7話 ありえない殺人現場
今回は会話が多いです
コトコトッ
静かな部屋に鍋が煮える音が響き渡る。蓋をそっと開けてみると、鍋の中から肉じゃがの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。よく沙希が俺の家に来て、大好物の肉じゃがを作ってくれた。そんな事を思い出していると、無性に肉じゃがを食べたくなってしまった。肉じゃがのレシピサイトなどを見て、自分で作ってみた。
「んぐっ……。ははっ……、やっぱり沙希の方が美味いや……」
一口食べてみると、沙希のとは違いしょっぱい。恐らく醤油が多すぎたのだろう。沙希は俺好みの肉じゃがの味を知っていたようだ。
「慣れない事はするもんじゃないな……。……あつっ!」
ぼんやりしながら肉じゃがを食べていると、不意に右の掌に熱が伝わった。見ると、どうやら自分の前に置いといた鍋に掌が当たってしまったようだ。
「濡らしてこよう……」
どうやら火傷をしてしまったらしく、手の甲が赤くなっている。外気に触れてるだけでヒリヒリとする。洗面台に行き、赤くなってしまった所を冷やす。
「……救急箱どこだったけな……」
熱により火傷してしまった右手を応急処置するため救急箱を探す。すると、タンスの上に救急箱が置いてあるのを見つけた。
「あったあった」
手を伸ばし、救急箱を取る。その中から包帯を取り出す。
「これでよし」
火傷に濡れタオルも当てたし、処置はこれでいいはずだ。前にも沙希にしてもらったから間違いない。
「沙希……」
やっぱり俺には沙希がいないとダメだなぁ〜……。料理はまともに出来ないし、火傷はするし……。俺は壁に体重を預ける。胸の中にはとてつもない虚無感が押し寄せる。
(早く沙希に会いたいよ……)
俺はらしくない弱音を吐いた……。
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「それは……本当なのですか……?」
俺は今警察署に来ている。俺はある気づいた事を刑事さんに話してある。その内容に刑事さんは驚き、疑念、困惑……色々な感情が混ざりあった顔になってる。そして、俺が話した内容は……
「Crowが“未来予知”が出来るって……本当に言っているんですか……?」
やはりこういう反応になるだろう。誰だって『あの殺人鬼は未来予知ができる!』なんていっても誰も信じてくれないだろう。だけど……
「根拠はあります。まず何故Crowがなかなか捕まらないか……。それは、未来予知で警察が張っている場所をあらかじめ知れたからです。その証拠に、Crowがいつも逃げいてた通路でずっと張っていた所を張った当日から来なくなりましたよね?」
「た……たしかにそうですけど……それだけでは……」
まだ弱いか……。だったら……
「殺人現場……」
「えっ……?」
「殺人現場がもう一つの根拠です」
「……?」
何を言っているのか分からないという感じの刑事さんに俺が気づいた根拠を話す。
「前に見せてもらったCrowについてのファイルに書かれて事で、一つ気になる殺害方法が載っていたんです」
「……どんな内容ですか?」
「女性が職場で殺された事件です。その日急な仕事で残業をすることになり、その職場でCrowに襲われたという内容でした」
「確かにそうですけど……何かおかしな点があるのですか?」
この殺人はCrowが未来予知をしたならば……いや、しなければ出来ない殺人なのだ。
「場所です……」
「……場所?」
そう、そこがおかしい点なのだ。
「この残業は、その日に急にはいった仕事だそうです。ならば何故Crowはその事実を知っているのでしょうか?もちろん職場の人は全員アリバイがあるので職場の誰かがCrowという可能性は無いです」
その日、職場の男の人たち全員は飲みに、女性はそれぞれ同じ帰り道の人たちと帰ったので抜け出していたら流石に気付くだろう。
「もし今日残業じゃなかったらCrowは、彼女をどこで襲っていたでしょう?人気のない道、路地裏……そして“家”です。本当なら女性を家などで殺した方が何かと都合がいいはずなのに、Crowはあえて職場を選んだ。職場の人も、今日彼女が残業だという事を誰も話していない……」
そこまで話し終えると、刑事さんは俺が何を言いたいのか察しがついたようだ。俺は、一呼吸置いてから結論を話した。
「もしCrowが彼女を殺すには、彼女の家の前などで張り込んでいないといけません。そうしないと、いつ彼女が帰ってくるか分かりませんからね。女性のあとをつけてたのなら、それこそ不審者で通報されますからね……」
そう、もしこの女性を職場で殺すなら残業の事を知っていなければおかしい。無差別殺人という可能性もあるが、それならあの時沙希だけではなく、俺も殺されているだろう。なのに殺されていないという事は……
Crowは“何か目的のために殺人を繰り返している”という事になる。
「たしかに不自然ですね……。分かりました。私はこれからその事件についてもう少し詳しく調べてみます」
「お願いします」
俺は未だにCrowが言ったあの言葉が頭から離れない……。
『お前は甘いんだよ』
あの時の声音は……まるで自分に言い聞かせているかのような声だった。……今は刑事さんの報告を待とう……今は情報が欲しい。あいつに勝つために……。