2話 謎のスマホと能力
「んっ………」
カーテンの隙間から漏れ出す日の光と、可愛らしい小鳥の囀りで、俺の意識は覚醒していく。俺は、ベットの上で横になっており、いつもの寝る時の服装でないことに気づく。
「くっ……!」
体を起こそうとしたら突然、頭に強い痛みが走った。割れるかと思うくらい痛む頭で、昨夜のことを思い出す。
「昨夜はたしか、浩介と飲みに行って…だめだ、2軒目あたりから記憶がない…」
俺はそもそも酒は強くない方だ。缶ビール一本飲めば、完全に酔ってしまう。なのに昨夜は、浩介が無理矢理飲ませてきた事もあって、歯止めが効かなくなってしまったようだ。
「……っ、水飲もう…」
少し動くだけで痛む頭を抑えながら、水道があるキッチンに向かう。足取りがおぼつかない中、なんとか水道のところまでたどり着いた。ジャーと水が流れ、近くにあった水切りカゴに置いてあったコップで、水をすくった。
「んぐっ、んぐっ…ふぅ…」
水を飲み、頭の痛さも少し和らぎを感じた。しかし、まだ痛むので今日1日は寝ていようとベットに向かう。二日酔いのせいで、体のだるさを感じながらベットに横になった。そして、近くにあったスマホを手に取り、着信などがないか確認すると、ラインが来ているのに気づいた。
『すまん!昨日は飲ませすぎた!鍵、勝手に借りちまったけど、棚の所に置いといたからな!』
文面を見て、なんて律儀なんだ…そんな呑気なことを考えてしまった。でも、昨夜は浩介のお陰で少しリフレッシュできたと思う。ほかに着信などは無いことを確認して、スマホを枕の脇に置いた。
「もう少し寝るか…」
まだ起きたばかりで、眠気が消えていない。この後、やる事もないし、仕事も『警察や恋人を亡くしたショックもあるだろう』と、部長が有給で落ち着くまで休ませてくれた。時間もあるし、二度寝しようと目を閉じたら、
ーピリリリリッー
「……?」
突如、電話がかかってきた。枕元のスマホを手にして、画面を確認する。
「あれ…?」
しかし、画面は真っ暗のままだった。固定電話かと思い確認してみると、何も表示されていなかった。今も鳴り響いている電話の音で、鳴っている場所を探す。すると、ソファーの下に光っている物を発見した。取り出してみると、このスマホが鳴っているのが分かった。
「誰のだこれ…?」
見覚えないスマホに、一瞬浩介の物かと思ったが、わざわざラインして忘れていくわけないだろう。電話の相手も非通知で、相手が誰だか分からない。
「…………」
気味が悪い。しかし、何故だかこれに出なくてはいけないという気にさせられる。早まる鼓動を感じながら、応答のボタンをタップした。
「…もしもし」
「ザッーザッー」
ノイズ音が聞こえる。今にも切ってしまいたいと思うが、何故だか体が言うことを聞かない。ノイズ音をしばらく聞いてると、機械的な声が聞こえてきた。
『アナタノシタイコトハナンデスカ?』
「…は?」
唐突な質問に一瞬理解ができなかった。俺が質問の意味を理解しようとしている間にも、無機質な声で淡々と同じ質問をしてくる。
『アナタノシタイコトハナンデスカ?』
“俺がしたいこと”…その質問は、俺の願望を引き出そうとしているかのように繰り返し聞いてくる。
「………」
俺がしたいこと…そんなの決まっている。俺の脳内に沙希の笑顔が映し出される。そして、夢の中で言われた沙希の言葉を思い出す。
『なんで助けてくれなかったの…?』
もし、叶うのならば…もし、俺の後悔を彼女が許してくれるのならば…俺は…!
「沙希を…助けたい…!!」
その言葉と同時に、電話からの声が途絶えた。だめだったか…?そう諦めかけた瞬間に、電話の向こう…というより、電話の中で何かを設定している音が聞こえた。
『ピーッ、コレヨリ、ノウリョクセッテイヲオコナイマス』
能力…?未だにこの声が何を言っているのか分からなかった。しかし、こちらの心中なんて御構い無しに、またもや声が聞こえる。
『ノウリョクヲ、キメテクダサイ』
そう言われて画面を見ると、色々な項目が並んでいた。テレパシー、千里眼、サイコキネシス…どれもいわゆる“超能力”というものが並んでいた。その中で、目を引いた能力があった。
「時間操作…」
どういう能力か分からなかったので、能力説明の欄を読んだ。時間操作:時間を操る能力。過去、未来…どの時代にも自由に行ける能力。しかし、その時代に自分がいるのであれば、鉢合わせた瞬間、現代に強制で戻される。
「これならば…!」
沙希を助けられるかもしれない。そんな淡い期待を抱き、時間操作の項目をタップした。すると、電話の中でピーッ、ピッピッピッと音がする。何してるんだ?と思い聞いてると、ピーッという音がした途端、音が止み終わった。
『ノウリョクエトクカンリョウ。ツカイカタノセツメイヲシマス』
話を聞くと、過去で物事を起こすと、パラレルワールドが起こり…などと、難しい事を説明された。その説明を、自分なりに頭で簡単にまとめてみた。
・先ほども説明欄に書いてあった通り、自分がいる時代で自分に鉢合わせをすると強制送還されてしまう。(両者自分の存在を確認した時点で発動する)。つまり、片方が自分を確認しても、相手が気づかなければ大丈夫らしい。
・行きたい時間は、スマホの時刻設定で時間を設定するとできるらしい。
・過去を変えると、その時点でパラレルワールドが起こってしまうらしい。
っと、こんな感じだった気がする。他にも説明されたが、あまり俺には関係なさそうだったから聞き流した。
『デハサイゴニ、アナタノナマエヲニュウリョクシテクダサイ』
そう言われ画面をみると、名前を入力できるようになっていた。そこに、自分の名前を入れると、画面に認証完了の文字が出てきた。
『ニンショウカンリョウシマシタ。ヨロシクオネガイシマス、コウタサマ』
それだけ言い終わると、声は聞こえなくなった。実を言うと、まだ信用できていない。本当に過去に行けるのか…?そう思い、試しに時間を昨夜の10時ごろに設定し、過去のボタンをタップした。すると、周りが白くぼやけ、カーッと白い光に包まれた。
「……ん?」
暗い…先ほどまで日の光で明るかった部屋が、一瞬のうちに真っ暗になった。そして、恐る恐るカーテンを開けて見ると…空はすっかり夜になっていた…
時間操作の設定を少し追加させていただきました!評価や感想などを貰えたら嬉しいです!今回もお読みになってくれてありがとうございました!!