6話 新しい条件
今回短めです
そろそろCrowが俺達を殺しに来る時間だ。前回Crowは、トイレの逆の方から向かってきた。ならば、あらかじめ来る方向に待機していて、足止めをすればいいだけだ。このハサミはあくまで護身用だ。
「あと五分……」
時間が迫るにつれ、心拍が早くなるのを感じた。汗も凄く、手が微かに震えている。恐らく怖い……んだと思う。当然だ。普通に過ごしていたなら、こんなに危険な足止めはないのだから。
(そろそろか……?)
時刻は9時。Crowが現れる時刻だ。俺の警戒が強まる。
(どこから来る……?)
大体来る方向は絞られているが確実ではない。どこから来てもいいように満遍なく周囲を警戒する。すると、遂にCrowが姿を現した。
「……!?何故だ……!?」
何故……何故Crowはトイレの方から来たんだ……!?Crowはこちら側から来るはずだ……!!
「くそっ……!!」
俺は急いでCrowを追いかけた。Crowは当然、まっすぐ俺達の方へ走っていく。どうにかして足止めをしなければ……!そうしなければ……!
また、殺されてしまう……!!
「待てぇぇぇ!!」
「!?」
俺は無我夢中でCrowに飛びかかった。2、3度回転しながら転がった。俺がCrowに覆い被さるような格好になり、なんとかCrowを取り押さえた。
「やっと……やっと捕まえたぞ……!!」
「…………」
俺は持っていたハサミをCrowの喉元に突き立て、反撃出来ないようにする。もちろん、本気で殺すなんて事はしない。
「お前は何者だ……!?何故沙希を狙う……!?」
「…………」
問いかけるが、答えがない。表情を見ようとしても、黒い鳥の仮面のせいで顔も見えない。このままでは拉致があかない。どうしたものかと考えていると……
「俺はお前の秘密を知っている」
「……は?」
突然、Crowがそんな事を言い出した。この言葉は聞いたことがある……。いや、正確にいうと、聞いたことがるではなく、“見たことがある”だ。この言葉は、俺達の秘密基地で見つけたメモに書いてあった言葉だ。
「どういうことだ……?」
「…………」
また口を閉ざす。俺はどんな事をしてでも聞き出してやろうと思い、さらにハサミの刃を喉元に近づけた。
「今の状況を分かっているのか……?」
「…………」
くっ……、これでもダメか……!そう思った時、Crow何やら動いているのに気づいた。抵抗かと思ったが、抵抗にしては動きが小さい。
「おい!!勝手にうごっ!?」
「お前は甘いんだよ」
突然襲いかかった腹部への熱。目を見やると、そこからは赤い液体が溢れ出している。Crowの手にはハサミが握られていた。そのハサミの先端が赤くなっており、そのハサミで俺の腹を裂いたのは容易に想像出来た。
「おまっ……え……!!」
裂かれた腹部を抑えるが、血が止まる事は無い。俺は徐々に力が出なくなり、その場でドサッと倒れた。Crowは、そんな俺をつき飛ばし、こちらをちらりと見ると、俺達の方へ走っていった。
「ま……てっ……!!」
また助けられないのか……?また俺は何も変えられないのか……?俺は薄れいく意識の中、自分の無力さを嘆いた。
「く…そっ……!!こんど……こそはっ……!!」
“絶対助ける”。視界も真っ暗になる中、俺は決意した。
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「…………はっ!?」
目がさめると、そこはトイレの裏だった。あの後どうなった……?記憶が曖昧の中、俺は先程までの出来事を整理した。
(確か、Crowを捕まえられて……そこで俺は……)
“殺された”……そこまでは覚えている。だけど、その後は……?
「そうだ!今日の日にちは!?」
自分のスマホを確認すると、セットした日にちよりも2週間過ぎていた。となると、現代に戻ってきたのか?
(過去で死んだら、現代に強制送還されるって事か……)
何にしてもよかった……。あの時は悔しさで考えていなかったけど、あのまま死んでたらそこで終わりだったからな……。
「にしても、まさかトイレの方から来るとは……」
前回と違う方向から来るなんて……。やはりCrowの能力は予知能力で決まりだ。
「それにあの言葉って……」
『俺はお前の秘密を知っている』
あのメモはCrowが残したのは確実だろう。でも、俺の秘密……能力をどこで知ったんだ?俺は能力を使う時、誰にも見られないように気をつけていたし、Crowに襲われた時はまだ能力を持っていなかった……。そもそも、俺の部屋に何故能力を与えるスマホがあったんだ……?
(くそっ……!分かんねぇことばっかりだ……!)
俺は頭をガシガシとかき、これからの方針や作戦を考える。今度こそ沙希を助けるために……。