

「わかった…ごめん…」

薫たちは笑いながらトイレを去っていく。

それと同時に2時間目が始まるチャイムが聞こえた。

滴り落ちる冷たい水が制服を濡らし重たい。腰をあげ私は教室に向かう。


教室の扉を開けると一斉にクラス中の生徒の視線をあびた。

内向的な性格のため注目されるのはあまり好きではない。

下を向き自分の席に着こうとした時、強く手を引っ張られた。顔を上げると少し悲しげな、でもどこか顔を赤く染める丈太郎の姿。

引っ張られるまま教室から飛び出し屋上に続く階段の踊り場に着くと丈太郎が来ていたブレザーを私に手渡してきた。

「お前…その…透けてる。これ羽織っとけ。」

視線を下に向けると濡れたワイシャツから下着が透けていた。その瞬間一気に恥ずかしくなってブレザーを羽織る。

「梨子、何があったんだ?」

心配そうに顔を覗き込んできたが階段の下に薫の姿が見える。

このまま私が丈太郎と話したら何をされるかわからない。

だからこの場から逃げた。


走って走って走って…私が逃げられるところなんて思い浮かばなかったから自分の部屋に逃げ込んだ。

家には父母共に仕事に行っていたため誰もいない。

ベッドに寝転ぶと自然と涙が溢れてくる。

私は声をあげて泣き続けた。



それから毎日毎日薫からのイジメが続いた。内容はどんどんエスカレートしていく。

最初は水をかけられるだけだったものが、1ヶ月経つ頃には服から見えないところにたくさんのアザができていた。まるで牡丹の花弁が身体中にあるかのように。だかそんな綺麗なものではない。痛みを伴う傷なのだから。

学校に行かなければこんな苦しい思いをしなくて済むとも思ったが、共働きの両親に心配をさせたくなかったから我慢して我慢して我慢して…学校に通い続けた。

今日もいじめられるのを覚悟して教室の扉を開ける。

だが不思議と薫から話しかけられることはなく、何もない学校生活が始まった。

もう飽きたのか?

そう思って安心したのも束の間、放課後になって知らない番号から電話がきた。

「もしもし?薫だけど」

「…はい」

「今日今から言う住所に来てくれない? 着いたらこの電話番号に電話して?」

「…わかりました」

「早く来てね〜!」

声がいつもより軽い薫、言われた住所は繁華街の近くらしい。

スマホで検索すると大人が愛を確かめる巣、所謂ラブホテルだった。

今の時代、女子会をするためにラブホテルを使うというのも少なくないため女だけで入ることは簡単。

きっと薫は密室空間でどれだけ声を出しても助けが来ない環境で私に何かをしたいのだろうと言うことは安易に想像ができた。

行かないという選択肢もあっただろう。だが私は薫の言いなりになるほど追い詰められてしまっていたため重い足取りで向うしかなかった。


言われた住所に着くと昭和の時代に繁盛していただろう古いラブホテルが目の前に立ち塞がる。

制服のポケットからスマホを取り出すと電話をかけた。

「おっせぇんだよ!!受付に304に入れてって言えば入れるから早く来いよ?」

「…わかりました」

電話が切れ、ゆっくりと画面をスクロールする。

私はある人に電話をかけたままスマホをバッグにしまった。

誰にも見つからないようボロボロになったノートのページに挟み込んで。

ラブホテルの中に入ると胸辺りしか見えないようにカーテンで遮られた受付が見える。

「あの…すみません」

「はーい!」

思ったより元気なおばさんの声が聞こえた。

「304号室に入りたいんですけど…」

「わかったわチャイムを鳴らせば入れるように行っておくわね!」

「…ありがとうございます」

近くにあったエレベーターに乗り込むと心臓の音がどんどんと大きくなるのを感じる。

私は何のためにここに来たの?

今から何をされるの?

イジメられるためにここに来たの?

さっきかけた電話は無事繋がったのかな?

繋がってたらいいな…

繋がってますように……

「チンッ」という音と共にエレベーターの扉が開き304のチャイムを押した。

すると中から複数人の足音が近づいてくる。

そしてゆっくりと開かれた扉から勢いよく出てきた手に腕を掴まれ、私は部屋に連れ込まれた。

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