第9話 カッパは夢の中
何年か前の話・・・
雄大がチップネスに入る前・・・
つーか大学時代の事である。
当時雄大は日大の四年生でボクシング部に所属していた。
後楽園ホールで行われる大学生ボクシング大会の為、部員は練習に打ち込んでいた。
遊ぶ暇もないぐらいだった。
オリンピック強化選手に選ばれた雄大にとっては負けられないのであった。
そのためかいつもより一段と練習に打ち込めるのであった。
当日は津軽の沼ガッパの里から家族が応援に来ることのなっている。
「雄大、ミット打ちやるぞ」
「うっす」
雄大は監督らしきオッサンに呼ばれ、サンドバッグを叩くのを止めリングに上がった。
「んじゃ、始めるぞ」
「うっす」
雄大は監督らしきオッサンがかざすミットをめがけパンチを繰り出した。
「ワンツーばかりじゃなくアッパーやフックも出せ!」
「うっす」
雄大は監督に言われアッパーとフックを出した。
「そうそう、その調子!」
「うっす」
監督は水平に空気を切る様に手を出した。
雄大はそれを見て背を丸めるようによける仕草をした。
「まだ行くぞ!」
「うっす」
雄大は打って行くうちにだんだんと気合が入っていったようだ。
その日の練習はスパーリングを含め夜遅くまで続いた。
しかし・・・
雄大は目覚めた・・・
びっくりするようにがばっと起きた。
しかもカッパの姿で・・・
「クェー(なんだ大学時代の夢か)」
今日は日曜日の朝6時台、チップネスは10時近くの開店である。
起きたばかりか絶賛朝立中であった。
「クェー‼(はーっ‼
起っている‼)」
しかもそれなりでかかった。
雄大は必死に萎える妄想をした。
ババアの裸である。
この前萩原に強引に見せられた60代熟女のAVや漫画太郎の漫画に出てくるババアの裸を思い出していた。
必死に妄想していると朝立していたティムポが収まっていった。
「クェー(収まって良かった、一度起つとなかなか収まらないからな~)」
どうやら津軽の沼ガッパの勃起の持続性は凄いらしい。
彼女とはカッパの姿でエッチするのもうなづける。
人間の姿の時でも変わらないとは思うけど・・・
つーか、人間の姿でやった方がいいのかもしれない。
「クェー(そうだ、もうそろそろ着替えてごはん食べないと)」
雄大は冷蔵庫から朝食を取り出した。
ちょっと色が変なきゅうりだった。
絶対腹壊しそうな感じのモノだった。
だけどカッパの雄大は美味しそうに食べていた。
完全におかしかった。
カッパはきゅうりを食べ終わると人間の姿にポンと変身した。
「さて、行くとするか」
着替えを終えた雄大は部屋を後にし、東武練馬のチップネスへと向かった。
そして出社して昼休みになった頃だった。
雄大は食事のため近くのラーメン屋に居た。
しかし注文を待つ間、何か考え事をしていた。
(昨日のファイティングラッシュのあとの記憶がねーんだよな・・・
終わって着替えて、そのあとやっと釈放された萩原さんから電話があって・・・
そのあとがさっぱりだな・・・)
雄大はそのあとの事が思い出せずにいた。
飲み会やって酒で覚えてないだけか、それとも・・・
(絶対おかしい・・・
今日起きた時は何でカッパの姿になってたんだろ・・・
この前なんか路上で寝ちゃったときはともかく・・・)
その時は朝の買い出しにロー〇ンに向かってたりゅうにスマホのカメラで直接激写された。
カッパは酒に弱いのかとしか言いようがないのか、おそらくは雄大が酒に弱いだけなのか、謎である。
「へい!お待ち!」
店の親父が雄大に注文したラーメンを差し出した。
雄大はカウンターにあった木箱から割り箸を取りだし割りばしを割った。
麺を箸に絡ませ、それを持ち上げ口に入れすすった。
さんげにスープを入れ、それもすすった。
そのラーメンは美味しかったようだ。
カッパならきゅうりなのに・・・
(ん?
待てよ・・・
そっか、萩原さんに誘われて駅前のミライザカに行ったんだっけ、そこで日曜日のパワーラッシュで会うおばさんが居たんだっけ、でも後はどうしても思い出せないな・・・)
雄大はそれ以上はどうやっても思い出せなかった。
しかも朝起きた時はカッパの姿だった。
何かあると思いながらもラーメンをすすった。
雄大はふと思った。
もしかしたら萩原は雄大自身カッパだと知ってしまったのではないかと・・・
そしたらあのおばさんにも見られたって事にもなる。
これはヤバいとカッパとしては思うのは当たり前であろう。
津軽の沼ガッパの里には他人には正体をバレてはいけない掟があるのだろう。
本当にあるとしたら、萩原とそのおばさんを始末つけなければならないのだろう。
雄大はラーメンを食べ終わった。
「ごちそうさま」
会計を済ませ、店を後にし、チップネスへと戻った。
萩原は家でオナニーに明け暮れているのである。
しかしそんな事はどうでも良く、世界は回っているのであった。