3話 失敗と情報
「嘘…だろ…」
さっきまで確かに昼だった筈だ。なのに、このスマホを操作した瞬間、一瞬で夜になった。
「そうだ…!時計…!」
本当に時間が戻ったのか時計を確認する。時計の針はしっかり10時に指している。自分のスマホも確認する。日付も時間も、さっきのスマホを操作したとおりになっている。ラインも、浩介からのメッセージもきていない…。
「マジで…時間を移動したのか…?」
ここまで証明されればそう思うしかない。この力は本物だと…。スマホの画面を見ると、時間設定の下に、三つの項目が表示されていた。『過去』『現代』『未来』という具合だ。『現代』の項目を押せば、元の時間に戻れるのは容易に想像できたが、『過去』と『未来』の項目は謎だ。なんせ、時間と日付を合わせて移動するのだから、この二つの項目は必要ないからだ。
「一旦、現代に戻るか…」
まだわからない事ばかりで、一旦整理をしたかった。『現代』の項目を押すと、来た時と同様に、周りがぼやけ、カーッと白い光に包まれた。
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「んっ……」
そっと目を開けると、先ほどとは打って変わり外から太陽の光がカーテンの間から漏れ出している。自分のスマホを見ると、しっかり今日の11時頃を指している。
「戻れたか…」
内心戻ってこれなかったらどうしようかとヒヤヒヤした。しかし、これでこの力が本物だという事が確認できた。そして…、沙希を助ける事が出来るという事が確認できた。
(待っていて沙希…必ず助けるからな…)
俺は改めて誓う…沙希を助けると…。俺は、スマホを操作し、事件が起こる1時間ほど前に遡る事に決めた。2週間前…11月13日午後9時30分…沙希を殺された時、俺は時間を確認していなかったが、警察が死亡推定時刻で、だいたいそのぐらいに事件が起きただろうと話していた。俺は午後8時30分に時間をセットした。すると、周りがぼやけ、カーッと白い光に包まれた。
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「んっ……?」
そっと目を開けると、部屋は暗く、外も街灯などがちらほらと見える。自分のスマホを確認すると、8時30分と表示されていた。
(戻って…これた…)
俺は、部屋を飛び出し、沙希が殺された公園に急いで向かった。俺たちが公園に着くのは9時頃…、それまでに公園で待機している必要がある。
「はぁ…はぁ…」
運動不足がここで仇となった。数百メートル走っただけで、息が苦しくなる。ここ二週間、家から出ずに居たから体が鈍っている。
「早くっ…行かないとっ…いけないのにっ…!」
足が鉛が付いているかのように重い…。全力で走っているが、それほど速く走れていない。俺の家から公園まで、そこそこの距離があり、時間を確認したら、ギリギリで着くか着ないかの距離だ。
(間に合うか…?)
まず沙希の所に行かなければ話にならない。そうでなくては、俺がここに来た意味がない。俺は、痛くなってきた胸を抑えながら走り続けた…。
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「おい逃げるぞ!!」
「う、うん…!」
俺が公園に着くと、聞いたことのある声が聞こえてきた。声の方を見ると、沙希が俺に手を引かれ、逃げているのが見えた。そして、その後ろに…Crowがいた…。片手に銀色に光るハサミを持っており、その顔は烏の仮面に覆われており確認できない。
(くそっ!間に合わなかったか…!)
内心で舌打ちをして、考えていた作戦を実行する。作戦は簡単だ。この時の俺が、沙希を連れて逃げ切ればいい事だ。そして今、俺がするべきことは、そのサポートをする事だ。そんなに難しい事はしない。ただ…
「誰か来てくれ!!人が襲われている!!」
大声をあげれば良い。どんな殺人鬼でも、大声をあげれば流石に逃げるだろう。そう思ってたが…
「くっそ!誰か来たんじゃねぇのかよ…!!」
「なんでまだ追ってくるの…!!」
Crowは逃げなかった…。それどころか、まるで沙希達の行動を読んでいるかのように先回りをしている。そして…
「かっ…!」
「沙希!?」
同じ光景だ…。沙希がハサミで胸を貫かれ、赤い血が流れ出す。Crowはそれを見届け、どこかへ逃げ去った…。俺が泣き叫んでいる…。沙希が俺の胸の中でぐったりしている…。
(何も…変えられなかった…)
考えが甘かった…。Crowは俺が思った以上に狂っている奴だった…。沙希が殺される場面を改めて見てしまい、胸の中が抉られる感覚に襲われる…。俺は、その場から逃げ出すように離れた…。
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俺は、スマホで現代に戻り、ベットに座っている。先ほどのCrowは、捕まるのが怖くないように見えた。そうでなくては、大声出したのに逃げないのはおかしい。……情報が少ない。俺はCrowについては、ニュースなどでしか見たことがない。圧倒的に情報が少ない。
(必ずなんとかしてみせる…!)
俺は鞄を持ち、ある場所へと向かった。そのある場所とは…
“警察署”だ。ここならCrowについて何か分かるかもしれない。普通なら警察は情報なんて見せてくれるわけがない。しかし、俺には当てがあった。俺が警察署の入り口を潜ると、警官と何やら話していたガタイの良い刑事さんと目があった。
「こんにちは康太くん。昨日の件で来てくれたのかい?」
そう、彼は昨日、事件について話してほしいと電話してきた人だ。この人は、Crowの初めの殺人の時からの担当らしく、Crowについて何かと詳しい。もしかしたらこの人なら…
「話があります。出来れば二人だけで話したいです」
「……!…分かった」
俺の言葉に多少驚いたが、本気だということが伝わったのか承諾してくれた。今はCrowについての情報がほしい。沙希を助けるために…!
今回も読んでくださいってありがとうございます!今回は移動が多いので区切りを多用しています。ご了承ください。