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プロローグ

 ピピッピ!っという音が鳴る。 

 手探りでスマホを探して、六時ちょうどのアラームを止める。上半身を起こし、ふぁ~と両腕を伸ばしながら欠伸をした。まだ眠い目をこすりながらベッドを出る。きちんと整理されている部屋に日差しが差し込んでいた。

 もう朝か。カーテンを開け、空を見る。雲がちらほらあるが、まぁ晴れだ。寝起きの倦怠感にため息をつきドアに向かう。

部屋を出て、多少長い階段を下りる。


「……寒い」 

 

 暖房のスイッチを入れて、誰もいないキッチンに向かう。


「トーストとベーコンと目玉焼きかな。」


 今は誰も家にいないから一人分だけでいい。食パンをトースターに入れて、フライパンに卵を入れる。白身が固まってきたところにベーコンを入れる。出来上がった目玉焼きとベーコンを皿に移して、トーストにバター塗った。

 出来上がったトーストに噛り付きながらテレビをつけると朝のニュースがやっていた。


「またしても、誘拐事件がありました。これで、ここ1か月で3件目となります。警視庁は……」


 男のアナウンサーが事件内容を詳しく説明していた。こんな事件の報告を聞いたってなんもおもしろくないよ。そんなことを思いながら冷蔵庫から取り出した牛乳を飲んだ。平日の水曜日、今日も一日が始まる。


 朝食を食べ終えた後、制服に着替える。白い肌に細い手足、完全に華奢な体型だが、男の子だ。ネクタイを結び、ブレザーを着て鏡を見る。


「あ、寝癖ついてるや。」


 ちょっとつり目だが大きい目をしている少年、かなで 勇気ゆうきの顔が映った。

 スマホを確認して、家を出る。10月の中旬で、風はもう冷たい。空は青く澄みきっていて綺麗だ。僕は、この位の冬の空気が好きだ。

 駅までの一本道に入る前の道を歩いていると一匹の猫に気付いた。気づいたというよりこちらを睨んでいるので意識しざるおえなかった。


「どうしたの?何か僕から匂うかな?」


 その猫を抱き上げながら話しかけてみた。漆黒と言っても過言ではないほど透き通った黒い毛並に、燃えているような赤い目をしていた。未だ黙って、睨みつけている黒猫は抱き上げられて暴れるわけでもなく、じっとして目を逸らそうとしない。


「ふふ、不吉って感じが満載だね君。」


 さらに話しかけてみても動かない。しばらくして、ようやくニャーと一つ鳴くと目を逸らした。降ろせと言っている気がしたので、猫を降ろし、「じゃあね」と言うと、走って何処かへ行ってしまった。


 駅について、ホームに行くと、同じ制服を着た人がちらほらいる。電車に乗って、4つ先の駅で降りる。ここまで来ると、同じ制服を着た人でいっぱいになる。

 僕が通う高校は都内でも上々と評価されていた。毎年、4倍位の倍率を出し、偏差値もかなり高いらしい。

そんな高校の校門を抜けて、昇降口に入る。2年3組2番の下駄箱で靴を履きかえる。4階建てのこの校舎は、4階から1年、3階が2年、2階が3年となっていて1階は職員室や事務室などがある。

 中央階段で3階まで上り、教室を目指す。教室に入ると、五列に六個の机が並べてある。そのうちの一番窓側で一番後ろの席が自分の席だ。


「よ!勇気!」


 席に荷物を置いた途端に男子が一人話しかけてきた。加藤かとう 健太けんた同じバスケ部で、フォワードのレギュラーだ。


「おはよ。どうしたの?」


 健太は頭をかきながら寄ってきた。


「いやさ、お前今日までの数学の課題やったか?」


「うん、全部やったよ。健太、まさか……」


「全くやってない!頼む!見せてくれ!」


 まぁ、予想どうりだ。健太はいつも課題や宿題なんかはやってこない。僕のをいつも写してその場をしのいでいる。


「はぁ……しょうがないなぁ。また今度なんか奢ってよ。」


 バックから数学のワークを取り出し、健太に渡す。


「ああ、サンキュウーな」


 笑顔で受け取って、さっそく書き写しに入っていった。


「奏君さ、いい様に使われてない?」


 近くで見ていた女子に話しかけられた。


「うーん、そんなことないと思うけど?」


「前々から思ってたけど、健太君、毎回課題とかやってこないじゃんしかも、その度に奏君のこと頼ってさ」


「……分かった。次からは気を付けるよ」


 適当に流したが、多分次も貸してやると思う。なぜなら、健太がただ楽をして課題などを写しているわけではないことを知っているからだ。

 健太のバスケにかける想いや、選手としての責任感の強さはそこらへんの高校生とは比べ物にならない位強い。学業が中心のこの高校は部活動の時間がかなり短い。だが、今年のバスケ部は県大会で優勝し、インターハイにも出場した。この活躍は健太のものと言っても過言ではないほど健太の活躍は素晴らしかった。

練習場に一番早く来るのも、居残り練習して一番遅く帰るのも健太だ。夜にランニングをしている姿をみたというクラスメイトもいる。親が進学先に厳しく言う人らしく、やむなくこの高校に進学したが、バスケへの意識の高さは強豪校のそれと変わらない。そして、その意識の高さあまりに学業にまで手がまわらないのだ。本末転倒と言われればそれまでだが、僕はそんな健太を心から応援してやりたいと思っている。

 席に座って教科書やらをバックから取り出しているとポケットの中のスマホが振動した。


――なんだろう?


スマホの画面を見ると姉からのメールだった。


「今日の夜に着くからね。ちゃんとご飯食べなきゃダメだよ!」


優しい姉で、血は繋がっていないが本当の姉のように思っている。けど、その優しさのせいか心配性なのが欠点だ。


「分かってるよ。姉ちゃんも気を付けてね」


適当に返信した。ついでに他のメールも確認しようと思ったが、担任の先生が教室に入ってきた。


「よーし、ホームルームを始めるぞ。」


出席簿を片手にいつもの様子だった。

 ホームルーム中に何故か分からないけど、さっきの黒猫のことが頭から離れなかった。あの燃えるように赤い目であの猫は僕の何を見ていたのだろう。


「まさかね……」


何か不吉な予感がする。それからの授業もあの黒猫のことが頭から離れず全然授業に集中できなかった。昼休み、食堂の片隅でバスケ部の皆で昼食をとっている時にその黒猫の話を健太にした。


「黒猫ってのは、幸せを呼ぶことだってあるんだぜ。」


 それ位は僕だって知っている。ただ、あまりにも不吉とか不幸といった言葉が似合いすぎると思ったんだ。

 午後の授業は集中して受けていた。放課後、


「おい!勇気!今日オフだけど、ジムいかないか?」


 健太が自主練の練習に誘ってきた。ほんとに頭の中はバスケだけだな。休みの日に筋トレをするといっているのだ。


「いや、いいよ。今日はやすむよ」

「お前、体細いんだからもっと筋肉つけろよ」

「分かってるよ。でも今日は姉ちゃんたちも帰ってくるし。」


――家族が帰ってくるのは夜だけど。


「ちっ、しょうがないな。んじゃあな。」


 健太は諦めて帰って行った。ふぅーとため息をついて携帯をみる。次の電車まで少し時間あるな。

――なんか疲れたし、少し寝よ


「奏、教室にのこるか?」


「はい、十分くらいですけど。」


「なら鍵任せたぞ」


「分かりました。」


 担任の五十嵐は教卓の上に鍵乗せてそのまま教室を出て行った。教室には僕以外誰も残っていなかった。机に被さるように上体を倒し目を瞑る。ふぅー、本当に疲れているな。予想以上の眠気が襲ってきた。そのまま意識が勝手に遠のいて行った。




「起きて、そろそろ時間だ」


ばっ!!

目を覚まし、周りを見回す。


「誰も……いない……」


そして、やけに暗い。スマホを見ると――


「えっ!?八時!やばっ!姉ちゃんたち迎えに行かなきゃ」


 スマホをポッケに突っ込み、急いでドアに向かって走った。しかし、次の瞬間、勇気は足を止めた。デジャブだった。

 ドアの奥で朝見た黒猫がこちらを見ている。黒い毛波は闇に紛れ、瞳が余計に光っていた。勇気は少し怖くなった。ここは高校の三階のはず、猫なんかいるはずないじゃないか――。


「君は何だ?」


「……。」

 

 黒猫は鳴きもせず、廊下を歩いて行った。

 恐る恐る黒猫が通った廊下を見ると、黒猫は隣の教室の前でこちらを見ていた。そして、勇気の姿を見ると再び歩き出した。


「ついて来いってこと」

 

 勇気は黒猫のあとを追った。そこそこ長い廊下を進み、階段を通り過ぎた。この先は同じような教室しかないし、その先は行き止りのはずだ。しかし、黒猫は進み続けた。ついに最後の教室を通り過ぎた。そこで予想外だったのはその先は非常階段に繋がる扉があったことだ。黒猫はその扉を引っ掻いていた。


「そこが目的地なんだね……」


 勇気も扉に近づいた。勇気に気が付いた黒猫は引っ掻くのやめ、勇気を見上げた。

鍵を開け、ドアノブに手をかける。黒猫の方を見ると、黒猫はニャーと鳴いた。まるで開けろと言うみたいに。そして勇気は手に力を込め、扉を開け放った。すると、そこは非常階段ではなく、見知らぬ森が広がっていた。


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