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事故死で剣と魔法の異世界に転生させられたからダンジョンごと現代日本に転移してやった

作者: 湖月蒼樹


西暦2020年8月26日14時51分。

 長崎県の北西約160キロメートルの海上に直径二〇キロメートル程はある真円の島が出現した。

 その島は数時間程で電磁波も赤外線も通さない不思議な霧に包まれ確認出来なくなってしまっていたが、偶然幾つかの国の人工衛星によって確認された限りはほぼ全島が森に覆われた美しい島であったが無人島ではなく、中心は城壁に囲まれた街が存在し、そこには何処か中央アジアの雰囲気を持つ人々が暮らしていたのである。

 この超自然現象に全世界が右往左往していた一週間後、件の島から短波無線による『国営放送』なるものが開始されたのである。


 曰く、エーデン大公国は人口約三〇〇〇、異世界から転移して来た転移国家である。

 曰く、米国及び日本国に対して国交の樹立と通商条約の締結、軍事同盟の締結を求めている。

 曰く、国際連盟への加盟を求める。

 曰く、大公国は後進国であり、先進国からの支援を求めている。

 曰く、大公国には魔法が存在し、魔法の技術については同盟国に対してのみ、ある程度は公開する用意がある。特に医療系の魔法と美容魔術、そして若返りの魔法は効果が実証されている。

 曰く、大公国には完全な支配下にある巨大な地下迷宮(ダンジョン)が存在し、二万人の人口を養うに足る産物がある。

 曰く、迷宮(ダンジョン)は本来魔王の防衛施設であり、強大な防空能力を持つ。無許可で侵入する航空機は容赦なく撃破する。またこちらの迎撃能力については、ミサイルの模擬弾或いは無人航空機(ドローン)による防空能力のテストには協力する用意がある。

 曰く、大公国は魔法の霧による結界によって守られており、許可の無い者は上陸出来ないし、島を出る事も出来ない。


 それが冗談でも何でもない事は、放送開始から八日後、エーデン大公国からの招待を受けたというNHK、BBC、CNNの特派員からの報道によって証明された。

 また、エーデン大公国の防空能力については、CNNが米軍の協力の下で用意した、小型のステルス無人航空機(ドローン)が強力な粒子ビーム或いはレーザー光線によって真っ二つにされた事で証明されている。


 そして時は遡る。


 幼い頃から魔法の才能を発揮し、貧乏辺境伯家を王国一の富強に生まれ変わらせ王国宰相に。

 折しも復活した魔王との戦いを主導する事になり、少数精鋭の特殊部隊による魔王暗殺という、王道なのか邪道なのかよくわからない方法で人類を勝利に導く。

 そんな彼が魔王討伐の報奨として望んだものは、宰相を辞し、辺境伯家による魔の森の開拓許可であった。


「過酷な魔の森を開発し、王国と人類の為に生涯を捧げたい」


 王は感動し、即座に許可を与えた。

 こうして魔王討伐を成し遂げた勇者を見出した賢者にして稀代の名宰相、魔王大戦の英雄たるエーデン辺境伯(マルク)エルンストは、魔王の生まれた魔の領域、魔の森の開拓事業に邁進する事になったのである。

 ……表向きは。


 ゲルマニアでは、いや、ゲルマニアに限らずこの世界においては、魔王が生まれる場所に幾つかの共通点がある。

 魔素(マナ)が非常に濃いのだ。

 この魔素(マナ)が何らかの要因で破壊されて生じる瘴気(ミアスマ)が増えすぎる事で、いわゆる魔王が生まれる。

 つまり魔素(マナ)を破壊せずに拡散させるか瘴気(ミアスマ)にならない様に使いきってしまえば、その場で魔王が生まれる事はないのである。

 そしてエルンストにはある一つの計画があった。

 魔の森に漂う濃密な魔素(マナ)の全てを使ってある一つの魔法を行使しようというのだ。

 そう、異世界転移である。


「ふははははははっ! ついにこの時が来た! 三〇年も漫画もネットも我慢し続けたがマジもう限界!! 俺は日本へ帰る!! 帰るのだあぁあああぁあぁああっ! あ、それポチっとな……」


 アルメルの尖塔と呼ばれる二本の巨塔の右側最上階で、巨大な魔素(マナ)瘴気(ミアスマ)転換装置が作動を開始し、魔王を生み出すに足る瘴気(ミアスマ)が発生するがそんなものは序の口である。

 即座に瘴気(ミアスマ)を使った魔王召喚の魔法陣を改造した逆召喚魔法陣が上空に展開し始め、周囲を不気味な鳴動が押し包んでゆく。


「きたきたきたキターーーー!! さようなら麗しのゲルマニアでの日々よ!! 久しぶりです日本のみなさん!! 行けぇええええええっ!! 時空を超えろ!! アルメルブルクの街と迷宮(ダンジョン)よっ!! 住民のみんなには悪いが道連れだ!! ふぁあっはっはっはっはっはっ!」


 絶叫と共に凄まじい轟音と光芒が迸り、唐突に消えた。


「――あれ……失敗したのか……? いや、待て、アレは飛行機雲……?! おおおおおおっ日本よ! 私は帰ってきた!! って、ここ何処だよ……? 海の上なんだけど……『千里眼!』――! って……ちびっとズレたな。東京湾は見えないね。しかもかなり広い……いや、迷宮(ダンジョン)の上に乗ってる部分が全部転移したのか。ついでに海抜二〇メートルくらいか? 水深三〇〇メートルくらい、ダンジョンの六割が海底に突き刺さってて……うん迷宮(ダンジョン)ごと転移してなかったらいきなり水没エンドだったな……あ、そんな事より『迷いの霧』作動! 俺は陸地に転移して金細工を両替して秋葉に行って短波放送機材をゲットしてくるか。ついでに漫画とDVDも大人買いだぜ! 先ずはあの陸地だな……『転移!』」


 こうして日本国は一人の異世界人の不法入国を許してしまい、先の短波放送の開始へと繋がるのであった。


 

「……つ、疲れた。まさかの玄界灘だぜ。メタな感想だが原発ハンターイとかやってる連中の所でやっと場所を把握して、今度は福岡まで転移して変身魔法で顔を変えて、精神魔法でパスポートの幻影みせて貴金属の買い取り店の店員を洗脳して漸く日本円ゲットだぜ……いきなり犯罪者だよおい。防犯カメラはどうしようもない。現行犯逮捕されないかぎりはバックレだな。国家元首だし」


 などとブツブツ言いながら缶コーヒーを飲むエルンスト。

 まだまだ先は長い。

 次はウニクロである。

 目立つコスプレ状態の格好をなんとかしなくてはならないのだ。

 そして新幹線で東京へ。

 転移魔法は使わない。

 というか魔素(マナ)が全く無い世界である事を忘れていたのだ。

 手持ちの魔素(マナ)結晶(クリスタル)尽きたらアウトである。

 もちろん問題は無い。

 日本の公共交通機関や公共サービスを使うだけである。


「そーいや俺トラックに跳ねられて死んだんだよね……墓参りはしたいけどなぁ……どこにあるんだろ? その内調べてみよう……ってオイ。ニケ。なんでお前がここに居るっ?!」

「従者ですから。お忘れだろうとホラ、魔素(マナ)結晶(クリスタル)もたっぷり持って来ました」

「おおおお! よくやった! ――じゃない! 一人で行くからいいんだよ! 一人で行けるの! っていうか一人で行きたいの!」

「あぁ、あの『薄い本』と言うのを購入する時はお一人でどうぞ」

「えー、えっへん。そうじゃなくてな、秋葉原という所は色々あるんだよ。わからないと思うけど、一人でないとな、色々都合が――」

「――大丈夫です。娼館でも何処でもお供します」

「されたくないの!」

「我儘ですね、邪魔はしませんからちゃんとお店の外で待ってますよ?」

「それじゃゆっくり楽しめないだろう……」

「あぁ、やっぱり娼館でしたか。久しぶりの『日本人』ですものね……仕方ありません僕は居ない者と考えて下さい。じゃ、魔素(マナ)結晶(クリスタル)は持って帰ります」

「あー! 待て待て待て! わかった。一緒に行こう」

「始めからそう仰ってくれれば良いのに」


 そんなこんなで秋葉原の大人の楽しみは放棄して、大人買いだけで終わってしまったエルンストであった。

 エーデン辺境伯(マルク)エルンスト改めエーデン大公(ボーラン)エルンストがそんなこんなでお楽しみをぶっこいている間、世界は大騒ぎになっていた。

 なにせ直径二〇キロメートルの島が突然出現したのである。

 最初に発見したのはもちろん米軍の偵察衛星であったが、その後突然発生した可視光はもちろん、レーザー波や電磁波や赤外線すら透過できない謎の霧状の物質に阻まれ実態は謎のまま。

 一時は日本がなにか新型兵器の実験でもしているのかとまで思考が飛んだが、日本側が気象観測衛星(ていさつえいせい)(笑)の画像から気付いて騒ぎ出した事でその線は消えた。

 では中国かと思えば、相も変わらず尖閣諸島沖で遊んでいる事が判明してその線も消えた。

 ロシアからはホットラインによって抗議声明を受けた事で無関係だと知れた。

 で、大混乱のまま、件の国営放送開始へとつながるのであった。


「ちくしょー! 御大、死んでんじゃねーよ! 紅日と黒十字は諦めてたけど三州公どーなったんだよ!! あ、狂戦士、まだ続いてたのか……紅天女……まぁいいか……ん、王国って映画化したんだ……狩人☓狩人は、まぁ予想通り……え?! 臼井さんやモンキーさんも逝っちまったのか……」


 ただし、主人公は国営放送の開始を従者に任せ、自身は秋葉原のネットカフェに連泊中……各国の皆様には申し訳なくは思いますが、まぁしばらくは仕方ないですよね?




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