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第1章 魔術学校のやる気なし魔術講師

「……なあシアン、そろそろこの仕事を引き受けてはくれないだろうか?」


 妙齢の女性が困った表情をして目の前に居る男ーーシアンに向かって話しかけていた。


「……うーん、うーん……うーーん?……うーん……」


 シアンは唸りながら思案顔をする。


「……そんなにこの仕事が嫌か?」

「……うーん……」


 女性ーーエレオナが話しかけるも、シアンは唸り続ける。

 そしてシアンはぼそりと呟いた。


「巨乳か……? いや、しかし貧乳もありか? うーん」


 エレオナは絶句した。

 自分の話は今まで無駄だったのかと。


「…………な、なあシアン。私の話は聞いていたか?」

「え! あ、すまん全くこれっぽちも聞いていなかった」


 なんの悪びれもなくシアンはエレオナに向かって返す。

 瞬間、エレオナの額から青筋が浮かび上がった。


「……なあシアン、私はお前をこれほど小さいときから一緒に暮らしてきた」


 エレオナは自分の腰辺りに手をやり静かに口にした。


「ああ、そうだな。ん? そうだったか? もう少し大きかったはずだぞ」


 話しの腰を折るようにシアンはエレオナに返す。


「はぁー……まあそんなことはいい。要するに私が言いたいのはだな。シアン……」


 次にエレオナが発した。


「お前ここに住むの禁止」


 シアンは膝が折れ地面につき、そのまま両手も地面についた。


「なん、だと? おいエレオナ、正気か? この俺をここから出すって言うのか?」

「ああ、もう貴様を養えきれん」


 絶望したシアンを横目にエレオナは吐き捨てる。


「じゃ……じゃあ俺はこれからどうすればいいんだ? どうやって生きていけば……」

「知るか……と言いたいところだが一つ方法が無いわけではない。はぁーやっと話しを戻せる」


 ここまで来るのにどれだけの労力を費やしたことか。

 エレオナは深いため息を吐いた。


「話しはもどるがシアン。お前魔術師講師をしてみないか?」

「え、俺が? なんで?」


 シアンは本当になぜ? と言った表情でエレオナを見る。


「し、仕事に困っているだろ? だから……」

「何を言っているのか知らんが、俺はどうやって楽して生きていけるのかって聞いているんだよ。なぜ仕事の話しがでるんだ?」


 エレオナの額に更に深く青筋が入る。


「シアンもうお前死ねよ。このゴミが」

「ゴミはないじゃないかゴミは。せめて塵と呼べよ」

「どこが違うんだよ!」

「なんかこうニュアンスがちがうんだよ。ゴミより塵の方が響きがいい」


 どちらにしろゴミ同然ということなのにも関わらずシアンは否定する様子もなく塵で満足している。


「わかった、じゃあ働かなくていいからもうこの家から出て行け」

「バカか! こんな俺が外に出たら死んでしまうだろうが! お前の養いが必要なんだよ!  もう自分一人では生きていけないんだよ! 分かるか? 『人』ってのはな人と人が支え合って生きていかないといけないんだ! 俺はお前が必要なんだよ! お願いだ!」


 シアンは四つん這いでエレオナの足にすりより乞う。


「ええい、離せ! 貴様は人としての恥を知らないのか!」

「恥なんてとうの昔に捨てたわ! そんなものでメシが生きていけると思うか! 知っているか、『人』って言うのはな一人が一人にもたれ掛かって楽しているんだ。だから俺がお前にもたれ掛かって楽をする。なっ? 理に適っているだろ?」

「なにが『理に適っているだろ?』だ。さっき言っていたことと全く違うじゃないか! もう、本当に死ね。死ねよ」


 しかし、シアンは不適な笑みを浮かべる。


「俺が死ねないのは分かっているだろ?」

「くっ……」

「だからな……お前に俺を養わせてやる!」


 シアンのその人ことによりついにエレオナの青筋ははちきれんばかりに膨れ上がった。


「≪フレーム・ソリューション≫」

「ふぎゃぁああああああああ!!」


 エレオナの呟きと共に手元から魔法陣がマグマが吹き出しシアンを襲った。








 エレオナの脅しが利いたシアンは講師として半年間、非常勤講師として働くことになった。


「はぁ、なんで俺が教師なんかに……まあ仕方ないんだけど」


 授業が終わり廊下を歩いていたシアンはこの仕事を受け持つことになった理不尽さを一人愚痴る。


「せ、先生!」


 不意に背後から話しかけられる。

 しかし、シアンを無視し廊下を歩き続けた。


「先生! 先生ってば!」

「ああ、もう! 誰先生か知りませんが呼ばれていますよ! 俺の後ろの子がかわいそうだから早く反応してあげてください!」

「あなたですよシアン=エレクサー先生!」

「えっ俺? ああ、そうか俺教師だったわ。いやー、すまんな先生なんて呼ばれなれていなくてさあ。んで、何か要か? えっと……」

「イリシア=エイボーグです」


 シアンの目の前にいる女子生徒ーーイリシアはジト目でシアンを睨む。

 紅ともいえるその赤い髪と瞳が特徴的な少女だ。


「おうおう、それでイリシア俺に何か?」

「そうです! さっきの授業、もっとどうにかなりませんか? いくら何でも酷すぎです! 前任者のドルイ先生はもっと……」

「ドルイ=デサルか、有名な魔術講師でありながら遺跡探索家でもある奴だな。たしか、二週間前に死んだとか。いやぁ、自分の研究テーマで死ぬなんて、これだから魔術師はアホなんだよ」

「死んでいません! 行方不明です! ……それに魔術をバカにしないでください! 魔術師もです!」


 イリシアはキッとシアンを親の敵のように睨む。

 それをシアンは何食わぬ顔で受け流した。


「ああ、分かった分かった。分かったからこの話しはもうおしまいだ。お前が言うことは一々昔のことを思い出させる。まったく……いやな事を思い出させやがって」


 誰かこの場にいない人物にシアンは悪態を付く。


「それでは、今後からちゃんとしてください。よろしくお願いしますね」


 そう言い残すとイリシアは次の授業に間に合うように駆け足で教室に戻っていった。


 イリシアはちゃんと言った。次からちゃんとした授業をしてくれるだろう。そう思いながら教室に戻る。

 しかしシアンの心には微塵たりとも響いていなかった。







 次の日、シアンの受け持つ授業にて


「えっと、あーこんなの習ってたか? 覚えていないんだが……。えーと知らんがこれがこうなってこうなるんだ。……え、これ五大元素を用いるのかよ! まじかよ俺これ苦手だわ……ここ飛ばしちゃダメか?」


 と、昨日と変わらずといった授業態度であった。

 最初は生徒たちは、この授業からなにか得られるものがないかと必死に聞いているものも居たが、今ではそれがアホらしくなり各々(おのおの)が自分で教科書を読み勉強し居ている始末である。


「くっそー、あいつ……昨日ちゃんと注意したのにッ!」

「ま、まあイリア落ち着いて」


 イリシアは昨日の自分の行動は無駄だったことに腹を立て、それを隣の金髪の少女が宥めていた。


「だってセシリーあんなのだよ! 私耐えられないわ!」

「先生にもなにか考えがあるかもしれないよ?」

「あれのどこに考えあるって言うのよ!」


 イリシアが指さすのは未だにこちらに聞こえるか聞こえないかくらいの声でしか話していないシアンだった。

 黒板には相変わらず読みとれない程の汚い字に絶対魔術が発動しないだろと思わせる魔法陣が書かれている。

 昨日より字と魔法陣が乱雑なのは今やっている授業内容がシアン自身苦手だからだろうと読みとるのは安易にできた。


「あははは……」


 これのどこに考えがあるのと言うのか。

 さすがにセシリアもフォローができずに苦笑いをする。


「まったく、エーネル教授がなぜこんな奴を講師に推薦したのか謎だわ」

「ほんとだよね、教授ほとんど国の依頼とかで引っ張りだこって聞くのに今回は教授が自らこの教室に来て話したもんね」


 予定ではシアンが来る十分前にエレオナがその身で一のEに足を運びシアンの事を紹介した。

 エレオナ曰く


『まあ、やる気とか生気とか色々とないがやるときはやる奴だ。君たちが受けてきた授業の中でも特に印象に残る授業になるだろう。楽しみにしておくといい』


 だそうだ。

 実際イリシアたちにとっては違った意味で印象的になった授業である。

 エレオナの言った前半は正解だが後半は全く持って期待はずれも良いところだ。

 そして次こそはちゃんと注意して、授業をまともにさせてやるとイリシアは心に誓った。

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