現実世界アップデートのお知らせ
白い羽衣の女が告げる。
『もうじきこの世界がアップデートされます』
全人類がこんな夢を見るようになってどれくらいたっただろう。
通称『お告げの夢』ある日を堺にありとあらゆる人間が毎晩見る謎の夢。
はじめはやれ『神のお告げ』だとかやれ『ナチスの陰謀』だとか
宗教家やおエライ学者先生が騒いでいたのが今では懐かしい。
今じゃ『あの夢』は変わらない日常の一部になってしまった。
なんだかつまんない話だ、もっと刺激が欲しかった。
トーストをかじりながらぼんやりラジオを聞く。
『現在も巷を賑わせるお告げ騒動は未だ収束せず、あの夢は真実だとまことしやかに囁かれています。』
どうせお告げが本物だろうが何も変わんないだろうに。
お告げがもし本物ならド派手に何かやってほしいもんだな。
「ジリリリリリ!!!」
時間か
行かなきゃな
ラジオを消そうと立ち上がる。
「うっ」
突然前兆のない目眩に襲われる。
何だこの目眩は!?
立っていられない! 頭が痛い! 吐きそうだ!
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『ようこそ』
声が響いて目が覚める。
目の前に居たのは白い羽衣の女・・・『お告げの女』?
『この世界は間もなくアップデートされます』
何を言っている?アップデート?『お告げの夢』の続きなのか?
『もうしばらくお待ち下さい』
お告げの女はニコリと微笑みかける。
そう告げられる いきなりさっきの目眩がやって来る。
またこれかよ・・・
再び割れそうなほど痛む頭を抑えながら俺は意識を失った。
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「ううぅ」
なんだか嫌な目覚めだ。
外が騒がしい。
なんだか心がざわつくような不快感。
ラジオの音声がやけに鮮明に耳に入ってくる。
『緊ザザ報で・!お告げザザ真実でした!今街のあちこちで今まザザッは考えらザザザ常現象が
起こっています!市民の皆・・・・全な場所で保護を待ザザさい!』
何だよこのニュース!?
この騒がしさもそれかよ!
もしかして『お告げ』はマジで神のお告げだったのか!?
とりあえず行かなきゃ! 『お告げ』でどうなっちまったのか確かめないと!
靴を履いてる場合じゃない!とりあえず裸足でいい!
ドアを開けて外に駆け出す。
「なんだよこれ・・・」
絶句した 信じられない
俺の住む街は地獄に変わっていた。
街のあちこちから火の手が上がっている。
何の悪夢だ これは
空を救助隊のヘリと煙と「空飛ぶトカゲ」が埋め尽くしている。
「ああ、きっとアレがドラゴンなんだな」
「日本に生息しているんだからきっとニホンドラゴンとかそんな名前なんだろう」
俺はそんな場違いな現実逃避をして今、目の前にある光景から目を逸らそうとした。
俺は刺激が欲しいって言ってたけどよ、誰もこんなん望んでねぇよ・・・神様・・・
散々『お告げ』を馬鹿にしといて、いまさら遅いかもしれないけど、それでも俺は祈った。
「もとに戻してくれ、いや 戻してください!」
泣きながら祈る『お告げの女』に。
もし叶うなら何だってする!やめてくれ!
目を瞑って祈る俺にまた『あの頭痛』がやって来る。
やった!祈りが通じたんだ!またあの日常に戻れるんだ!
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『ごめんなさい』
え?
なにが?
もしかして祈りの内容?
嘘だろ?
戻れないっていうのか?
「どういうことだよ・・・」
かすれたような声しか出ない。
絶望がゆっくりと鎌首をもたげる。
『あ、いえ、そうではなく』
「えっ」
『アップデートしたデータにミスがありまして』
「は?」
『すべてのデータをロールバックさせていただきます』
「つまり?」
『全部元通りですよ』
・・・やったぁ?
『では』
「うぎゅぅう」
唐突な頭痛がやって来る。
何度目だよ・・・ 意味わかんねぇ・・・ 頭いてぇ・・・
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目が覚める。
さっきと変わんない目覚めのはずだが心なしかスッキリしてる気がする。
元通り・・・何だよな・・?
全部・・・
外・・・出てみるか・・・
ベランダに出て外を眺める。
そこには火も煙もトカゲも居ない青空だけが広がっていた。
「マジで元通りなんだな」
良かった・・・
ホッと一息つく。
「ジリリリリリ!!!」
時間か
そうだ、行かなきゃ
刺激がなくて、退屈で、でもとってもハッピーな『いつも通りの日常』に!