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22話 約束

久々の更新になります。

もう忘れられてますかね(;゜∀゜)

 結局、当事者である木嶋が俺を許したこと、何より市ヶ谷と木嶋による説得が功を奏したのか、俺に対する処分はお咎め無しとなった。


 俺達は小杉先生に頭を下げると、指導室の扉を閉める。指導室の前で待っていたネシャートと合流し昇降口に向う頃には既に十六時を回っていた。


「みんな、色々ありがとうな……」

「何だ今さら……らしくないじゃないか」


 木嶋の言葉に、市ヶ谷もネシャートもうんうんと頷く。


「いや、今日は何か……色々と世話になりっぱなしだからさ……俺が一方的に悪いのに、停学どころか処分無しとなったのは二人がいてくれたからだと思うし……」

「友達が苦しんでいるんだ、力になりたいと思うのは当然じゃないか!」


 木嶋は胸を張ってそう答えた。発言といい振るまいといい、さばさばとしてて……こんな言い方は怒るかもしれないが、下手な男子生徒より男らしい。


「私だってそうよ! もっと頼ってくれても良いのにって思ってる……」


 市ヶ谷もそう言ってくれるが、何故か後の方に成るほど声が小さくなっていった。

 ネシャートも同じ気持ちなのか、訴えかけるような目で俺を見ながら首肯した。


「兎に角、僕も含め皆、笠羽君が困っているなら頼って欲しいと思っているんだ。だから率先して頼ってくれた方が僕たちも嬉しいんだよ」

「……木嶋って、物凄く良いヤツなんだな……」

「何だ、今さら知ったのか?」


 木嶋がニヤリと笑った。


「え? ちょっと私は!?」

「あ、いや……市ヶ谷が良いヤツなのは前から分かっていたから……」


 市ヶ谷の言葉に、俺は慌てて弁明する。

 いや、ホント。ここ数日だけをとっても、いくら感謝してもしきれないよ。

 もちろんネシャートも。

 ネシャートはそんな俺の考えを感じ取ったのか、俺を見ると少し嬉しそうに肩を振るわせた。

 そんな俺達をみて、木嶋が少し悪戯でもしてるかのような表情を浮かべ、俺に身を寄せ呟いた。息がかかる程近い。うっすら柔らかいものが上腕部に触れた。


「なら、今度埋め合わせをしてくれないか?」

「……何か最近、埋め合わせしなきゃいけない人が増えてんなぁ……あと、近いって」


木嶋の言葉に、俺は木嶋から半歩離れてから頭を掻く。


「あ、ちゃんと覚えてたんだ。感心感心」


 市ヶ谷が皮肉混じりにそう言った。

 ちょっと半目になってる。というか、少し怒ってらっしゃる。

 いや、忘れてた訳ではないですよ。ホント。今朝のことをそんな簡単に忘れたりしませんて。

 あと何故かネシャートも半目になってるんですけど?


「埋め合わせって、具体的には何すれば良い?」

「そこは君は考えてくれよ。ただ相当な埋め合わせでないと僕は納得しないからな」


 飛びっきりの笑顔でさらっとハードル上げて来やがった。良い奴って言ったの訂正したい。


「当然だろう。僕は君に胸ぐらを捕まれた時、皆が見ている教室で純潔を奪われるのかと覚悟したのだ。なのにあっさり謝って終わりでは、あまりに一方的ではないか。僕の覚悟をどうしてくれる。」

「そんな覚悟すんなよ!」


 いきなりこの娘は何を口走ってるんですか? つうか、木嶋にとって俺はそんな危険人物に指定されているんですか?

 他のクラスメートにまでそんな認識になってませんよね?

 木嶋が一人で勝手にそう妄想しているだけですよね?

 というより、そもそも木嶋の妄想にまで埋め合わせしないといけないんですか?


「んで、具体的に何をすれば良い?」

「うーん……ここで君から提案してくれると僕としては嬉しかったんだが、そこまで求めるのは酷というものなのかな」

「何か、俺は気が回らない男だと遠回しに言われてる気がするんだが?」

「それに気が付いただけ、まだマシといったところかな?」


 もしもし? 何気に酷くない?

 木嶋は俺の非難の視線を気にしたふうもなく、悪戯っぽい笑みを俺と市ヶ谷の双方に向けていた。


「そうだな、僕はこの歳になってもなんというか、一般の女の子らしいイベントというものをあまり経験したことがなくてね。良かったら今度、僕とデートというものをして貰ってもよいだろうか?」

「んなッ!」


 俺の返答より先に変な叫び声を上げたのは市ヶ谷である。


「いや、それで良いなら……でもそれって、本当にお前がしたいことか?」

「君は結構残酷だね?」

「は?」


 なんか俺、酷いこと言ったか?


「いや、分からないなら良いよ。で、君の質問に対する返答だが、僕はしたくないことを見返りに要求するような奇異な人間ではないつもりだよ?」


 それまでいつでも爽やかな表情を崩さなかった木嶋が、初めて少し落ち込んだような態度を見せる。上目遣いに俺を見る目に、今まで木嶋から感じたことのない女の子らしさを見つけ、思わず俺は視線を逸らしてしまった。

 逸らした視界の端に、こっちを睨んでいる市ヶ谷の姿を捉え、居心地の悪さを憶えてしまう。

 いや、そんな睨まないでくれ、俺から言い出した事じゃないんだと目で訴えるが、じゃあ何でOKしたんだと逆に突き刺さるような視線で返答された。

 ……なんで分かるんだ? お互い分かり易いというのもあるのだろうが、それにしても以心伝心が過ぎやしないかと心の中で苦笑する。


「で、デートの件は了承して貰えたって事で良いんだよね?」


 俺が別の事を考えていたのを見抜いたのか、木嶋が念を押してきた。


「あ、ああ。勿論!」


 やや抗議めいた意思が言葉に込められていて、思わずそう返答する。

 しまった。木嶋の前に市ヶ谷に埋め合わせをすべきなのに、こう押し切られてしまっては今更市ヶ谷の後でと言う訳にはいかない。

 もしかしてそれも計算の内なのかもしれない……コイツも中々侮れないな。


「じゃあ、連絡先を教えてくれないか」


 ねだるように少し甘えた口調でそう言う木嶋に、若干動揺しながらも、俺はスマホのアドレスを交換した。

 アドレスの交換が終わると木嶋は今までにないほど嬉しそうに笑った。


「いや、まさか男の子の連絡先を教えて貰える日が来るとは思わなかったよ。じゃあ、連絡をまってるから。また明日!」


 そう言うと木嶋は俺と市ヶ谷を置いて走り去った。あまりに嬉しそうな顔をされ、気恥ずかしい気がしたが、木嶋はもっと恥ずかしかったのかもしれない。だからこそ、走り出してしまったような気がした。

 で……。


「そんなに不満?」


 俺は市ヶ谷の方を見ずにそう問いかける。


「だって、私……アドレス教えて貰ってない……」

「え? そうだったっけ?」

「そうだよッ!」


 そういえば、そうでした。


「ご主人様は酷い人です」


 ネシャートまで俺に厳しい。ちょっと生きてるのが辛くなってきた。


「ごめん。なんか既に交換しているつもりになってた。あのさ……改めて連絡先を交換してくれないか?」

「う……まあ、そこまで言うなら……良いけど……」


 渋々ながらも市ヶ谷は連絡先の交換に応じてくれた。


「市ヶ谷も今度どこかでかけるか?」

「………………ッ!」

「嫌……だったか?」

「……………………嫌な訳ないじゃない」

「そうか、良かった」


 俺は心底ホッとした。

 何故だろう。同じ事を木嶋に言うより、何倍も緊張した。

 しかし、これじゃぁ、俺……。


「……………………笠羽君の女ったらし……」

「ゴメン。俺も今、自分でそう思った」


 俺達はお互いの顔を見て苦笑した。

 なんか、理由は分からないが妙に気恥ずかしかったのだ。

 そんな俺達を、ネシャートはまるで慈愛の女神のように見つめていた。



     ■



 そんな航一達を日傘を差した少女は悔しげに見つめる。

 その瞳には憎悪の炎が燃え盛っていた。


 確かに致命傷だった。

 手遅れのはずだった。

 なのに目的の少女は何事もなかったようにピンピンしている。

 これでは契約が成立しない。

 契約の内容を自分の都合の良いように変えても、最終的に成立しなければ魔力を吸い上げることが出来ない。

 しかも、件の少女にはジーニーが傍についており、以前と同じ手段は使えそうにない。

 思わず歯噛みする。端正な顔が醜く歪むほどに。

 これでは、今の契約者から魔力を吸いきって早々に航一に乗り換えるつもりだったのに、その予定すら立たない。

 先日、ジーニーの気配を感じてはいたのだが、まさか目的の少女や航一の近くをウロチョロしてるとは思っていなかった、

 事前に分かっていればそれなりの手段をとることが出来たのに、契約者に任せたまま自分で行動しなかったばかりに、かなり面倒なことになっていた。

 自分の怠惰をいまさらに呪うしかない。


 どうやらあのジーニーの契約者は航一であり、少女は護衛対象のようだった。

 先日の件から航一がジーニーに護衛するよう『願った』のだろう。

 ならば今の願いをキャンセルさせて別の願いを叶えさせるよう仕向けるか……。

 そうすれば必ず隙が出来る。

 再度護衛の願いを叶えようとしても、そこには必ずタイムラグが発生する。

 問題はその手段だったが……。


 そこで日傘の少女はあるものを目にする。

 これは使えるかも知れない。

 人間は自分の力でどうにもならない事態に陥ったとき、もし超常の力が使えるならと願ってしまうことがあることを、マリシアスである彼女はよく分かっていた。

 そういう力にすがってしまうことを知っている。

 だから自分のような存在がいるのだ。

 航一がそういう状況に陥ったら、必ずジーニーに願ってしまう状況を作れば良い。

 幸いあのジーニーは《調度品》クラス。

 大抵の願いは叶えられる。

 少女の護衛よりも大切な願いを作り上げれば良いのだ。


 日傘の少女は航一達に視線を向けたまま、悪意に満ちた魔女の笑みを口許に浮かべた。



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