5話 能力と異変
俺はCrowを尾行した後、元の時間の戻り警察署に拾ったメモを提出した。刑事さんがとても興味深そうに眺めており、「また何かあったらお越しください」と言っていた。拾ったメモはもちろん写真を撮った。俺は自宅へ戻り、保存されている拾ったメモの写真を眺めている。
「どういう意味なんだ…?」
あれから何度考えてもメモの内容が分からない。内容だけ見れば何かの宗教っぽいけど…。Crowは何かの宗教団体の一員…?しかし、Crowは単独犯と警察は睨んでいる。もし団体なら単独で行動するのか…?色々考えたけれど、答えなんて出るはずが無かった。
「…あの場所に行ってみるか…」
俺は、ある場所に行くために重い体を無理矢理起こした。もしかしたらあの場所なら何か分かるかもしれない…そんな淡い期待を抱き、俺は玄関を開けた。
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「確かこの辺りだったはず…」
あの場所とは、Crowを見失い、謎の紙を拾った場所だ。ここでCrowが急に消えてしまった…。俺は何かないかと用心深く道を見渡す。でも、この場所見覚えがあるような…?そして、Crowが消えたあたりを探していると…
「あっ…」
俺の目線の先には、木材でできている塀に、結構大きい穴が開いていた。この家は、俺が生まれるずっと前に、何らかの事件が起こり、今は誰も住んでいない廃墟になっていた。
「そうだ…ここは確か俺達が小さい頃に秘密基地にしていた場所だ…」
俺が小学生の時、浩介と、今は会っていないが眼鏡をかけた地味系男子の優斗と一緒に見つけた場所だ。Crowはここに逃げたのだろうか…?俺は何か手がかりがあるかもと穴を潜った。
「確か玄関は開かないんだっけ…?」
廃墟という事もあり、玄関はチェーンでグルグル巻きになっていた。そこで、俺達は裏手に穴が空いている壁があり、大人一人潜れる程の大きさだ。俺達はいつもそこから侵入していた。
「えっと…あったあった」
俺は裏手に回り、穴空いている壁を見つけた。何か懐かしいな…などと呑気なことを考えていると、ある事に気付いた。
「最近通った跡がある…」
床を見てみると、穴付近だけ埃が積もっていなかった。間違いない…Crowはここに逃げ込んだのだ…。でも何故この場所を知っていたんだ…?ここはあまり目立たなく、あの頃も俺達でも見つけたのが偶然のようなものだ。Crowも偶然見つけた…?それとも、もともと知っていた…?まだ情報が少ない…。俺は、穴を潜り、家の中へ足を踏み入れた。
「やっぱり結構埃っぽいな…」
それはそうだ。もう何年も使われず、管理もされていないのだから。2階建てのこの家は、どこにでもあるような洋風の内装だった。埃などをかなり被っているが、家具などがまだ置いてある。誰も気味悪がって誰も引き取らなかったらしい。
「確かこのテーブルが俺たちの溜まり場だったっけ」
ダイニングキッチンに置いてあるテーブルが俺達の溜まり場だった。二階は危険だからやめておこうと優斗が提案したから、二階には行ったことがない。
「ん…?」
テーブルの下に、また紙が落ちていた。まるで俺にヒントを与えているように…。そっと拾い上げ、紙を見てみると…
『俺はお前の秘密を知っている』
と書いてあった…。
「!?」
俺は一瞬で恐怖に包まれた。これまでに感じたことのない見透かされているような恐怖に…。もし、この秘密が“時間移動”の事ならば…もしそうならばCrowも…俺のような超能力を使えるスマホを所持している可能性が高い…。
「だとしたら、どんな能力を…」
今までのCrowの行動で考えると…予知能力…?千里眼…?色んな可能性が次々と出てくる。でも、一番可能性が高いのは”予知能力“だろう。そう考えれば、俺が公園で大声出しても動揺しなかった理由も納得できる。
「でも、何でこんな事を…?」
何故自分のヒントを与えているのだろうか…?いや、ヒントでは無く、俺に対する警告なのかもしれない…。でも、もともと危険なのは百も承知だ。今は沙希を助けるだけではない、Crowの正体を突き止めてやるという気持ちも芽生え始めてきている…。
「そろそろ帰るか…」
何故だろう…。何故か少し楽しくなってきた。その日俺は上機嫌で家に帰った。スマホに表示されている文に気付かぬまま…
『注意:時間を移動するたび、ランダムで精神的影響を及ぼす』
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「よしっと…」
俺はいつものように、時間を合わせ、時間移動をする。それに、今日は作戦を考えたのだ。恐らくこの作戦で沙希を助けられ、Crowの正体が分かるだろう。周りが白くぼやけ、カーッと白い光に包まれた。
「……ん?」
そっと目を開けると、空はすっかり暗くなり、辺りも静かだ。場所は前と同じで、襲われた公園のトイレの裏だ。しかし、前回よりも時間を少し早めにセットし、俺達が来る直前に移動した。
『寒いね〜』
『そうだな』
待っていると、すぐに声が聞こえてきた。もちろん声の主は俺達だ。この後、Crowが現れ、沙希を刺しこちらに走ってくる。それが前回分かった事だ。そしてもう一つ…Crowが来る方向だ。Crowはトイレの逆の方から向かってきた。それさえ分かればやる事は決まってくる。俺はCrowが来る方向へ、俺達に気付かれぬようこっそり移動した。
「確かここら辺だったよな…?」
俺は茂みに隠れ、Crowを待つ。右手に握られている銀色に光るハサミを見つめながら…。