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拳をふるうホムンクルスちゃん

 キラキラと飛び散った欠片が消えていくのを眺めながら、私は再び拳を握りしめる。一度目よりも、きつく。


 わなわなと、握りしめた拳が震える。


「そうですか。それがパパからの仕打ちですか。どちらを選んでも後悔するかもと覚悟は決めていましたが、こんな形で出鼻を挫きますか──これはもう一発、殴る回数を追加です」


 沸き上がる怒りの感情のままに、握りしめた拳をつき出す。シュッという空気を切る、軽い音がなる。


「おっ、とっと──あれ、何か違うんでしょうか?」


 体がよろけていた。


 腕だけの力でつき出した割に、拳には勢いがあったようだ。それに殴る姿勢も間違っている感じがある。

 詰めこまれた知識をあらためて参照すると、殴るにも色々と技術がいるようだ。


 そして何より、どうも私には平均的な同じ体格の人間より筋力がありそうだった。


「パパの故意か過失かはわかりませんが、スキルが手に入りませんでした。つまり、他の身を守る手段は必要です。何よりも生き延びて、パパを殴るときには最高の威力の拳を、あの顔に叩き込みたいです」


 私は知識を元に、そう呟きながら軽く左右の拳をつき出してみる。左の拳の時の方が僅かに動きに違和感がある。


「私は右利き、ですか。だとすると、こう?」


 左肩が前にくるように、体を斜めに構える。

 きゅっと脇をしめるようにして顔の前に手を近づけ、ふんわりと拳を握る。


 呼吸のリズムを意識。息を吐ききった瞬間、左拳を前につき出す。

 腕を伸ばしきる直前、拳を握りこむ。


 先程より鋭い、空気を切る音。

 すぐに拳を引き戻す。


「うーん。まだ拳の軌道に無駄があります」


 そこから何度も何度も、呼吸と拳の軌道に意識を割きながら、左の拳のつき出しと戻す動作を繰り返す。


 拳の先には、あのむかつく嗤い顔を想像しながら。


 徐々に徐々に、空気を切る音がより鋭く、短く変化していく。嗤い顔が、私の一撃ごとに歪んでいくのを想像する。


 少し楽しい。


 その時だった。私の拳が起こす風の音に、僅かに異音が混じる。

 風が、まるで何かがぶつかったかのような僅かな音の変化。

 無意識のうちに、体の向きを少しかえる。

 次につき出した拳、ちょうど腕を伸ばしきったところで何かが当たる。


 パンッという肉を打ち付けたような音。

 左拳に伝わるどこか心地よい衝撃。


 何かが、朽ち果てかけた研究室の壁に激突。そして壁材がボロボロと崩れる中、急に現れる姿。


 それは私よりも小柄で、醜悪な緑色の人型をしていた。


「──ゴブリン?」


 私の知識の中で一番近い名前を呟く。しかし姿を消せるゴブリンについては、知識に無い。

 私が殴り飛ばしたゴブリンが、顔を大きく腫らしてふらふらしながらも立ち上がってくる。


 ──どうせパパのことですから、姿を消せるゴブリンの事もわざと知識に入れていないはず。であれば目の前の存在は、敵です。


 私はいまだにふらふらとしているゴブリンに駆け寄ろうと踏み出す。

 体が軽い。

 そして踏み出した一歩で、体が一気に加速する。


 あっという間に目の前に迫る、ゴブリンの姿。


 ──このまま殴ると拳が痛いかもしれません


 ふとした思い付きで、体を横向きに変えながら右拳を左手で支え、右肘を前につき出す。

 そのまま右肘をゴブリンの鼻っ柱へと突き立てる。


 ぐちゅっという、何かが潰れる感触がした。







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