プロローグ 「始動」
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「──して、全く残念ながらこの俺がお前らの担任となった者だ。精々1年間苦悩させないでくれ」
茶髪に緑の瞳を持つ、傍から見たら正にイケ男と評されるような凛々しい姿の男は教室中の生徒を一人一人見ながらそう言った。
ここは、魔法学園「ポートレンド・アドロス」。
卒業生の実績、学力、様々な有名所とのパイプの多さ、制服の可愛さ、食堂の美味さと全てが魔法学園全体の中でもトップクラス……いや、No.2に値する超有名校であった。
逆に言えば何でもNo.2なのである。
この学園はあらゆる分野でも1番を取ったことがない、何ともまぁ惜しい所なのである。
「先生さぁ、自己紹介する前に言うことがそれかよ! 」
明るく元気さMAXの、男の子がそう言った。
すると「担任」となった男は眉をひそめた。
「寧ろ他に言うことはあるというのか? 悪いが俺はここのクラスの担任になったのが誠に嫌だ」
またしてもクラス中からはブーイングが湧く。
それもそのはずだ。
折角の高校生活初日に担任となる男にいきなり嫌がられているのだから。
しかし、その一方で生徒達は何故、担任が自分たちのクラスの担任をするのが嫌なのかも半ば察していた。
アドロス校は中高一貫である為、高校から入ってきた外部生を除くと皆、3年間を既に同じ中学で過ごしている。
その中学校生活終盤で、高校でのクラス分けテストが行われた。
成績上位者から順に上の組から下の組へと振り分けられる。
そしてこのクラスは1番下の組。
少なくともこの高校では最底辺なのである。
ので、担任の男が嫌がるのも生徒たちは察していたのである。
「......まぁいい。では自己紹介を始める。まず、俺から行かせてもらおう。俺の名はアドレード・ティーチルドだ。......以上」
あまりの自己紹介時間の少なさに生徒たちは漫画のようにずっこけた。
「先生〜。もっと何かないんすか?ほら、所持能力や彼女歴とか学歴とか、結婚歴とか〜」
真っ黒頭の男の子が冷やかすと他も一気に冷やかし始めた。
「先生、年齢はお幾つなんですか?」
「5月にやる中間考査の範囲教えてくれよ」
「炎系魔法とかって使えますかー?!」
さっきまでは何とか高校生らしさを保っていた生徒たちは一転変わって質問をまくし立てる幼い子供のようになっていた。
するとアドレードはまたも眉をひそめて「静かにしろ」と皆に響き渡る声で言った。
貴方は恐ろしいモンスターか何かですかと言わんばかりの声色に生徒たちは一瞬で静かになった。
そしてアドレードは何かの意志をもった目で皆を見据えて口を開いた。
「だからお前たちは駄目なんだ。そんなんじゃ、上の組に勝てやしないぞ」
「「「は? 」」」
アドレードの言葉に生徒たちは困惑し、そしてその1秒後に......大笑いした。
「ぎゃはは! 先生おもしれぇ! 」
「冗談なのにガチっぽい顔してる! 演技力あるなぁ! 先生、今度その演技力教えて下さいよ!」
「つーか俺らが成り上がるのは無理だ......『無理だと言うのか?』」
アドレードは言葉を途中で遮ってそう言った。
「お前たちはバカにされているんだぞ。学年中の奴らから。生徒一人一人の長所を測るようなテストをした訳でもないのにだ」
アドレードの迫力に皆、沈黙するも勇気ある金髪少年が恐る恐ると先生の目を伺いながら小さく呟いた。
「まぁ、......学校側が決めたテストだし......」
しかし、その言葉をアドレードの地獄耳は聞き逃さなず、更に口を開いた。
変わらず意志の篭った目で。
「雇われている立場だからこう学校側の事を批判したくは無いが、実際以前行われたクラス振り分けテストの評価方法はおかしい。どうにも筆記の方に偏っていて実技の評価が低かった。実際、魔法使いに一番大事なのは知識ではなく実践であるというのに」
アドレードはそう言った後、大きな声で誓った。
「俺はこの1年でお前らの腐った根性を叩き直し、立派な魔法使いに育てる。何故そんな事をするかというと......」
皆、次の言葉に固唾を飲む。
この人は「自分たちには真の才能がある!」とかなんとか言ってくれるのではないかというほんの少しの期待を込めて。
しかしその期待は一言で無に返った。
「実績を認められる為と給料アップの為だ」
皆がまた漫画のようにずっこける中、アドレードは「今日は挨拶だけなので解散」と言って教室を出ていった。
アドレードが居なくなった途端、クラスの雰囲気はどよめきだらけのパニック状態。
果たして何がどうなるのか?異世界学園での生活が今始まる。
お読み頂きありがとうございました。