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After the Brave  作者: ダーウィン
第一章 王国周遊編
2/5

転移

 意識がゆっくりと戻ってくる。

 暖かな日差しが体に当たっているのを感じる。

 どこか遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。

 

 長い眠りから覚めたような気分で目を開けると、そこは無数の木々に覆われた森の中だった。

 

 こ、ここはどこなんだ?転移は成功したのか?

 ぼやけているのか考えがあまりまとまらない。

 

 周囲を見渡してみるも、ただの森林のようだ。

 木々の隙間から覗く太陽を見るに、今は昼時だと推測できる。


 とりあえずは情報収集か、この森を散策してみよう。

 私は地面から立ち上がり、歩き出そうとした。


 すると異変に気がつく。

 なんだか体が妙に軽いな。

 長年戦ってきた腰の痛みも一切感じることがない。

 

 バッと手の平を見ると、まさにそれは過去の記憶となった若々しい肌が見える。

 

 転移魔法はここまで親切なのか。

 確かに長い時間を渡来するために肉体に影響があってもおかしくはないな。

 大賢者の魔法か、深堀りしていなかったがありがたい。

 久しく忘れていた健全な体に泣きそうだ。


 ーーー

 

 しばらく森の中を歩いていると二つの人影が見えた。

 鎧を着込み、帯剣していることが見て取れる。

 特徴からして、兵士といったところだろうか。

 この世界初めての人間に出会えたことが何よりもうれしい。

 少しでも話を聞けたらいいが。


 「すいませーん。ちょっとお話しいいで……すか!?」

 

 私が彼らに近づくと兵士は持っていた剣を突きつけてきた。

 じろじろと私の顔を睨んでくる。


「おいお前、ここら辺のやつじゃねえよな?」

「リストには載ってなかったな。どこから来た。旅人か?」


 兵士たちはパラパラと紙の束を確認している。

 これは敵対されているのだろうか。


「い……いやいや、さっきここに来たばかりでどういう場所かわからないんですよ。」


 精一杯の笑顔で返答する。

 様子を見るに彼らは私と関係ない用事でここにいるらしい。

 せっかく転移したんだから荒事は避けておきたい。


「おかしいな……ここらは封鎖したはずなんだが……」

「まあいいだろ。おいお前、ここらは今重要な任務の最中だ。ここから西に行けばそれなりの街がある。直ちにこの場所から離れろ。」


 かなり強い口調だな……。

 確かに兵士たちはなんだかピリついているように見える。

 

「わかりました。西に向かえばいいんですね?今すぐ行きます。」

「おう、早くしろよ。」


 私は兵士たちが見えなくなるまで歩いた。

 だがやはりその任務が気になる。

 私は重度の知りたがりだ。

 この世界の情報もあまり掴めていないし、ちょっと覗きに行ってみようか。


「『隠蔽』」


 『隠蔽』は対象の存在を知覚しにくくする魔法だ。

 王道なら透明化なんだろうが、狩猟民族の民間魔法であるこっちの方が魔力の消費が少なくて疲れない。

 これならよほどのことがない限り気づかれることはないだろう。

 

 僕は西へは向かわずに周囲の散策を続けた。


 先ほど兵士がいたあたりを中心に歩いていると、小さな集落が見えてきた。

 だが少々険悪な雰囲気を漂わせている。


 僕は近くの草むらに飛び込んだ。

 よく観察すると集落の中心に人だかりができている。


 それは先ほどと同じ装備をした兵士が村人を囲っている異様な風景だった。

 

「おい!これで全員集めたか?」


 隊長らしき人物がほかの兵士をせかしている。

 

「隊長!こいつがこの村の村長だそうです。」

 初老の男性が強引に連れて来られる。


「お前、なんで俺たちが来たかわかってるよな?」

「な……なんのことかさっぱり……」

「しらばっくれてんじゃねえぞ!!」

 

 隊長は村長の胸ぐらを掴み、持ち上げる。


「タレコミがあったんだ。この村に匿われてるってな。敵国のやつがよ。」


 村長は目を逸らし、返答できずにいる。

 僕のいた世界では魔王への対処で人類は協力しあっていた。

 敵国か。

 この世界では国家間の敵対があるのか。

 

「ほ……本当に知らないんだ!手荒なことはやめてくれ!」

「居場所を言えば解放するって言ってるんだ。早く教えてくれよ。」


 しばらくやり取りを見ていると、小屋の裏から走り出す人影が見えた。

 

ーーー


「ここまで来れば、安心かな……」

 

 息切れしている。

 当然だ。

 長いこと走っていたんだから。

 人影はフードを深く被って、顔色がわからない。

 

「まだ安心できないと思うよ」


 僕は『隠蔽』の魔法を解いた。

 瞬間、頭部に打撃を受ける。

 フードの人物が思い切りのいい飛び蹴りをかましてきたのだ。

 

 しかし、僕は一切のダメージを負っていない。

 魔法使いなんて、前の世界では真っ先に狙われるんだ。

 肉体の強化に余念はないと自負している。


「な、なんで効かないの?絶対に倒したと思ったのに!」


 フードの人物は予想外の結果にうろたえている。

 

「待ってくれ、僕は危害を加えようなんて思ってないよ」

「嘘だ!周辺にいるのはみんな私を捕まえに来た奴らなんだ!お前も信用できない!」


 そういうと腰に差した短剣を抜き、僕に突きつける。

 本日二度目の剣だ。

 この世界はそんなに治安が悪いのか?


「あの兵士たちとは全く関係ないんだ。もし僕が君を捕まえに来てたなら、すぐに攻撃してたと思うけど」


 とりあえず敵意がないことを伝えないと。

 この世界での協力者は作っておきたい。

 

「確かに、王国の兵士には見えないわね。兵士なら武装しているはずだから」


 今の僕は物理的な武装を何も身に着けていない。

 魔法使いとしては、武器も魔法で作り出すべきだと考えている。

 剣でも持っていれば、警戒されて信頼を得ることができなかっただろう。


 僕とフードの人物が言い合いをしていると、周回している兵士に遭遇してしまった。

 やはりこの集落の包囲網はかなり広いようだ。


「止まれ!あ、お前さっきのやつか」


 出くわした兵士はさきほどの二人組であった。

 

「お前、そこのフードのやつをこっちによこせ。顔を確認する。これは重大な任務である。抵抗はしないでくれ」


 僕は一切構わないが、どうしたものか。

 フードの人物にここで手を貸せば協力的になってくれるだろうか。

 おそらく集落の行く先を案じた村人が逃がした子ども、といったところだろう。

 僕と敵対することはない。

 よし、ここは少し助け舟を。


「まあまあ。君たちはどんな任務を受けてるんだ?フードの彼が標的とかいうことはないんじゃないか……」

「いいや、村人は全員確認する。例外はない」


 さえぎるように兵士は反論する。

 聞く耳はないか。

 ここまで言うなら確認だけさせて追い返すか?

 兵士は続けて言う。


「おい、フードのお前、顔を見せろ。村人の人数はお前で最後だ。さっさとしてくれ、俺たちも仕事を終わらせたいんだ」


 しかしフードの人物は黙っている。

 何か引っかかるものがあるのだろうか。

 顔を見せるまではこの兵士たちも引き下がらないだろうし、手早くしてもらいたいが。


「見せても大丈夫なんじゃないか?この兵士たちも引き下がらないぞ」


 そう僕が言うと、彼はフードを脱いだ。


 今まで隠れていた赤い髪がすぐに目に飛び込んできた。

 そして彼の顔は端正に整っていて、とても女性的だ。

 いや会話しているときから思っていたが、声も高かった。

 なるほど。

 彼じゃなくて彼女だったのか。

 全身を覆うローブであったため気が付かなかったが、フードの人物は女性であった。


「は、お……お前だよ!俺たちが探していたのは!」


 兵士が血相を変える。

 

「おい、お前を連行する。敵国のくそ野郎め。ここで処断できないのがくやしいよ。」

 

 兵士たちは剣を抜き、彼女を攻撃しようと構える。

 彼女も短剣を構え、応戦しようとする。


 手荒な真似はしたくなかったが、こんな状況だ、もう仕方がない。

 兵士は他にも大勢いるし、こんな敵対的だと協力してくれそうにもない。

 この世界でうまく立ち回るには、まずは仲間か。


 僕は兵士二人が彼女に気を取られているすきに魔法を使った。


「『威光』」


「話を聞け。君たちは何も見ていない。誰かに言うこともない。そのままここを離れろ」


 精神魔法『威光』は相手が使用者を偉大なものと認識する魔法だ。

 完全な強制力はないが、兵士たちは言われたことを忠実に守るだろう。

 自分の尊敬するものから命じられたものを自ら守ることは深く自分を縛る。

 まさに”神”から話しかけられたような、そんな気分だ。

 成功のコツは命令する感じに話すこと。

 まあ、少し記憶改ざんの魔法も加えたけど、一応ね。


「わ……わかりました。それではこれで失礼します。」


 兵士たちは毒気を抜かれたように力なく、敬礼して去っていった。


「これで、僕のことを信用してくれるかな?」

「た……助けてくれたことは感謝する……一応王国とは関係ないくらいには信じてあげるわ」


 よかった、さすがに身一つで信用を得ることは難しい。

 魔法を使って強制するのは避けたいところだから、うまくいったな。


「僕はここらに来たばかりなんだ。いろいろと教えてほしい。こうみえてまあまあ強いから護衛になると思うよ」

「ここも結構田舎だけど、あんたどこから来たのよ。こんな辺境は旅しても通らないわ」


 

 ここって辺境の地なのか。

 確かに森林しかないけど、転移のはずれを引いたか?


「そんなことあとで教えてあげるから今は早くここから逃げないと、どうするの?」


 彼女は僕に尋ねる。


「そうだね。じゃあすぐに逃げようか。手を貸してもらえる?」


 僕は彼女に手を差し出した。


「な、なにする気?」


 彼女は怪しみながら手を重ねた。


「それじゃあ行くよ、『瞬間移動』!」


 僕が魔法を発動すると同時に僕たちは森林の入り口まで移動していた。


「な、なにこれ!え?さっきまで森の中だったのに!?」


 彼女は混乱しているようだ。

 この世界では『瞬間移動』はあまり知られていないのか?

 この世界の常識を知らないと悪目立ちする可能性がある。

 人前で見せるのは控えよう。


「さっきも見たと思うけど、僕は魔法使いだ。一緒にいる間、信用してくれるなら危害はできるだけ取り除くよ」

「わ、わかったわよ。助けてもらったし、あなたはひとまずいい人ってことにしてあげるわ」


 彼女はいまだに警戒しているが、その顔からは先ほどまでの緊張感はなくなった。

 

「僕は旅人なんだ。目的地に迷ってしまって、君はどこかにあてはあるの?」

「あー……私は……その、西にある帝国の出身なんだけど、そこまで同行してもらえないかな」


 ともに旅ができるだけで、ありがたい。

 この世界で魔法はどうなっているのか、世界はどう変わっているのか早く知りたい。

 そのためには現在の人間と接するのが一番だろう。


「よし。じゃあ僕は君が帝国に行くまで護衛する。君は僕にいろいろ情報を教えてくれ。この王国?に入ったのも最近でなにもわからないからね。」

「わかったわ!そうと決まれば早く行きましょう。まだ追手が来るかもしれないし、みちのりは長いから」


 僕たちは森林を後にして歩き始めた。

 彼女が故郷に帰るまでの間、ともに旅をすることになった。

 

「……ところで、君の名前はなんていうんだ?」

「私はエレーナ、エレーナ・アルグレンよ。あなたは?」


 そうだな。

 前の世界での名前がこの世界にどのように伝わってるかわからないから使えないよな。

 偽名でも使うか。


「僕の名前はクリス、よろしく」

「うん、よろしくね」


 僕たちの不思議な旅が始まった。

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