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18話

 おじいさま直々に指令を賜ってしまったので、私は片付けることにした。

 いっちょ解決してやりますか。美少女探偵ディティクティブ☆ルーチェの手にかかれば、こんな事件はぱぱっとお掃除完了だ。


「皆さんに聞いて欲しいことがあります」


 道具屋クローバーにお集まりの皆様を集める。シルルちゃん、カルロさん、リオンさんの三人の目線をもらった。


「あの……。ルーチェさん?」

「なんだいシルルちゃん」

「ご加減はいかがでしょうか。無理はなさらないでくださいね」

「ノンノンノン。心配は無用なのですよ」


 なんだか妙なテンションになっていた。シルルちゃんどころか、カルロさんリオンさんまで心配そうな顔をしていたけれど、そんなものは気にしない。よくわからないけど素敵に無敵な気分だった。


「お嬢、本当に大丈夫か? 少し休んだほうが良いんじゃないか」

「何言ってんの。実家にまで敵が来てるってのに、どこで休むって言うのさ」

「それはそうだけどよぉ」


 カルロさんは困ったように頬をかいた。うん、やっぱりおかしい。いくらなんでも緊張感がなさすぎる。


「とにかく、私はこの襲撃を片付けることにしました。毎日毎日暗殺者とどつきあうのにも飽きたでしょ。飽きてない? 私は飽きた。いい加減平和で平穏な日常が恋しいんだ」

「片付けるって、本気か? それ本気で言ってんのか?」

「本気で言ってる。黙って待ってればそのうち衛兵や騎士がどうにかしてくれると思ってたけど、全くそんな様子もないじゃん。もう自分でやるしかないよ」


 カルロさんは目を丸くして、それから盛大に吹き出した。なんだなんだ、何を笑うことがある。ルーチェさんは本気だぞ。


「すまん、つい笑っちまった。すっかりへこたれてるもんかと思ってたが、お嬢は本当に肝が据わってんなぁ」

「それは褒められてるのかな」

「褒めてる褒めてる。怯えるどころか逆襲しに行くとは恐れ入った。面白い、俺は乗るぜ」


 カルロさんは豪快に手を叩いて笑う。その一方で渋い顔をしていたのはリオンさんだ。


「カルロ、俺達の任務はあくまでもシルル様の護衛だ。その本懐を忘れてしまっては困る」

「でもよ、お嬢の言うことももっともじゃねえか。正直ここまで長引くとは思ってなかっただろ? だったら、この状況では打って出るのも正解だと思うぜ」

「だが、それでシルル様の守りが薄くなってしまっては元も子もない」

「ああ、もちろんだ。シルル様を守り抜くのは絶対条件。反撃はその上でやる。お嬢、そうだろ?」

「え、あ、うん」


 うーん。これも違和感がある。「ここまで長引くとは思ってなかった」だとか、「この状況では」だとか。まるで俯瞰的な視線からの言葉のようにも聞こえる。


(……やっぱり、そういうことなのかな)


 未だに自分で導き出した結論に自信が持てずにいるけれど、この態度を見ていると、矛盾は無いように見える。

 まあ、確かめれば済むだけの話だ。


「で、お嬢。反撃って言っても具体的にどうするんだ?」

「実はまだ、どうするかについてまでは考えてないんだけど……。まずはシルルちゃんを繰り返し襲撃するこの敵の正体について暴こう」


 姫様の身体が少し跳ねた。

 大丈夫大丈夫、安心してよ。暴くと言っても姫様の正体を暴くつもりはないから。いやあ、姫様は一体どこの姫様なんだろうなぁ。ルーチェさんは全くわかんないや。


「まず大前提だけど、敵の目的はシルルちゃんの暗殺だと思う。つまり私たちは、暗殺者と戦っていたってことだ」


 内心違うとは思ってるけど、説明もできないのでそういうことにしてみた。

 敵の真の目的はまだおぼろげにしか見えていない。それを確かめるためには、ひとまずそういうことにしておく必要があった。


「そうなんですか!? 私を暗殺しようとしているなんて全くわかりませんでした! これは驚きです! だって私には暗殺される理由なんて無いのに!」

「…………」


 台本でも渡されてんのかってくらいの棒読みだった。シルルちゃんには演劇の才能が無いらしい。

 仕方ないな。ここは乗ってあげよう。


「驚くのも無理はないけど、大丈夫だから。安心して」

「いや、ここで驚くのは無理があるんじゃないか?」

「カルロさんは黙ってて」


 空気読め護衛騎士。もし何かの間違いで、シルルちゃんの正体が姫様だってことが私にバレたらどうするんだ。せっかくお忍びで来てるんだぞ。内緒にしなきゃダメでしょう。


「で、私たちはそのシルルちゃん暗殺者と複数回交戦し、捕縛にも成功している。顔も見たし、装備を押収したこともある。でも残念ながら、それらの情報の中には決定的なものは無かった」


 私達の敵は、間違いなくプロだった。

 たとえ捕縛されたとしても、正体に結びつく情報は絶対に漏らさない。さすがに拷問はしていないけれど、もしやっていたとしても何も情報は得られなかっただろう。その徹底っぷりには私もさすがに変な笑いが漏れる。

 困ったようにカルロさんが頭をかいた。


「だよなぁ……。なんか敵の正体につながる証拠があればいいんだけどよ」

「ああ、そこは大丈夫。確かに決定的な証拠は無かったけど、敵の正体なら推察できるから」

「あ? なんでだ? 証拠はなかったんだろ?」

「確たる証拠はね。でも、些細な証拠ならいくらでもあるから」


 決定的な証拠が掴めなかったのは残念なんだけど、相手は推察するには十分な情報を落としている。

 相手は間違いなくプロだった。ただ一点プロらしくなかったことはと言えば、襲撃を複数回繰り返したことだ。

 これだけ相手と接する機会が多ければ、見えてくるものなんていくらでもある。


「まず暗殺者の人種はこの国の人が多かったから、この国に根付いてる組織だと思う。もう一点、押収した装備はどれも特徴のない均質的な装備だった。つまりこれは、均質的な装備を支給できる規模の組織だってこと。数十人を越える暗殺者に高度な訓練を施し、均質的な装備を支給できる。ざっと得られた情報でもそこまでは分かるよね」

「……は?」

「ぶっちゃけ、これだけでもう大分正体は絞り込めるんだけど……。もう一つ手がかりがあるんだ」


 カルロさんは目を二度瞬く。リオンさんも珍しく驚いていた。そして、姫様までもが固まっていた。

 なんだなんだ。どういう反応だ、それは。ただ情報を整理しただけじゃないか。


「もう一点。私たちはもう何度も暗殺者を捕縛し、衛兵隊に突き出している。だけど状況は何一つ解決していない。となると、衛兵隊またはその上位組織に敵の息がかかってる、かもしれない。そんな風にも考えられるよね」

「いや、それはそうだが……。でもよ」

「仮定だよ。だけど、大きく外れてはいないはずだ。むしろそれ以外に、衛兵隊がここまで仕事をしない理由が思いつかない」


 衛兵隊が想像もつかないほどの怠慢をかましてるってなら別だけど。

 アルストロメリア王国は隣国と比べても治安の良い国だ。いくらなんでも、何一つ行動を起こさないなんてことは考えにくい。その考えは切っても良いだろう。


「これまで並べた条件が合致する組織が、私が知る限り一つだけある。カルロさんとリオンさんも知ってるでしょ?」

「おい、おい、お嬢。お前まさか……」

「うん。そのまさかだと思ってる」


 この国に根付いた、均質的な装備を支給できる規模を持つ、高度に訓練された戦闘集団。

 衛兵隊に対して強い影響力を持ち、意のままに動かすことができる。

 そんな組織なんて、私は一つしか知らない。


「騎士団。シルルちゃんを狙う暗殺者の正体は、暗殺者に扮した騎士団だ」

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