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十字架  作者: 帝王星
妖の脈動
3/18

第二話

 闇で光が蠢く。


「ケイロン、本当にやるのか?」


 紅い光点は全部で16個。そのどれもが妖しげな輝きを放っている。


「最近の人族の行いを考えれば、当然の報いだ」


 声はどちらも若い男の声だ。


「いいんじゃない?とりあえず誰かが死ねば、俺は満足だよ」

「僕も、ユミル兄に賛成かな」


 甘さのある二人の青年らしき声が肯定する。


「…僕も、殺すのは苦手だけど…それでも人族は憎い」


 幼さの残る声が恐る恐る賛成の意を表明する。


「僕も、レルネ兄さんと同意見だよ」


 少年の声も仕方のないというような返事を返す。


「テュール、あとはお前だけだ」


 テュールと呼ばれた者は答えを出しあぐねているのか、返答しない。


「妖精や夢魔は実験のために乱獲されてきた、雪女や吸血鬼に至っては侮辱としか言い様のない扱いを受けてきた」


 それぞれが過去や記憶を思い返しているのか、一瞬の静寂が訪れる。


「テュール…これでも人族を庇うのか?」


 どこからともなく歯軋りの音が聞こえる。


「…憎い、人族が憎い」


 声はあどけない少年のものだった。

 部屋に佇む8つの人影は紅い瞳で互いを見ていた。


「やるかやらないの問題ではない、やるしかないのだ」


 リーダー格らしき影は重々しく告げる。


「テュール兄さん、兄さんは…僕の気持ちを裏切るようなことはしないですよね」


 飄々とした明るい声が暗い部屋に反響する。

 静寂が部屋を包み込む。しばらくすると、一人、また一人と席を離れていく。


「遠くには行くな。まだ話し合いは終わっていない」


 人影たちは小さく頷き、部屋を出ていく。

 最後に残った二人の影は互いを紅い瞳で睨んでいた。


「ケイロン、貴様らしくない。踏みとどまれ」


 向き合った二つの光点は、相手を睨み殺そうとするほど鋭かった。


「無理だ」


 ケイロンと呼ばれた声の持ち主は静かに目を閉じる。


「すでに(あやし)たちは計画のために『あれ』を集め始めている。もはや止められないのだよ」


 歯軋りの音が響く。


「こんなやり方、間違っている…なぜわかり合おうとしないのだ」


 テュールと呼ばれた声の持ち主は机に拳を叩きつける。衝撃で台が軋む。



 朧月夜の中、屋根瓦の上に二人の青年が佇んでいた。

 一人は艶のある黒髪、もう一人は目にも鮮やかな黄緑の髪だった。表情が違いすぎるため目立たないが、顔立ちはよく似ていた。


「今回の計画、どう思いますか?」


 黄緑の髪の青年が先に口を開く。


「僕としては一大イベントになりそうで楽しみですよ」


 微笑む青年の血のように紅い瞳だけは笑っていない。


「お前としては獲物がかかれば十分じゃないの?」


 黒髪の青年はどことなく気だるそうに返す。


「相変わらずですね、ジーク」


 黄緑の髪の青年は、さんざん言われてもなお笑みを崩さない。

 青年はふと思い出したように口を開く。


「あ、すみません。 その性根の腐りようは元からでしたね」


 金属音。

 日本刀と西洋ナイフが黄緑の髪の青年の首の前で制止していた。


「…ホント、僕の刺突を止めるなんて、どんな筋肉してるの?吸血鬼の怪力を止めるなんてね…」

「これでも伊達に殺し屋なんてやってませんから」


 ジークと呼ばれた黒髪の青年は不満そうに目を細める。


「…はぁ、面倒くさい。どっか行ってくれない?カエラ」


 カエラと呼ばれた青年は微笑むだけだ。


「あぁそうか、どかしてやる手間がいるのか」


 鈍色の閃光。

 ジークが後方宙返りをして銀の閃光から逃れる。避けた先にも次々と閃光が追尾する。


「何?しつこいんだけど」


 ジークは相変わらずの無表情のまま、連続で放たれる銀の閃光をかわし続ける。


「僕のようにあなたも口の聞き方をわきまえるべきでは?」


 カエラが手に持っていたのは、鈍く光るダガーナイフだった。


「関係ない」


 ジークは腰の刀を抜き、飛んでくるナイフを叩き落とす。


「お前みたいなやつになりたくないから、丁重に断らせてもらう」

「そういうところが無礼なんですよ」


 カエラの顔から笑みが消える。


「あなたの教育をしている僕の身にもなってください」

「お前なんかに教育されたことはないし、されたくもないんだけど?」


 二者が睨み合う。4つの紅い瞳は互いへの殺意に染まっていた。二人が刃を構え、相手に切りかかろうとしたそのとき。


 突如二人の間に氷の壁が現れ、立ちはだかる。


「兄さん、喧嘩はよくないよ…」


 幼い少年の声だった。氷の階段を登り現れた少年は、真夏だというのに首にマフラーを巻き、コートを着込んでいた。


「なぜ邪魔をするのです?」


 カエラは微笑みながら少年に尋ねる。目だけはまるで重力の穴のように、黒い感情をむき出しにしていた。


「ケイロン兄が、みんなを呼んでこいって…」


 少年の周りだけ雪が積もり、息は白い湯気となって口から漏れている。


「…興が削がれた。今日のところはこれまでにしておいてあげるよ」


 ジークはカエラを一瞥し、屋根から華麗に飛び降りる。カエラもナイフをしまい、屋根から降りる。



「久しぶりだね、魔界!」


 桜はいきなりテンションが高くなる。


「前来たの何年前だっけ、すごい懐かしい!」

「遊んでもいいけど、迷子にならないようにね?」

「子供扱いしないでよ、柊兄…」


 桜は頬を膨らませて拗ねる。


「でも本当に久しぶりだ」


 椿は商店街の先の方を見ている。


「久しぶりにバアルさんたちに会えるな」


 バアルさんとは魔界でギルドを立ち上げ、今も魔物討伐などの仕事をしている悪魔のことである。

 戦い方を学んだこともある師のような存在だが、ドジなのが玉に傷だ。


「まずはお昼にしようよ」


 桜が椿にランチの催促をする。兄は困ったように頬をかき、「安いものならいいぞ」と了承する。

 桜は嬉しそうにファーストフード店へ駆け込む。店の中は魔族たちが楽しそうに食事をとっていた。


「いらっしゃいませ。3名様でしょうか」

「はい」


 ウェイトレスが僕たちを席に案内する。


「ご注文がお決まりになりましたらこちらのボタンでお呼びください」


 席に座った僕たちにメニューとお冷やを渡し、ウェイトレスは他の客の対応に戻っていった。

 メニューを開き、目を輝かせる桜。


「ここ好きなんだ、美味しいし、お洒落なお店だし」


 乙女の表情となった桜はメニューをめくり、いつも注文する品の乗ったページを開いた。


「私これにする、お兄ちゃんたちは?」

「うーん…」


 僕も兄もメニューを見るも、なかなか決まらない。


「俺はこれにしようかな」


 先に兄が決めてしまった。


「じゃあ僕も同じやつにしよう」

「柊、別に俺に合わせることはないんだぞ?」

「僕もそれ食べたかったし」


 本当はなんでもよかった、という本音は隠しておく。


「みんな注文決まったし、僕飲み物とってくるよ」

「俺はココアで」

「カフェラテお願いね、柊兄」


 ちなみに僕はカプチーノ派である。


「わかった、取ってくるね」


 席をたち、飲み物のコーナーへ。ジュースやお茶にお湯、コーヒーの類いが並ぶ。

 兄と妹のご所望のものを見つけ、カップに注いでいく。


 カップを持って戻ろうとすると、後ろから来た人とぶつかってしまった。

 相手の白いシャツにコーヒーやココアが染みを作っていく。


「っ!すみません!大丈夫ですか?!」


 あれ、この人、どこかで…


「リーダーまたドジってんの?」


 奥からスタイルのいい女性と、若い男性が歩み寄ってくる。


「あはは!朝の鳥の糞命中事件に続き、今日で二度目のドジ!さっすがリーダー!運気最悪!」


 顔から血の気が引いていく。僕がコーヒーをぶちまけたのは、紛れもなく先程挙げたバアルさんだった。


「余計なお世話だっ!…全く、今日もついてねぇな…」


 バアルさんは知り合いらしき男性に顔をしかめながら言うと、溜息を吐きながら染みの広がる白いシャツをつまむ。


「あちゃー、こりゃ取れないだろうな…」


 そしてすぐに視線を下げ、血の気が引き表情が固まってしまっている僕を見た。僕に見覚えがあるといった表情になり、眉をひそめて僕の顔をじっと見ながら2秒程思考を巡らせる。


 背筋が凍るほど緊張している僕をよそに、バアルさんは次の瞬間にはハッとした表情で笑みを浮かべる。


「お前、柊か?久しぶりだなぁ!」


 怒られると思っていた僕は、バアルさんの意外な反応に驚き呆然としていた。


 バアルさんはお構いなしに、ぶつかってシャツに染みができたことなど無かったように、笑顔で気さくに話しかけてくる。


「あれ、リーダーその人と知り合い?」


 先程バアルさんを小馬鹿にするように茶化していた男性が首を傾げながら尋ねる。


「あぁ、こいつは昔俺のところに武術を学びに来た、桐ヶ崎柊ってやつだ」


 バアルさんは僕の肩に手をのせながら男性に話す。男性は「へぇ…」と言いながら僕の顔や服を見定めるように眺めてから笑顔を見せた。


「なかなかいい服のセンスしてるね!柊君だっけ?君」


 先程から相変わらず固まったままの僕は「ぁ、はいっ」と緊張気味に返事をした。


「俺は君の隣でコーヒーまみれになってるリーダーのギルドに属してる、シトリーってもんだ。ほら、これ名刺」


 先程の軽い喋り方とは打って変わって、シトリーと名乗った男性は素早く名刺を僕に差し出した。


「コーヒーまみれは余計だ」


 頬を膨らませるバアルさんを気にしつつ、僕はおずおずと名刺を受け取り、男性の名前、ギルドの電話番号と住所が載っているのを確認した。


「それよりリーダー。早く溢れたコーヒーとか拭いて。柊君さっきから困った顔してるから」


 そんなやりとりを見ていたスタイルのいい女性は、呆れながら少し尖った口調でこう言った。


「あ、わりぃそうだった!さっきはぶつかって悪かったな…柊…」


 バアルさんは今になってその一連を思い出したらしく、僕に謝りながら付近やおぼんに零れた飲み物を拭き始める。


「あ、いえ…僕こそすみませんでした…」


 僕の謝っている姿を見て、シトリーさんはまた何かバアルさんを茶化す言葉を思いついたのか、口元が吊り上がる。

 だが口にする前に、女性に指示を出される。


「あとシトリーは変に名刺カッコつけて渡してないで、飲み物新しく取ってきてあげなさいよ」

「へっ、変にカッコつけてなんかいないよ!」


 慌てて取り繕うように返答するが、女性の鋭い視線に耐え切れず、シトリーさんは「しょうがないな」と言い、僕の手からおぼんとカップを回収して飲み物を取りに行った。


「自己紹介がまだだったわね」


 女性は視線を僕に移すと凛として話す。


「私はドジリーダーのギルドに所属してるストラスよ」


 辺りを拭き終わった隣のバアルさんから「ドジって言うなっ!」と悲痛な声が聞こえた。


―三話に続く―


チャットルーム

―情報室の中枢部―


―修さんが入室しました―

修:お邪魔します

数神:こんにちは、お久しぶりですね

包帯:こんにちは、俺は初めましてかな?

ティンク:…こんにちは…

修:数神さん、お久しぶりです。ティンクさん、包帯さんは初めまして

ティンク:初めまして…ティンクです…

数神:久しぶりにここの情報を頼りに来ました

数神:何かめぼしい情報ないですかね

包帯:中枢さんは今はいないみたいだね

ティンク:…情報…めぼしいかわからないけど、ある

修:本当ですか?差し支えなければ聞きたいです

ティンク:…うん、実はね、最近黄泉が騒然としてるらしいよ…

修:黄泉が…?

ティンク:なんか妖たちがどんどん人間界に来てるらしい

数神:…何かありますね

包帯:何かが起こりそうだね…

数神:なぜ人間界に集まるのか、ヒントはないんですか?

修:また、人が何かしたんですかね…

ティンク:…最近妖狩りが活発になってることと関係があるのかな…

包帯:可能性はありだね…調べてみるよ

数神:なぜわざわざ妖狩りの被害に遭う確率の上がる人間界に来るんでしょうか

修:気になりますね…

ティンク:…僕も妖だけど、さっぱり…

包帯:じゃあ、情報集めに行ってくるよ。またね

―包帯さんが退室しました―

数神:いってらーです

修:包帯さん行ってらっしゃい

数神:ちょっと自分も情報漁ってきますね

―数神さんが退室しました―

修:わかりました、数神さん行ってらっしゃい

ティンク:…怖いですね…

修:そうですね…

ティンク:…二従兄弟たちにも聞いてきます

修:わかりました。僕もそろそろ行きますね

ティンク:ノシです

―ティンクさんが退室しました―

―修さんが退室しました―

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