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24話 航一の想い

まさかの短期間での投稿が出来る日が再び来るとは……

集中できる空間を作るって大事なのね。

市営図書館の学習室侮れませんw


      ■



 当初の俺の警戒を他所に、何事もないまま市ヶ谷を家まで送った。

 まあ、何事もないのは良いことなんだが。

 勿論、送っただけではなく、この後もネシャートは分身を市ヶ谷の周囲に張り付かせる手筈になっている。と言っても、ネシャートの姿は見えなくなっているので、市ヶ谷の両親に気付かれることもない。

 今はそれについて、市ヶ谷も了承済みだ。


「でも、何か監視されてるみたいね」

「す、すみません。市ヶ谷さんのご両親に気を使われる事なく護衛につくには仕方なくて……あの、勿論市ヶ谷さんが私に話しかけて下さるなら極力返答しますので……」

「軽い冗談のつもりだったのに、そこまで恐縮されると逆に申し訳なく思うわね」

 慌てるネシャートに苦笑する市ヶ谷を見てると、多少のぎこちなさが見て取れる。でもこれはお互いに距離を詰めようとした結果のように思う。長いこと特定の友人のいなかった市ヶ谷と魔人としてーーしかも、目的が魔人として生きることから解放されるためにーー存在し続けたネシャートが普通の友人になる……そんな新しい関係の始まりを見ていると、この関係ができるだけ長く続くよう願わずにはいられない。

 この二人に木嶋も加わって、更に新たな関係が広がるのだろう。

 あとは、ここに……。


「どうされました、ご主人様?」

「え?」

「なんか変な顔してたわよ?」


 変な顔とは酷い。

 ただ、市ヶ谷と木島、そしてネシャートとの会話の中に、佳奈もいたらそれはどんな光景だろうと、そう思っていたのだ。


「何かニヤついてました」

「うん、ちょっと……アレな感じだったかな」

「アレって言い方が嫌だなぁ……」


 いや、そんな二人とも気持ち悪いものを見るような目をするのはやめてもらえませんかね。


「何? そんなに気持ち悪かったですかね?」

「気持ち悪いって訳じゃないんだけど、なんというか……」

「はい、何か良からぬことを考えているように見えました」

「……真っ直ぐ気持ち悪いって言わないようにしている、その優しさが辛いッ!」


 心が折れるよ。最近、精神的に弱ってるんだから、本当、やめて、お願い。


「……ぷっ」

「フ……フフフフッ」

「なんだよ、二人して」

「少し元気が出てきたようで、良かったです」

「そうね、それには同意」


 え?

 ああ、そうか。変な空気の原因は俺だったのか。

 そうだよな。佳奈のことを考えるあまり、俺は周りに気を使えてなかったよな……。自分ばかり辛いと思い込んで、俺を心配してくれてる人たちのことが目に入ってなかったのか。


「二人とも、その……ありがとう。それから、ごめんな」

「な……何よ、いきなり」


 市ヶ谷がうろたえ気味に半歩下がるとネシャートも不思議そうな表情をして俺を見つめ直す。


「あのさ……市ヶ谷とネシャートは……いや、もちろん木嶋も俺のことを心配してあれこれ気を使ってくれてたのにって思って。なのに俺はそんな周囲の気遣いにも気付かず、甘えて……いや、甘ったれてばかりで……。そのことに気が付いて、なんか申し訳ないなぁって……」

「ああ、そういうことでしたか」


 ネシャートが得心したように頷く。


「こちらとしては、もっと分かり易く甘えてくれてもいいのにっておもってるんだけど?」

「甘美な誘惑だな」

「ちょっと、変な言い方やめてよ」


 市ヶ谷がちょっと頬を染めて抗議してくる。

 でもそっちが先に顔が赤くなりそうなことを言ったんだからな。


「まあ、誘惑ってのは冗談にしても、自覚して甘えたりしたら歯止めが利かなくなるというか、溺れてしまいそうで……」

「バッチ来い」

「うおいっ!」


 市ヶ谷さん、性格変わってませんか?

 いや、昔の『チカちゃん』はこんな感じだったか。

 どことなく佳奈に似てるんだよな。

 ……いや、佳奈が似てたというか、『チカちゃん』に似た行動を取るようにしてたのかもしれないな……などと益体もない考えが浮かんだ。


「市ヶ谷の家の前なんだけど、胸に顔を埋めてスリスリして甘えて良いんだな?」

「大声は出すけどね」

「申し訳ありませんでした調子に乗ろうとしましたすみません。土下座するので許してください」

「近所の目があるから、それは止めて貰える?」


 そういや、市ヶ谷の家の前に来てそこそこの時間が経過している。あまり長居をすると例え土下座をしなくても、ご近所に妙な噂がたつかもしれないな。


「じゃあ、今日の処はこれで帰るわ。また明日」

「うん、また明日」


 そういって玄関に消えていく市ヶ谷を見送ってから、ネシャートと二人で帰路についた。



      ■



 市ヶ谷を送った帰り道、ふとしたことに気が付く。


「なあ、ネシャート」

「何でしょうか、ご主人様」

「道端でご主人様は止めて、じゃなくて。今も市ヶ谷のそばにネシャートの分身がいるんだよな?」

「はい、お言いつけ通りにしておりますが?」

「で、その姿は市ヶ谷の両親や市ヶ谷本人にも見えてない状態ってことで良いのか?」

「ええ、その通りですけど、それが何か?」

「こんな事ができるなら、わざわざ学校に通う必要はなかったんじゃないかな?」


 そうなのだ。

 いくら俺に願いを叶えて貰いたいからなるべく傍にいたいのだとしても、姿を消せるならその状態で俺に張り付いていても良かった筈だ。

 正体がばれる危険を犯してまで、転校生として学校に潜入する必要はなかった筈だ。


「うーん、そう言えばそうですねぇ。理由の一つとしては、ご主人様のお母様が是非ともと勧めてくれた事があると思いますが……うーん」


 お袋……あんたのせいかい。


「そうだったとしても、その格好のままでなくても良かったんじゃないかって思うんだよな。姿を変えてというか、高校生っぽい外見でも良かった気がして……」


 俺の発言に、ネシャートは一度、目を剥いた後、ちょっと不満げに両頬を膨らませた。


「言った筈ですよ、ご主人様。私はこの格好を気に入っていると」

「あ……」


 確かに初めて会ったとき、そう言っていた。

 あれは別に俺を慰めようとしてくれていたのではなく、本心でそう思っていたのか。


「だから私は、自身の姿を今の姿以外にほいほい変えようとは思っていません。それに……」

「それに?」

「それに私はきっと……こうしたかったんだと思います。この姿のままで、ご主人様と佳奈さん、それに市市ヶ谷さん達との輪の中に入って生きてみたかったんだと思います。明確にそうかと言えるほどの根拠もないのですが……多分そういうことだと思います」


 それは、この間までのネシャートからは聞けなかったであろう言葉。

 自身というものが無く、魔人としての漠然とした目的しかなかった少女が、自分の意志で紡いだ言葉。

 佳奈を見て「少し羨ましい」と言っていた魔人の少女が生み出した小さな変化。

 先程からの少し自信の無さげな、というか自分の言葉に戸惑っているようにも見える少女の変化は、良い方向へ向かっている兆しだと、そう認識できた。


「どうかしましたか?」

「いや、良い傾向かと思ってさ」

「何がでしょうか?」

「ネシャートの心が、ほんの少しだけ自由に生きた、その証拠なんじゃないかって思ったんだ」

「あ……」


 俺はネシャートにかつて「『力』を使わない範囲でなら、誰かと笑いあっていたいとか思うなら自由で良いんじゃないか」と言ったことがあった。

 あの時のネシャートはまだ、心の自由さを自身に認めていなかった。転校してきたのも、お袋の指示だったからだろう。だけど、その後で、俺達と共に過ごしたいと思い始めたのはネシャートの意志だと思う。

 そういう変化があったことは、すごく喜ばしいことじゃないか。


 そういえば佳奈にもこういう変化があったのだろうか。

 笠羽航一の幼馴染として生きていく間に、どこかでこういう変化を感じていたのだろうか。

 それとも、俺の願いを叶え続けるためだけに、佳奈という人格を最適化した結果、ああなったのだろうか。

 空恐ろしい思考がよぎって、俺は軽く身震いする。


「ご主人様?」

「え? あ、ああ。何?」

「何か不安なことでもあるんじゃないですか?」

「あ、いや。不安というか、ちょっと嫌な想像をしてしっまっただけだよ」

「話しては……貰えませんか? 私だって、もっとご主人様の力に、支えになりたいんです」

「……いや、佳奈はどうだったのかなって。あいつは俺の願いを叶え続けるために俺の傍にいたんだろう? そんな佳奈の心は、自由に生きていたのかなって、そう思ったんだ」

「そんなの! 自由に生きていたに決まっています!」


 あまりのネシャートの熱の入った言葉に、思わず驚倒する。

 そこまで断言されるとは、正直思っていなかった。


「そんなに断言できるものなの?」

「はい! 間違いありません!」

「でも、どうして?」

「ご主人様は覚えていますか? ご主人様が『自由でいて良い』って言ってくれた時、そんな魔人が過去にいなかったか聞いてこられたことを……」


 ああ、確かにそう言った。


「それは当然、覚えているよ。その時確かネシャートは『多分一人だけ』とか言ってたよな」


 そこまで自分で言ってハッとなる。


「もしかして、その『一人』ってのは……」

「はい……佳奈さんです」


 その言葉に、さっきまでの不安が一瞬で霧散した。


「そっか……」

「はい、私は佳奈さんに会ったとき、心の底から羨ましいと思いました」

「羨ましい?」

「はい、魔人でありながら、その心の在り様は自由で、そして幸せそうでした」

「幸せ? 佳奈が?」

「それに気が付かないとなると、流石にご主人様の人格を疑います」


 辛辣な言葉で返されたが、それこそが確証であるかのように思える。

 何より、俺は佳奈といて幸せだった。それは佳奈が幸せそうだったからだ。当然、佳奈は俺にその姿、真実の全てを俺に見せていた訳ではない。それでも、佳奈を思い出そうとして脳裏に浮かぶのは、屈託のない明るい笑顔だけだった。


「だからご主人様。佳奈さんを取り戻しましょう」

「え?」

「佳奈さんのいた世界を……、佳奈さんのいることが日常の世界を……、佳奈さんが幸せでいられる世界を……、他の人から見たら改変された世界だったとしても、ご主人様にとっては唯一の一番大切な真実の世界をッ!」


 今までネシャートから感じたことのない強い意志が籠った言葉に、心がブルッと震えた。その震えに呼応するように胸の奥からこみ上げてくるものがあり、気が付けば俺は涙を流していて、それを抑えることができなかった。

 そうか。

 そういうことか。

 俺は誰かに佳奈がいた世界が嘘じゃないと言って欲しかったんだ。

 まぼろしなんかじゃないと、そう告げて欲しかったんだ。

 だから取り戻そうと、俺の背中を誰かに押して欲しかったんだ。

 気が付けば俺は膝を地面について、ネシャートにしがみつくようにして泣いていた。誰彼はばからず、佳奈を失って以来初めて、俺は大声を上げて泣いていた。

 ネシャートは俺の肩に手を置いて、ただ黙って俺が泣き止むのを待っていた。



実は当初、ここで航一は自分の気持ちに整理がつけられない筈でした。

だけど気が付いたら何故かここで幼女にしがみついて泣く始末。

……これ、一歩間違ったら通報されるような……Σ( ̄ロ ̄lll)

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