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6、聖女の本性、それは…


 小窓から差し込む陽射しが強さを増した。


 ここには魔力マナ時計もないので、差し込む陽射しの向きと色合いで時刻を計るしかない。おそらく午前十時ごろであろう。これまでの経験で言えば、そろそろ「イベント」が起きる時刻だ。


 案の定、階段を昇ってくる足音が聞こえてきた。


 99回聞かされた足音だ。


『ヒイロ。あなたは猫の姿に戻って、そこの戸棚の影に隠れていて』

『御意』


 白猫ヒイロがその身を隠すと同時に、部屋の扉が開いた。


 現われたのは──。

 


「ああっ、アルフィーナ様! なんとおいたわしい!」



 まばゆい純白の法衣に身を包んだ聖女──デボネア・ルア・ライトミスト。


 上等のミルクを溶かし込んだように白い肌。


 透明な湖を思わせる瞳の色。


 そして、霧のように淡い金髪。


 その美貌をひとことで表すならまさに「儚い」。ああ、儚い。男性ならば、誰もが「守ってあげたい」という騎士道精神にかられること請け合いの、か弱き乙女である。


 聖女はアルフィーナのもとへ駆け寄り、両手で包み込むように手を握ってきた。


「わたくし、此度のことは何かの間違いだと思っておりますのよ。貴女様がわたくしの暗殺を企てるなんて、そんなことあるはずがございませんもの。陛下も殿下もきっと何か思い違いをしていらっしゃるのですわ。このデボネア、大神ゼノスの御名に誓いまして、貴女様を擁護する所存です」


 これまでの99回と同じように、聖女然とした美辞麗句を並べてくれる。


「ありがとうデボネア。あなたの心遣い、とっても嬉しいわ」


 同じくお決まりの台詞で応えつつ、アルフィーナは彼女の心の声に耳を傾けた。


 すると──。



(ざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッみやがれッッ公爵令嬢クソフィーナ!! ッシャッシャッ!!)



 ……。


 ……いやいや、ちょっと待ってよ……。


 ッシャッシャッって、どんな笑い声なの?


 どこの秘境に行けばいるのよ、そんな声で鳴く鳥。見てみたいんだけど。



(は~~~もうたまんなぃわァ!! 辛抱たまらんわぁぁ!! このったない部屋にぶちこまれてガックシきてるその姿ぁぁぁ!! イケメン皇子をアタシに奪われた気持ちはどう? ねえ? 今どんな気持ち? どんな気持ちぃぃぃぃぃぃ? ッシャッシャッ!!)



 いや、ガックシきてるんじゃなくて、あなたの本性に呆れてるだけなんだけど……。


 心の声が筒抜けとも知らないで、聖女はその大きな目に涙まで浮かべて見せた。



「挫けず、最後まで希望を捨てないでください。きっと悪いようにはいたしません! ……ああ、それにしてもおいたわしい。わたくし、涙が止まりませんっ……」

(ダメ、ダメよデボネア……まだ、まだ笑っちゃだめなの……笑うのはこの女の首がぽ~んするその瞬間なのよ……し、しかし……ぶっ……ぶひッ……わ、笑いが止まんなァい♥)



 ……なんか、ブタの鳴き声まで聞こえたような……。


 外見とは真逆の女だとは思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。涙は絶対演技だろーなと、99回思ったものだけれど、まさか笑いをこらえていたなんて。「真実は神話テーバより奇なり」とは祖母の言葉だが、まさに言い得て妙だ。


 清らかな外見とはまるで異なる、ド汚い心。


 儚き聖女様の内面は、とんだブタさんだったわけだ。





 さめざめと泣きながら聖女が去った後、身を潜めていたヒイロが出てきた。


『いかがでしたかアルフィーナ様。かの聖女の〝本心〟は』

『想像を絶したわよ!』


 絶世の美少女であろうと、一皮剥けばこんなものか。


 心の中まで清くあるのは、美の女神ディーテの寵愛をもってしても難しいようだ。


 いくら光魔法が強力とはいえ、こんな腹黒女に騙されてしまうこの国の男たちって……。


『あんなブタさんに壟断されちゃうような国、もう長くないでしょう。とっととおさらばしたいわね』

『御意です』


 こんな聖女に牛耳られた帝国と、関わり合いになるのはまっぴらごめん。


 一刻も早く絶縁して自由を手に入れたいと思う。


 そのためには、身代わりに処刑されてもらう「依り代」を死形執行日までに用意しなくてはならない――。

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