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いざ勝負


「はい。わたくしが勝ったら、お勉強してください」


 勉強することをかたくなに拒否するキール殿下に対し、アンナは勝負を挑んだのだった。


***


 翌日、アンナとキール殿下は図書準備室にいた。


「んで、勝負ってこれ?」


 目の前の机にはトランプが置かれている。

 この世界にもトランプは存在していた。ただし、数字が多く15まであるけれど。


 そして、アンナは一晩考えた結果、すばらしく良い作戦を思いついたのだ。この世界に存在するトランプゲームではなく、前世でしか存在しないトランプのゲームをしようと。こちらのゲームだと負ける可能性もあるが、前世でのゲームならキール殿下は初めて行うことになる。どう考えても、アンナに分がある。


「トランプで勝負いたしましょう。これなら、体力も学力も関係ありませんでしょう?」


 にこやかにアンナは申し出る。


「まぁ、確かに」


 トランプを手で弄びながら、キール殿下は答える。どうやら何か細工がされていないか確認しているようだ。うん、用心深い。やっぱり、王子としての危機察知行動が身についている。


「では、承諾いただけたと思ってよろしいですか?」


「あぁ、いいよ。何で勝負する?」


 キール殿下も、腹をくくってくれたようだ。


「異国で流行っているという『7並べ』というものは如何でしょう?」


「なにそれ。聞いたことないんだけど。スコパとか、ジンラミーとかじゃなくて?」


 キール殿下は首を傾げた。髪がさらりと揺れ、不思議そうな表情が少し幼さを醸しだしている。


 アンナは年下イケメンの可愛らしさに、写真を撮りたくなる。が、この世界にカメラはない。非常に残念だ。いや、違う。これでいいのだ。下手に写真など手元にあったら、コレクションしてしまいそうで怖い。


「7並べのルールは簡単です。7を基準にして順番に数字を並べていくだけ。先に手持ちのカード全てを並べた方が勝ちです」


「たったそれだけ?」


「そうです。シンプルで分かりやすいかと」


「まぁ確かに」


「では、勝負は7並べで。わたくしが勝ったら、お勉強していただきますからね」


 アンナは微笑みを浮かべる。


 そして、30分後。アンナの微笑みは無残にも散ったのだった。


「え、キール殿下、なんでさっさとハートの10を出して下さらないのですか」


「だって、まだ別のところに置けるカードあるし」


「うぐっ……パスですわ」


「出すとこなかったらパスなんだ。パスは何回でも良いの?」


「えーと、わたくしがやっていた時は3回までというルールでやっておりましたが、このあたりは明確なものはありませんわ」


「じゃあ、3回までね。アンナは1回使ったからあと2回」


 キール殿下はニヤニヤとアンナを見てくる。

 あぁ、そんなちょっと腹立たしい表情も、イケメンがやると腹も立たない。


 その後も、アンナの劣勢は続いた。そして、ついに――


「ぱ、ぱす……ですわ」


 アンナはカードを握りしめたまま、机に突っ伏す。


「はい、パス3回目。アンナの負けね!」


 キール殿下に言い渡され、がっくりとアンナは肩を落とした。


 まさか、こんなにあっけなく負けるだなんて。キール殿下の予想外に巧みな駆け引きに、まんまと踊らされてしまった。

 どうしよう。自分が勝つ気満々だったから、負けたときのことを考えてなかった。こういうところが、前世でも詰めが甘いって友人達から指摘されてたのよね……と今ごろ思い出しても遅い。


「じゃあ、アンナの要望には応えなくてもいいってことだな」


 キール殿下は嬉々として、トランプを片付け、立ち上がってアンナのカバンに入れた。そのままアンナのカバンを持つと、図書準備室の扉を開ける。


「さぁ、帰ろう」


 無邪気さいっぱいのキール殿下。

 勝者の言葉に、敗者は逆らえず。アンナはとぼとぼと寮まで殿下に連行されていくのだった。




 寮に戻ったアンナは、自室に入ると同時に床に膝をついた。


「負けたわ! どうしたらいいの。もうノープランよ!」


 今世では美しい容姿に、勉強の出来る頭脳を神様に与えてもらった。おかげでモテるし、学年の主席を取れた。けれど、元々の残念さがアンナの足を引っ張る。人生を生き抜く賢さが足りないのだ。

 本当に賢い人間は、第二第三のプランを用意しておくものだ。けれど、アンナにそんなものはない。


『詰めが甘いにゃー』


 クロがベッドの上で伸びをしながら言ってきた。

 神様からお供に付けてもらったけど、話し相手以外に役に立たないクロに言われると腹が立つ。


「そう思うんだったら、何か良い案ちょうだいよ」


『んにゃー、色仕掛け』


「えっ? なんて言った? なんか空耳が聞こえた気がする」


『だから、色仕掛けで――』


 最後まで言う前に、アンナは枕を投げつけた。


『ふぎゃっ』


「そんなこと、絶対にしないから。私はこの世界では、そういうこと一切しないって決めてるの。クロも知ってるでしょ!」


 聖女になるのに、純血、つまり処女は必須ではない。この世界での聖女とは、職種の一つにすぎないからだ。だから離婚して稼がなくてはならなくなった女性などでもなれる。でも、大聖女になる人物だけは、純血でなければならないという(今では形式的なものらしいが)でもどうせ目指すなら、てっぺん目指したいではないか。大聖女になれば国王ですら無我には扱えない、つまりこの国での自由が手に入るのだ。


 それに……こちらの理由の方がアンナにとっては大きいのだが、前世で死ぬ直前に言われた言葉が、トゲのように心に刺さっている。浮気男に別れ際、中途半端に真面目なところがウザかったと言われた。ならば、今世では徹底的に真面目になってやろうと決意したのだ。だから、男女のふれあいなど、結婚もしてないのにするなどもってのほかだ。(そもそも大聖女を目指すつもりだから結婚する気も無いけど)


 アンナは、内心では大いにイケメン相手に動揺してきたが、行動は一貫して淑女そのもの。イケメン好きが暴走しないよう、常に己を必死に戒めてきた。


『そんなに怒ることにゃいのに……アンナが頬を染めて手でも握ってやれば、大抵の男は落ちるにゃ。それくらいのスペックを余裕で持ってるのに使わにゃいなんて、宝の持ち腐れにゃ』


「男に頼らずに生きていくつもりなんだから良いのよ、それで」


 アンナは鼻息荒く言い返す。


 すると、自室をノックする音がした。アンナは慌てて立ち上がり、髪の毛や服装を整えてからドアを開けた。


「アンナ、お帰り。今日こそはいろいろ聞かせてもらうからね」


 ナターリアがお菓子を両手に抱えて立っていた。


「な、なにを、でしょうか」


 興味津々なナターリアの様子に、若干、背中に冷や汗がながれる。


「最近、すごい噂だよ。アンナが王子の婚約者に内定したんじゃないかって」


「……?!」


 嘘でしょ!

 ま、まさか、そんな噂がたっているだなんて。

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