僕っ娘魔女は天才捨て子を拾ったようです。
昔々ある所に、自身を世界一可愛いと称し、世界から疎まれていた魔女がおりました。
この物語は、そんなボッチ系ナルシスト魔女と天才捨て子のお話です。
「ーー僕の魔法はせっかいいち~」
魔女はその可愛らしい?容姿には似合わない、暗く不気味な森の奥底に生活していました。
彼女は鼻歌を歌いながら近隣を散歩しているようです。
「あーーこんな不気味な場所でも僕ってかわいいなー!!」
湖面に写った自身の顔を見て自分でうっとりする、典型的なナルシストがそこにはいました。
圧倒的な童顔に短い四肢、どこからどう見ても「少女」の見た目をした彼女が、湖面には写っていました。
彼女は数時間自分の顔を見つめ続け、日が落ちると満足して家に戻っていくのでした。
そんなある日の事……
「ん?泣き声??」
彼女がいつも通り散歩していると、少し小さいですが幼い子の泣き声が聞こえてきます。
いつも世界一を自称する彼女ですが、実際の所親以外のまともな人間に会ったことがありません。
そのため、こんな不気味な所に入ってくる人間に興味津々な様です。
「僕は世界一優しいから、助けてあげないとね☆」
彼女は自分が最も優れているため、他人を助ける事は当然だと考えていました。
実際には森から出ないため他人と触れ合うこともないのですが。
「方向は……」
彼女は久々に魔法を行使します。その魔法の力は「万能」、この森の中でのみ使用できる。そこだけは世界最高と言える力を誇っていました。
彼女は少し歩いて、すぐに大きな声を出す幼子の元へ辿り着きました。
その子供は生まれて間もないようで、歩くこともままならない小さな手足をしていました。
顔はくしゃくしゃになるまで泣きに泣いた後の様で、結構な間ここに放置されていたことが分かります。
「酷いな……誰がこんな酷いことをしたのだろう」
彼女は自分が高い力を持つ魔女であることが分かっています。強い故に、その力によって今は不安なく生きている事を理解しています。
だからこそ、自分の様な力を持たない子が捨てられるのが我慢ならなかったのです。
「決めた!!僕が君を育ててあげよう。きっと立派な人間になれるよ!!」
彼女はその日、見た目は女の子の母親になりました。
二年後ーー
「さんこと、じゅっこだから、あのきとあのきをあわせるとじゅうさんこ」
「よくできたね!偉い偉い!!」
三年後ーー
「五この木が五本あるから二十五個?」
「そうだよ!偉い!!」
五年後ーー
「三個が17、五個が19、13個が5、平均すると……」
「良く覚えてきたね!凄い!!」
七年後ーー
「今日の木の実を報告しに来たよ、母さん」
「それでそれでー?……」
「人間ってこんな凄い人ばっかりなのかな?」
「どうしたの母さん?」
十年後のある日の事、魔女はふと疑問に思いました。
簡単な算数、国語、魔法。魔女の親が残していったものが魔女の家には一杯あって、子供に教える事は苦ではありませんでした。
ただ、恐ろしいことに、今では森の木に生っている木の実の数を全て暗唱できるまでになっている事。
魔女の魔法を使えば木の実の数や木の生えている場所を変える事すら可能で、算数の問題を出すのに使っていました。
それが今となっては、どんなに変動させようが一日で覚えきられてしまうようになったのです。
「いやー今日も僕はかわいいなーと思って!!」
「そうだね、かわいいよ母さん」
普通でない成長の魔女に比べて、年相応かそれ以上の大きさにすくすく育っている男の子。今では男の子の方が少し大きいくらいです。
「さぁ、細かいことは放っておいて。ご飯を食べよう!!」
「そうだね」
大鍋一杯に満たした木の実スープを頬張る二人は、さながらヘンゼルとグレーテルの様でした。
そして18年後ーー
「お母さん、話があるんだけど」
「いいよ、聞いてあげる」
朝、魔女が目を覚ますと、いつもとは雰囲気が違うと分かる少年が居ました。
「僕、外の世界が見てみたい」
「……いいよ、いってらっしゃい。気を付けてね」
いつか別れは来ると思っていた、それにしても魔女にその別れは重くのしかかります。
初めて触れ合った人間の子、初めて自分が育てた我が子。
まだまだ魔女としては子供な彼女には、とてつもなく辛い別れでした。
でも
「いつでも……待ってるからね?」
いつか帰ってくると信じる事。自分を捨てた親に期待できなかった事がこの子にならできると、そう信じて。
魔女はかわいい子を旅立たせたのでした。
それから十年後ーー
「僕のお顔はせっかいいち~」
湖面に写った自分の顔を紙に描きとる魔女が、そこにはいました。
我が子が旅立って二年は、陰鬱な日々を過ごしていました。作りすぎたスープ。意味もなく変えてしまう木。魔女は死んだような日々を過ごしていました。
あの日までは……
「あり?こんなものあったっけ?」
子供部屋にしていた元物置部屋を掃除していると、本の隙間に小さな手紙を発見しました。
送り主は当然我が子、すぐさま内容を調べます。
『我儘になってしまうのですが、僕は母さんに顔を忘れて欲しくありません。なので、僕が帰ってくるまでの間、スケッチの練習をしておいてください。思い出の僕の顔を、描き残して下さい。』
すぐ傍にはクレヨン、色の種類は少ししかありませんが、魔女にとっての問題ではありません。
問題は
「君の顔……どんなだっけ……」
魔女の記憶力がポンコツだったということです。
「できたーー!!」
それならこうだ、と魔女は自分の顔を使ってスケッチの練習をしていました。
彼が帰ってきたら直ぐにでも描けるようにです。
そうしていると、森の外からなにか不穏な雰囲気がしてきました。
「ん??人が……数百人はいるぞ!?」
森の外の事を、魔女はあまり知りませんでした。しかし、すぐ傍の村にはそこまで人はいないという事だけは、森の小鳥たちから情報を集めていたので知っていたのです。
それがいきなり数百人の人々、それも屈強な人間に森が囲われていくのを感じて魔女は不安になっていきます。
「何をしようとしてるんだろう」
当然のように沸いてくる疑問に、周りの人間たちは答えました。
森に火が放たれました。
「っっ魔法で!!」
魔女は魔法を使おうとしました。けれど魔法の触媒は木であったので、炎が激しくなる毎に濁流の様に止まらなくなっていきます。
「はははっ、こんなことってあるんだ」
魔女狩りや、戦争など書かれてある本を読んだことがある彼女は、もしかしたらこうやって人間に殺されるかもしれないという可能性は考えていました。
それでも杞憂だと安心していたのは、彼女の魔法あってのものです。しかし、その依り代は無残にも少しづつ焼け爛れていきます。
「あーあ、折角頑張って十年もまったのになー」
200年生きた彼女にとって、最も長い28年でした。
男の子を拾ってからの日々を、魔女は忘れない事でしょう。
と、魔女が走馬灯を見始めた時。
泣き声
大きな泣き声が、聞こえてきました。
「大いなる神の恵みよ!!その知恵を以て全てを流せ!!」
泣きながら張り上げられたその声は、全ての炎を一瞬で消し去りました。
声の主は、魔女の元に降り立ちます。
「ただいま、遅くなってゴメン」
魔女は答えます。
「おかえりなさい、ずっと、待ってたよ?僕」
そこには立派に成長した大男と、ずっと変わらない姿のままの魔女が居ました。
「じゃあ、僕は人間の犯した過ちを正してくる。少し待ってて」
そう言うと彼は魔法で飛び立ち、うろたえる兵士たちの群れに消えていきました。
「改めてただいま、母さん」
「おかえりなさい。どうだった?外は」
男は一人で兵士たちを追い返し、魔女の元へ戻ってきました。
「やっぱり母さんより綺麗な人はいなかったよ。全員覚えてるからね。」
彼の目的は、世界を見て回ること、そして魔女よりきれいでかわいい人間を見つける事でした。
彼は白雪姫に出てくる鏡になったのです。
「そんなことないと思うなー、僕は世界で二番目にかわいいって今わかった、世界で一番きれいかもしれないけどね」
これまで散々自分をかわいいと言い続けた魔女が、いきなり二番目に自分をランクダウンさせたので、男は戸惑います。
「僕が言ってるんですよ?母さんは他の人間を知らないじゃないですか」
すると魔女は、男を指さします
「ここに世界一かわいい僕の子供がいるんだもん!」
すると男は外見に似合わない照れ顔をして、顔を覆ったのでした。
「そういえば!帰ってきたら君の顔を描きたかったんだ、描かせてくれるかい?」
「あっ、その件なんですが」
男は持って帰ったカバンから、一つの道具を持ち出します。
「この魔法の道具を使うと、世界をそのまま写せるんです」
この世界では珍しいカメラを持ちながら、男は言います。
「初めて撮るのは母さんが良いって思っていたので、撮ってもいいですか?」
そう言った男の手から、魔女はカメラを取り上げます。
「なるほど~、こういう道具か~」
魔女は焦る男を尻目に設定を弄ります。
「返してくださいよ~母さん!」
「じゃあ撮るよ~~1,2、」
「いきなりじゃないですか!!」
「3!!」
2人の寿命は違っていて、この物語の100年後には、また魔女はひとりぼっちかもしれません。
しかし、満面の笑みを浮かべた魔女と、困り顔をした男の写真は、いつまでも魔女の手元にあるでしょう。
こういった所で今回のお話はおしまいです。
後は彼女たちに任せて、語り部は休むことにしましょう。
この物語はTwitter上のハッシュタグ、#魔女集会で会いましょう、を軸に作られた作品です。
Twitterのハッシュタグ検索も是非して欲しいです。




