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34話 融合

       ■



 アワリティアはまだ納得いかないのか、何故だ何故だとブツブツ呟いている。


「佳奈……俺はあの《マリシアス》から皆を守りたい。アイツをぶっ飛ばしたい」

「うん」

「でも情けないことに俺には何の力も無いから……だから力を貸してくれよ……佳奈」

「うん……じゃあ、手を取って」


 俺は言われるままに佳奈の手を握る。


「あの《マリシアス》と戦う力をコウちゃんに与えてあげる」


 佳奈の全身から光が立ちのぼり、それが巨大な光の扉に変化する。

 ネシャートに市ヶ谷の命を救って貰ったときより遙かに巨大で豪奢な扉だった。


 それを見て驚いたのはアワリティアだけでは無い。ネシャートも驚愕し、震えていた。

 そうだ。確か以前ネシャートが言っていた。

 『扉』の大きさは魔人の『格』によって変わると。格が上がれば『扉』も大きくなると。

 ネシャートが作り出した『扉』の大きさは五階建ての建物くらいだったが、今佳奈が作った扉はそれとは比べものにならない。

 天を衝くとはまさしくこのことだ。

 扉の天辺を視認できないほど……それほどまでに大きかった。


 そして俺の体から光の鍵が顕れる。

 以前見たものより大きな鍵。

 俺に取っての願いの形。

 その鍵が鍵穴に差し込まれ、回る。ゴウンと大きな音を立て、扉がゆっくりと開き始めた。


 直後に静寂が訪れる。

 いや、ほぼ無音となっている。

 見渡せば、周囲の時間が止まったかのように動かない。

 光に呑まれかかった世界、その世界の時間が完全に止まっているようだった。


「……これは……時間が止まってるのか?」

「……私も初めて見るよ?」


 佳奈も見たことが無いという現象に若干の戸惑いを憶えたが、「多分、誰かに邪魔されずに願いを叶えたいって気持ちが、私たちの中にあるからじゃないかな」と佳奈に言われ、そういうものかと納得する。

 俺の中に芽生えた『願い』。それを佳奈以外に聞かれるのは、少々気恥ずかしいと思っていたので、この状況は正直ありがたい。


「コウちゃんの願いは何?」

「俺が寂しくないよう佳奈が傍にいること。佳奈が寂しくないよう俺が傍にいること。それから……どうした?」


 ふと佳奈を見ると、何故か顔を真っ赤にして恥ずかしそうにモジモジしてる。


「いや、だって……まさかいきなり告白されるとは……」

「告白って、佳奈はもう少し今の状況の空気読もうぜ?」


 空気どころか時間も固まってるけどな。


「空気読んでないのはコウちゃんだよ!?」

「お前が俺の願いを聞いたんだろうが?」

「《マリシアス》を倒すことだけ言うかと思ってたんだよ!」


 そんな訳ないだろう?

 以前の俺なら願いが無いとか言ってただろうけど、今の俺には叶えたい願いが山ほどあるんだ。今更何を遠慮する必要があると?


「ああ、もう。最初っから言い直すぞ?」

「最初っから!?」

「今なら時間にも余裕ありそうだし」

「一触即発の状況だよ!?」

「願いを言い切るまでは時間止まってそうだし」

「……やっぱり空気読んでないのはコウちゃんだと思う……」


 そんな佳奈の驚愕と狼狽を無視して俺はもう一度願いを口にする。


「俺が寂しくないよう佳奈が傍にいること。佳奈が寂しくないよう俺が傍にいること。俺の周囲の人間が《マリシアス》なんて理不尽によって不幸にならないこと。あとは《マリシアス》をぶん殴れる力が欲しい……いつか佳奈が《解放》されるその時まで……」

「……気付いてたんだ……?」

「なんとなく……な……」

「ああ、あと肝心なことを言ってなかった」

「まだあるの!?」


 ちょっと呆れた様に驚く佳奈を俺はかなり強い力で抱きしめた。


「あと…………お帰り……佳奈」

「ふえッ!?……こんなタイミングで言わなくなって……」

「今なら誰も見てないしな……それに……」

「それに?」

「……本当ならもっと早くに言いたかったんだよ」


 俺の右頬に佳奈の左頬が触れる。腰に回した腕をさらに引き寄せ、空いた手で柔らかい髪を撫でた。


「もう何があっても、黙っていなくなるような事はするな」

「……コ……コウちゃん……でもアレは、私の意思じゃ……」

「それでもだ」

「……ぐすッ………………言ってることムチャクチャだよ」

「俺の願いだからな」

「…………うん……」

「例え俺の願いが、世界を改変してしまうのだとしても、俺の願いは変わらない……変えるもんか」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!」


 佳奈は震えながら俺の胸に顔を埋めた。

 俺の背中に腕を回し、全身を俺に押しつけんばかりに抱きしめ返してくる。


「う、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」

「もう一度言うぞ。佳奈……お帰り」

「た……ただいまぁぁぁ。うわあああああああああああん。それから、それから……ご……ごめん……なさいッ! いなくなってごめんなさいッ! うわああああああああッ!」

「ああ、もういいんだよ」

「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……コウちゃん……コウちゃんッ! コウちゃんッ! コウちゃんッ! コウちゃんッ!」

「……佳奈ッ」

「うわあああんッ! 好きッ! 大好きッ! うわああぁぁぁぁぁ……」

「ああ、俺も……お前が好きだ」


 気が付けば俺の目から溢れた涙が頬を伝って落ちていた。

 外界の時間が止まった空間で、願いの扉が開ききるまでの間、俺たちは抱き合って泣き続けた。



       ■



 光が収まると、俺は一人でアワリティアと相対していた。

 佳奈がいなくなったのではない。

 俺には佳奈が誰よりも傍にいると分かっていた。

 自分を見ると服装が学校の制服ではない、別のものに変わっている。

 赤いコートの様にみえるが、あちこちに意匠が凝らしてあり、なんというかコスプレっぽい。


「アメコミヒーローか何かか?」


《こういうの、コウちゃん好きでしょ?》


 幻聴では無い、はっきりした声が頭に直接響く。

 いや、デザインとしては好きですよ。ええ。

 でも自分で着るとなると別問題なんだよ。本音を言えば外でこういう格好をすることには抵抗あるんですよ? 今は抗議する時間も無いんだけど。


「人とジーニーの……融合?」


 ネシャートがそう漏らす。

 そう……俺の願いを叶える為、アワリティアを倒すため俺の中に佳奈が融合していた。

 外見は俺のままなんだけど、内部から湧き上がる力が人間のソレとは大きく異なっている。

 視界の端に佳奈の顔が見えるが、これも俺だけに見えてるんだろう。


『うん、今は一体化してるから、この姿はコウちゃんにしか見えないね』

『なるほど……』


 俺は頬ずりするんじゃないかと思えるくらいの距離にいる佳奈を見る。

 佳奈の顔から首、鎖骨のあたりが見えるんだが……。


『って、なんで全裸なんだよッ!』

『あんまりジロジロ見ないでよ!』


 あまりに緊張感のない遣り取りに苦笑してしまう。

 これから《マリシアス》アワリティアと決戦だというのに。

 だが、これが俺と佳奈なんだろう。そうはっきり理解できる。

 それを理解できたなら、あとはやらなければいけないことをやるだけだ。


『さあ、ヤツをぶちのめすぞ!』

『うん!』


 アワリティアは怒りに顔を歪めてブルブルと震えている。怒りのあまり歪むその顔には少女の面影は無く、光の加減もあってか醜悪な老婆のように見えた。


「なんだ、それは……一体何なんだ! その姿は何なのだ! 貴様らは一体何なんだ!」


「お前をぶちのめす者だよッ!」


 これ以上の問答は必要ない。取り敢えず今は……。


 殴るッ!



佳奈「うふ……うふふ……うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ♪」

航一(しまった……あんなこと言わなきゃ良かった……絶対調子に乗ってる……)

佳奈「コウちゃん♪」

航一「……なんだよ?」

佳奈「うふふふふふふふふふふふふのふw」

航一「殴って良いか?」

佳奈「こっちが先!?」

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