第一話 死んだ
あの日のことを忘れることはない。俺が五歳の時のことだ。
家族三人で夕食を食べていると、ドンドンッドンドンッ!っと勝手口を何者かが叩く音が聞こえた。
当時、自衛官だった父は竹刀を持ち勝手口に向かって行った。
「あなた!外に出たら危ないわよ!」
外に出て行こうとする父に、母はそう言い聞かせる。
我が家は、日本帝国との国境近くの町にあり難民が一年に数人壁の向こうからやってくる。
中には、気が狂い暴れる者もいて危険だ。国境は、自衛隊によって厳重に警備されているが、難民はわざと警戒の薄い場所からフェンスを登ってこちら側へやってくる。
帝国の兵士に見つかれば即射殺。自衛隊に保護されても日本国に保護してくれる人がいなければ入国が認められない。どちらかしろ死が待っている。
「俺は自衛官なんだ。訓練されてない相手なら倒せる」
そう言って父は、勝手口の扉を開ける。
そこには、泥にまみれボロボロの服を着た少女が立ちすくんでいた。
「あ、お嬢ちゃん!大丈夫かいな!壁の向こうから来たの?」
そう問われると、コクンとうなずく。
「お父さんと、お母さんは?」
「死んだ」
少女はそう答え、気を失い倒れた。
その後、少女は病院へ搬送され順調に回復して行った。我が家が保護者となり、強制送還は免れた。