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交流会



「さぁ、今日からやっとお勉強できますね」


 アンナは意気揚々とキール殿下に向かい合っていた。

 コイン勝負に勝って、アンナはスッキリとした気分だ。不正勝ちのままにしなくて本当に良かった思う。


「正直に白状するけど、暗記系はほどんどやってないから。言語は普通、計算は得意な方」


 キール殿下は以前が嘘みたいに、従順な様子だ。何だか懐いてくれたみたいで、胸がそわそわしてしまう。なんだろう、思い切り頭をわしわしわしって撫でたい気分。まぁ、そんな無礼なことはしないけど。


「アンナ? 固まってどうした?」


 キール殿下がじっと見つめてきている。そんな熱視線、向けられたら困るー!

 いかん、また心の中が暴走気味だ。落ち着かねば、とアンナは自分に言い聞かせる。


「いえ、やっとお勉強していただけることに、感激しておりました」


「……そう。なんか、今まで悪かったよ」


 視線をそらしながら、小さな声で謝るキール殿下。

 ふぁー、みなさま! 見ました? 最高の瞬間ですよ! ツンデレがデレてますわよ! 波状攻撃が凄まじい!


「うぐっ、で、でんか、それでは、まずは学力テストをしますわ。各教科どの程度なのか、見させていただいて、カリキュラムを組ませていただきたいと思います」


 アンナは、ぐっと奥歯を噛みしめてこらえて話した。


「……ふふっ、そっか」


 キール殿下が何故か笑った。何故に? なんかおかしなこと言った?とアンナは少々焦る。


「わ、わたくし、何かおかしなことを言ったでしょうか?」


「いや、よく見ると分かるもんだなって思っただけ」


 な に が ?


 キール殿下の言葉の意味が分からなさすぎる。


「キール殿下? あの、仰っている意味が分かりかねるのですが……」


「気にすんなって。それより、テストするんだろ?」


「えぇ、まぁ、そうですわね」


 要領を得ないまま、仕方なく用意していたテストを渡すアンナだった。





 テストの結果は、なかなかに激しいものだった。殿下の事前申告通り、得意と言っていた計算系はほぼ満点。だが、言語は王族として身につけておくべき第二外国語(隣国の言語)と古代語が出来ていない。そして、もっとも致命的なのが歴史だ。もちろん、勉強してこなかったのなら壊滅的なのも仕方ない教科ではあるが。実に、出来るものと出来ないものとの差が激しい。


「これは……効率的に覚えるところをピックアップしていく必要がありますわね」


 理数系が苦手なら、公式の使い方などを教えればそれで片付くのだが。逆に文系だと教えるのが難しい。時間をかければもちろん成績はあがるだろうが、まずは留年させない為に要点を押さえてスピーディーに教えていかなくては。


「なぁ、もうすぐ交流会だろ」


 今後のカリキュラムを高速で考えていたアンナに、手持ち無沙汰そうなキール殿下が話しかけてきた。


「そんな季節ですわね」


 交流会とは、国聖学園の行事の一つだ。入学してしばらく経った頃(一年生が学校に慣れた頃)に行われる。学年も、生徒や先生、事務員など、学園に関わる人々の交流を図ろうというもので、パーティーがあるのだ。ここに集うのは貴族の子息令嬢たちなので、いずれ参加するであろう舞踏会などの予行演習も兼ねている。


「どんな感じ?」


「そうですわね、プチ舞踏会って感じでしょうか。キール殿下はもう王宮での舞踏会に参加されているのでしょう?」


「出たことはあるけど、誰かをエスコートしたことないし」


 なるほど。初めてのことに不安なのか。しかも、王子殿下ということで、注目を浴びるのは必至。ここは年長者として、スマートに教えてあげないと。


「昨年ですと……」


 意気揚々と昨年の話をしようとして、アンナは口ごもった。

 なぜならば、去年はアンナのエスコートを巡って男子生徒達が乱闘騒ぎを起こしてしまったのだ。争いを治めるために、仕方なくアンナは校長先生にエスコートを頼んだという経緯がある。校長、つまりこの学園内で一番偉い人だ。その人が相手ならば誰も文句は言えない。そう考えての選択だった。そのせいで、校長先生に頼まれ事をされると断りにくくなったのだが。


「どうした、アンナ。去年なんかあったのか?」


 怪訝そうに眉を寄せたキール殿下。


「いえ、その、何も、ございませんわ」


 いくらなんでも、自分のせいで乱闘騒ぎが起こったなどと知られたくない。


「ふーん」


 疑わしそうな視線に、アンナは居心地が悪くなる。


「ならさ、アンナは去年、誰にエスコートしてもらったんだ?」


 ぎくっ

 そこ聞きます?


「ええーと、その、何と言いますか、いろいろありまして、生徒の方ではないのです」


「は? どういうこと?」


「わたくしは校長先生と一緒にダンスを踊りましたの。その、エスコートの相手が居なくて困っていらっしゃったので」


 校長先生、記憶を改ざんしてしまいました。ごめんなさい。

 本当は校長先生、面白くて人当たりが良いうえ、見た目もイケオジだから人気者なんだけどね。


「そんなこと許されるのか! セクハラだろ」


 キール殿下は机をバンッと叩くと、立ち上がった。

 え、そんなに問題にするところなの?


「いえ、殿下。交流会とは、先生や生徒の垣根も越えてみんなで交流しようというコンセプトですよ。別にハラスメントなどはありませんわ」


「で、でも……アンナだったら申し込む人がたくさん居ただろう。それなのに、なんで校長と?」


「もう一年も前のことですから、詳細は忘れてしまいましたわ」


 ほほほ、とアンナは笑いで誤魔化そうとする。


「だったら……今年は、どうするんだ?」


 キール殿下が、伺うように見上げてくる。

 なんなの、可愛すぎるんですけど! 飼い主の指示を待ってる子犬のよう。


「何も決めていませんわ。まだどなたからもエスコートの申し出はありませんし」


 去年のことがあるから、みんな申し込んで良いのか図りかねているらしい。アンナとしては、そうやって尻込みしていてくれた方が平和で嬉しいけれど。


「そうか!」


 キール殿下はパッと笑顔になると、調子外れな歌を口ずさみながら、間違えた問題を解き直し始めた。


 この反応、もしかしてキール殿下はアンナにエスコート相手が決まってなくて喜んでるのだろうか?

 まさかね……。

 第二王子のエスコート相手は、公爵令嬢くらいでなければ務まらないし。そもそも、勉強を教えるといった以上の距離感になってはダメだ。神様ボーナスのトラップに引っかかるわけにはいかないのだから。


 一抹の不安を感じながら、アンナはキール殿下がつかえた問題の説明をするのだった。



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