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スイカズラ

作者: うみ

こんにちは。



突然、声を掛けられた。

私はびっくりして、声のした方へ振り返った。

制服を着た女の子がこちらを見て微笑んでいた。

平凡な顔立ちのその女の子は、どこか懐かしく、そしてとても眩しい子だった。


なぜかうまく言葉が出なかった。何を言ったらいいのかわからない。ただ状況がのみ込めないだけかもしれないけど。


そんな事を気にもせず、女の子は微笑んだまま私に話しかけてくる。


ー見つけた


ーえ?


見つけた?どういう事?頭の中ははてなでいっぱいになった


この子は誰?


ーねえ、あなたの名前は?


わたしのなまえ…


ーわからない


わ た し は だ れ ?


この子だけじゃない。

わたしはだれ?

わたしはなぜここにいるの?


何もわからない状況に、急に不安が押し寄せる。


そんなわたしを包み込むかのように彼女はわたしの手をとってくれた。


ーお願い消えないで…。あなたは消えないで…。


ーどういうこと?


彼女はゆっくりと首を横に振った。


ーううん。また会いに来るわ。それまで待っていて。





※※※※※※



ピ・ピ・ピ・ピ


無機質な機械音が、これまた無機質な部屋に響き渡っている。


目の前には、愛しい彼女が白いベットに横たわっている。


ーーーおそらく、もう彼女の意識は戻らないでしょうーーー


医師にはそう宣告された。

脳死状態だそうだ。

心臓が止まるのも時間の問題。


わたしはもうだれも失いたくない。

もうこれ以上自分の大切な人をわたしのせいで失くしたくない。


初めは両親だった。

火事により倒れてきた柱からわたしを守ろうとして、両親はわたしの代わりに潰されて燃えてしまった。…わたしの目の前で。


そんな辛い過去を持ち心を閉ざしたわたしに、優しく接してくれたのが彼女だった。


彼女も天涯孤独だった。

そんな彼女のお陰でわたしはここまで生きてこれた。


いつしかわたしの中で、彼女は特別な存在になっていた。


壁に寄りかかっていたわたしはコツン、と壁に頭を当てた。


そんな特別な彼女も、歩道へ乗り込んできた暴走車からわたしを守るためにこんなことに。


わたしは死神なのかもしれない。


みんなわたしの手から溢れて行ってしまう。


もう一人にしないで。

あなたがいない世界でわたしは生きていけない。


ーーーわたしも今から行くね。


ベットに近づき彼女の手を取り、そっと額に口付けをする。


そしてゆっくりと屋上へ向かう。


屋上へ出ると、きれいな空が視界いっぱいに広がった。


あなたと会ったのも、こんな風に天気のいい日だったね。


あなたのお陰でわたしは笑顔になれた。

わたしはあなたの隣でいつまでも笑っていたいの。




今から行くねーーーーー









※※※※※※※※※



愛しい彼女が見えた。



ーーーお待たせ。


彼女は勢いよくこちらを見る。

とても不安そうな顔だ。


そんな彼女に、わたしは笑顔で手を差し出す。


ーーー行こう。



ゆっくりと手を伸ばしてくれた彼女の手を取り、私たちは青い空の向こうへ歩きだした。



ーーーーずっと一緒だよ。



ーーーーうん。








スイカズラ(ハニーサックル)。花言葉は「愛の絆」「友愛」

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