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21話

 私の半ギレがどこまで伝わったのかは知らないけれど、騎士団長閣下は若干の苦笑を挟みつつも話し始めた。


「当訓練は王家の協力を賜って実施する合同訓練です。その目的は大きく分けて三つ。特殊作戦隊に実践を想定した暗殺経験を積ませること。護衛騎士に、同じく実践を想定した対暗殺経験を積ませること。そして最後に、王家に暗殺を企てられた際の対処法を学んでいただくこと。この三つになります」


 まあ、そんなところでしょうね。

 その特殊作戦隊ってのが、私達を何度も襲ってきた暗殺者のことか。何をする隊なのかってのはあえて聞くまい。私のような小娘が知らないほうが良いこともある。


「当訓練は極めて実戦的な方式で実施します。仔細は省略しますが、姫様と護衛騎士は日中の間、街中で自由に行動していただきます。特殊作戦隊が姫様及び護衛騎士に対して襲撃を企てる、といったのが大まかな作戦の骨子です。姫様が着用されている護身用魔道具が作動した時点で、当訓練は終了となります。ここまではよろしいでしょうか?」


 ああ、なるほど。だから暗殺者はナイフに毒を塗らなかったんだ。

 要は彼らは、姫様の護身用魔道具を作動させるだけで良い。ナイフを突き立てた時点で目的は達成されるんだから、別にナイフに毒を塗る必要なんてものはなかった。


「はぁ……。街中で訓練ですか。いくらなんでも不確定要素が多すぎませんか?」

「それも含めての訓練です。基本的には、よほどのことが無い限りはどんなイレギュラーがあっても続行します。実戦ではそんな言い訳は通用しませんので」


 もちろん今回のように民間人が深く関わることもあるでしょうね、と、騎士団長様はおっしゃる。言わんとすることはわかるけども。実際に巻き込まれた民間人としては、釈然としなかった。


「二つ、質問があります」

「機密に触れない範囲でお答えしますよ」

「ありがとうございます。まず一つ目、襲撃を受ける際に、私は度々強い殺気を感じました。あれはとても偽物だったようには思えませんが」

「ああ。これですか」


 その瞬間、騎士団長の雰囲気が変わった。

 通信魔道具越しに伝わる、刺し殺すような威圧感。強力な武力が目の前にあるという恐怖。それを向けられて、私は、思わず小さく声を漏らした。

 数秒ほどのことだったと思う。だが、騎士団長がそれを消したとき、私は荒く息を吐いた。


「失礼しました。少々刺激が強かったようですね」

「う……。それ、何の訓練も受けてない、民間人に、向けて良いものじゃないですよ」

「これはまだ訓練用ですよ。実戦では、これよりももっと苛烈な殺気を向けられることがあります」


 これで訓練用なの……? 私は眼の前でこれやられたら頭真っ白になるんだけど……?

 この人が言う実戦とやらにはできるだけ近づかないようにしよう。息を整えながら私は固く誓った。


「それから……。襲撃者を捕縛すると、彼らは決まって毒を飲んで自死しようとしました。あれも訓練だったのですか?」

「ああ、あれは毒ではなく仮死薬です。一見死んだように見えますが、二時間以内に解毒薬を飲むことで息を吹き返しますよ」

「二時間を過ぎたらどうなるんですか?」

「本当に死にます。もちろん、それも含めての訓練ですので。ここで仮死薬を飲めないものは、実戦でも飲めないでしょう」


 あ、これ機密情報です。なんてことを軽く言う。目眩がしてきた。暗殺者御用達のお薬なんて知りたくなかったぞ私は。


「二度目に遭遇した暗殺者は、本当に死んだように見えましたが………」

「彼も後ほど息を吹き返しましたよ。ですが、今はまだ療養中です」

「え。まさか、後遺症があるのですか?」

「いえ。あなたに負けたというのがショックで寝込んでおります」

「…………。お大事にと、お伝え下さい」

「承知しました」


 ……まあ、うん。命に別状がないならどうでもいいや。さすがにそれ以上は付き合ってられない。


「だったら、私が腹パンする必要も無かったんですね」

「そんなことはありませんよ。いくら蘇生できると言えど、仮死は決して気分が良いものではありませんので。あの薬を飲まなくて済むという意味で、あなたの腹パンは大好評でした」

「本当に気持ち悪いのでやめてください」


 すごく嫌な感じの評価を頂いてしまった。すごく嫌だなって思った。

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