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ずっとおぼえてる   作者: ことり あきこ
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京都 1981年 ④

 眞子は物心ついたころから、買い物にいっても小児科へいっても近所を歩いていても、大人たちから

「眞子ちゃん、いつ見てもかわいいなぁ」

「ほんま、べっぴんさんやなぁ」

 と言われて大きくなった。


 無自覚な資質に向けられる注目は嬉しいというよりも気恥ずかしく、生まれつき内向的な眞子を更に出不精で引っ込み思案にさせたが、そんな性質さえも

「控えめで」

「大人しくて」

「手がかからない」

 といった印象を周囲に与え、

「きれいで頭がよくて大人しくてしっかりした子」

 とのイメージが定着した。


 母親がいなくなってからもそのイメージは変わらず、

「おとなしくてしっかりした子」

 だから放っていおいても大丈夫、と思われているうちに、眞子は大丈夫ではなくなっていった。


 ぜんぶ夢で、朝起きたらお母さんが元気なころに戻っていますように…


 母親が死んでから、眞子は毎晩、呪文のようにそう唱えながら眠りについた。


 しかしそのような奇跡が起こるはずもなく、しだいに、なぜお母さんは急に死んだのだろう、なぜ自分は死に目にも会わせてもらえなかったのだろう、と考えるようになっていった。


 そしていつの間にか、別の呪文を唱えていた。


 なぜわたしがかわりに死ななかったんだろう―――わたしも早く死ねますように、と。 


 母親の死はすべての子供にとって衝撃的なことだが、母親がいないすべての子供が同じ孤独と痛みを味わうわけではない。


 世の中には母親の分まで愛情をそそいでくれる父親もいれば、仕事で不在がちな父親もいるし、もともと父親がいない子供もいる。


 同士のように支えあえる兄弟姉妹がいる子供もいれば、兄弟姉妹に虐待される子供もいる。


 祖父母が親代わりになってくれる子供もいれば、親戚や施設に預けられる子供もいる。


 眞子には生まれたときから祖父母がいなかったし、父親である幸雄ゆきおは家事育児のすべてを妻に任せてきたので、初枝の死後しばらくは朱実が家事を引き受けた。


「朱実が仕事やめて家のことするって言うてくれたときは、いやあ、有難かった」


 葬儀の後、幸雄が親戚にそう話しているのを聞いて、姉がデパートを退職したことを眞子は初めて知った。


 自分は何を知るのも最後だ。


お母さんが死にそうなときにも、誰も教えてくれなかった。



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