スプリット
聖騎士の放った弾丸が洞窟内を跳ね回り、ゴブリン達を駆逐していく。地形を利用した跳弾スキルだ。
その後ろで盗賊が頭を掻いてぼやく。
「あーあ、まーた仕事取られちまったなぁ」
「そう急くなよ、ボスはお前に譲るさ」
軽口を叩きあったところで、二人は自分達に迫るその気配を敏感に察した。
「おい......」
「なんだ、これは?」
異様な気配。この地下階層のボスではない、もっと別の、数十レベルも上の、とてつもなく危険なものだと二人の直感スキルが告げていた。
そして、速い。移動速度が――速すぎる。
盗賊の手首に填めた時計兼フィールドマップに突如として現れた赤い点。敵対存在を表すサイン。瞬く間にそれは第4階層を通過し、最下層の、この第5階層までやってこようとしている。
「第3階層のモンスターか?」
「いや、あそこにこんなレベルの怪物がいたなんて聞いてないぞ」
「どうする、逃げるか?」
「いや、間に合わねえ......迎え撃つしかねえ」
二人は各々の武器を構えた。
共に歴戦の強者だ――目を見交わして笑みを浮かべたのは一瞬、構えた後は姿の見えない超速の敵に、微塵も油断を見せない。どこから来るのか、八方に神経を集中させている。上か、下か、横か、それとも――
風が吹いた。
同時に、冒険者の身体が二人分、数百個の肉片となって地面に落ちた。
遅れて、そこら一帯に血がばら撒かれる。
芋虫に似た生物が蠢いて、忽ちそれに群がった。
「我が兄ながら、どうしてひどい絵を作るもんだ」
今日も実験を終えた少年が、モニタを見ながら呟く。
コーヒーを啜る音が、その研究室に響いた。
その研究室は、どこかにあってどこにもないし、永久にダンジョンと研究室は交わらない。
ただ、ダンジョンには、時折彼の兄がやってくる。
冒険者の血を求めて。壊れた実験の玩具が玩具を欲してやって来る。
そう、その時は迷わず逃げることだ――絶対に逃げ切れないから。
了