君影橋の話(続き)
「君影橋の話」(続き)
人がたくさん住んでいる都会に、一人の少女がいました。
少女は最近この街に引っ越してきました。
まだ、友達もいません。
でも、少女は寂しくはありません。
いつも、そばに大切な友人がいるからです。
その友人とは、引っ越してくる前の里にいた毛むくじゃらの化け物の友人から
少し分けてもらった友人の影です。
その影はしゃべれないけれど、
いつもおどけて少女を元気づけていました。
そんなある日、少女が公園で友人の影と遊んでいると、
街の子供達がやってきて言いました。
「おまえのその影は何だ?」
「自分の影以外に小さな影がいつも周りをうろついている。」
「おまえ、呪われてるんじゃないのか?」
少女は言いました。
「呪われてなんかないわ。」
「この影は私の友人の影よ。」
「友達が私の為に影を分けてくれたのよ。」
しかし、街の子供達は少女を揶揄いながら言いました。
「馬鹿じゃないのか!」
「影を分けられるわけないじゃないか!」
「そんなことが出来るのは化け物ぐらいさ!」
「お前は化け物に呪われているんだ!」
そう揶揄われると少女は下を向いて今にも泣きそうになりました。
すると、友人の影が大きくなって街の子供達に襲い掛かろうとしました。
でも、所詮は影です。
地面からは出られません。
なので、街の子供達の影に襲い掛かろうとしました。
街の子供達は、驚いて逃げて行きました。
友人の影は、心配そうに少女に近づきます。
少女は元気なく友人の影に微笑んで「ありがとう」とお礼を言いました。
そして、少女と影はトボトボと家に帰っていきました。
そんなことがあってか、少女はあまり外で遊ばなくなりました。
ある日、少女の家に、ある少年が訪ねてきました。
少年は、少女と影の話を聞いて興味があってやってきたそうです。
少年は言いました。
「初めまして。」
「僕は不思議なことが大好きなんだ。」
「もし、良ければその友人の影の話を聞かせてくれないか?」
少女は、初めて友人の影を好意的に受け入れてもらい、
とても嬉しく思いました。
そして、少年に楽しそうに影の友人の話、前に住んでいた里の話をします。
少年も楽しそうに少女の話を聞いていました。
そして、少年と少女は仲良しになりました。
少女も少年に誘われて外で遊ぶようになりました。
公園で、いつも少年と少女と友人の影の3人で楽しく遊んでいます。
月日が経ち、やがて少年と少女は恋仲になります。
そして、めでたく結婚しました。
毛むくじゃらの化け物の友人の影もそれを二人の傍らで飛び跳ねながら喜びます。
二人の夫婦は子宝に恵まれ、賑やかな家庭を築きます。
夫婦と元気な子供達、そして友人の影で賑やかに楽しく時を過ごします。
やがて子供達も大人になり、家庭を持ちます。
夫婦には、孫がたくさんできました。
少女は、もうおばあさんと言われる年齢になっていました。
ある日、おばあさんは何となく毛むくじゃらの化け物の友人の影を見ていて、ふっとあることに気付きました。
今まで自分の傍らにいつもいた友人の影が、時折居なくなっていることを。
不思議に思ったおばあさんは、友人の影が自分から離れる時に、
どこに向かっていくか、そっと追いかけてみました。
友人の影は、孫の少女のところに居ました。
そして、おばあちゃんにしてきたように、その少女にもおどけて見せてます。
少女も、ケラケラと笑いながら毛むくじゃらの化け物の友人の影と楽しそうに踊っています。
少女も、友人の影のことが大好きなようです。
でも、おばあさんは不思議に思いました。
「孫はたくさんいるのにどうしてあの孫娘のところばかりいくのかしら。」
おじいさんに相談してみるとおじいさんは言いました。
「きっと、あの孫娘は、昔のおばあさんにそっくりだからだよ。」
「君の友人の影も見分けがつかないくらいにね。」
そう言うとおじいさんはニコニコと笑いました。
やがて、おばあさんも高齢となります。
毛むくじゃらの化け物の友人の影は昔と変わらず元気におどけています。
でも寝たきりのおばあさんの傍にはいません。
いつも、孫娘の傍にいるようになりました。
おばあさんは、孫娘に言います。
「孫娘よ。あなたは私の友人の影が好きかい?」
孫娘は答えます。
「大大大好きよ。おばあさん。」
そう孫娘から聞くと、おばあさんは嬉しそうに、
友人の話と友人の里の話をしだしました。
「この街にやってくる前、私は森の中にある里に暮らしていたの。」
「その里は、化け物と呼ばれる生き物と人間たちが一緒に暮らしている里だったのよ。」
「でも、その里は人里からずいぶんとはなれた場所だったの。」
「人間には不便な里だったの。」
「やがて人間は、みんな人里に移り住んでいったわ。」
「私みたいにね。」
「私と、その影の友人はその里で出会ったのよ。」
「私が里からこの街に来る時に、里の出口の橋で友人と最後の別れをしたの。」
「その時、私、友人に寂しいと言って泣いてしまったの。」
「そうしたら、毛むくじゃらの友人が、自分もサビシイと言ったの。」
「そして、お互い寂しくないようにと、私の影を少し友人に残して、」
「友人の影を少し私に分けてもらったの。」
少女は、ジーとおばあさんの話を聞いています。
おばあさんは、話を続けます。
「分け合った影はね、その人が死んだら消えてしまうの。」
「きっと友人の生き物の方が、ずっと寿命が長いようだわ。」
「きっと私の方が早く寿命が尽きるわ。」
「そうしたら、里に置いてきた私の影も消えてしまう。」
「きっと、私の友人はまた寂しがるわ。」
「私は友人の影のおかげでちっとも寂しい思いをせずに生涯を過ごせた。」
「恩返しがしたいけど、私には友人の里まで行く体力はないわ。」
「だから、私が死んだら、友人の影と一緒に、森の中の里にいる友人に
会いに行ってきてくれないかしら?」
「きっと、私とそっくりなあなたなら、気付いてくれるから。」
そういうと、おばあさんは古びた地図を
孫娘に差し出します。
孫娘はウンウンと深くうなずいて、
その地図を受け取り、
おばあさんのお願いを聞き入れました。
それから、数か月後、おばあさんは天国に逝ってしまいました。
たくさんの家族に見守られながら、安らかに眠るような最後でした。
友人の影は、孫娘を気遣うように寄り添っています。
数年が経ち、孫娘も少女となりました。
ちょうど、おばあさんが、森の中の里から出てきた時と
同じぐらいの年齢です。
少女は、おばあさんとの約束を守るために、森の中の里に
向かう旅へと向かいました。
もちろん、友人の影も一緒です。
古びた地図は、ずいぶんと昔で、
今とは少し地形が違うようです。
でも、道は昔と変わらないようです。
峠の岐路で道が右と左で別れています。
少女と友人の影は、どっちに行ったら良いか
悩んでいます。
そこに、クロネコの旅人が通りかかりました。
少女は、クロネコの旅人に尋ねます。
「クロネコさん。昔人間と化け物が一緒に住んでいた里に行きたいの。」
「クロネコさん、知らない?」
クロネコの旅人は答えました。
「やあ、森の中の里ならここを左に曲がるといい。」
少女と友人の影はクロネコの旅人に
「ありがとう」とお辞儀をして、
左の道を進みます。
ずっと、一本道を進んでいくと、
道の向こうから、二人の旅人がこちらに歩いてきます。
とても楽しそうに歩いているもぐらとひまわりの旅人です。
少女と友人の影は、もぐらくんとひまわりくんに道を尋ねます。
「ねえ、もぐらさん、ひまわりさん。」
「昔人間と化け物が一緒に住んでいた里に行きたいんだけど。」
もぐらくんとひまわりくんは、少女の顔を見てニッコリし言いました。
「やあ、毛むくじゃらの友人に会いにいくんだね。」
「きっと、君の友人はすごく喜ぶよ。」
少女は不思議に思って、もぐらんとひまわりくんに
質問します。
「どうして、私が友人に会いに行くことを知っているの?」
もぐらくんは言いました。
「僕らも、その里に行ってきたところなんだ。」
「毛むくじゃらの君の友人とも会ってきたのさ。」
そして、ひまわりくんは、毛むくじゃらの化け物から
預かった少女の似顔絵を見せました。
少女はニッコリしながら言いました。
「本当だったんだ。私とそっくりだわ。」
少女の言葉を聞いて、もぐらくんとひまわりくんは
不思議そうな顔をしました。
もぐらくんとひまわりくんから
里までの道を聞いて、少女は里に向かいます。
里近くになると、友人の影が少女より先に進み
少女を案内します。
友人の影は毛むくじゃらの化け物の
友人の匂いに気付き、足早になるのでした。
そして、一本道から森の中に進む小道を進み、
友人の影に引き連れられて少女は、出口の君影橋を渡り、
里に入り、
毛むくじゃらの化け物のいるところへ駆けていくのでした。
つづく。