真実の鏡空
エレンは大花盤に乗って、硝花の丘に来ていた。以前の任務で来た時と変わらず、硝花は未だ粉々に砕けたままだ。その欠片を踏まないよう、注意しながら、エレンは草原の真ん中に立ち、空を見上げた。
「この空が…いつもは私たちを映すだけなのに、真実も映し出すなんて…」
──でも…そんな話、一度も聞いたことないわ…どうしてアンジュさんは知ってるの…?
「…ううん、それよりも、私が求めてる答えが知りたい…お願い、教えて…アールが私に、何を隠しているのか…私は一体、何者なの…?」
その瞬間、エレンのその呼びかけに応えるように、空を舞ってきた水花が、彼女の視界を遮った。細かな水飛沫が、彼女に涼を与える。視界が晴れたその時、エレンは目を見開いた。
「…え…?」
視界に飛び込んできたのは、大勢の金髪の女性たち。空に映し出されているため、逆さではあるが、はっきりとエレンの周りに、彼女と同じ淡い金色の長い髪を揺らす女性たちがそこにいた。
「わ…わた、し…?…違う…似てるけど、みんなまったく違う、人…? でも、こんなにたくさん…どうして…?」
よく見ると、エレンの言うとおり、全員の瞳の色や顔立ち、肌の色にも若干の違いがあった。全員に共通しているのは、長く淡い金髪ということだけであった。
するとエレンは、もう一つ、自分の立っている場所と、映し出されている場所とで、大きな違いがあることに気がついた。大勢の金髪の女性たちが立っているため、地面が見えにくいものの、はっきりとその存在を主張しているものが、そこにはあった。
「苺…?」
女性たちの足元…エレンが立っている草原と同じで多くの硝花が砕けているにもかかわらず、空に映し出されているそこには、小さな赤い実が地を這っていた。それも、普通の苺ではなく、硝花と同様に美しい真っ赤なルビーかガラスでできた苺。周囲が黄金色で染まって見えるおかげで、真紅の実がアクセントで浮き上がって見えた。
苺の実を辿って見ると、広大な草原の一面に広がっているのがわかる。そして、さらにまた一つ気が付いた。一部の苺が、ある女性の足元で畝のように塊を成しているのだ。その女性を見て、エレンはさらに目を見開いた。
「母…様…!?」
エレンが驚いていると、鏡の中の女性がこちらに気付き、優しく微笑みながら、ゆらゆらと手を振った。ここにいるよ、という合図なのか。それとも、また別の意味か…
その刹那、再び水花が彼女の視界を遮った。思わず目を閉じるエレン。ゆっくりと目を開け、空を見上げると、映っている場所も場面も変わっていた。次に映っていたのは、以前アールと共にこの草原に任務で赴いた時。ちょうど襲撃された時が映し出されていた。それと同時に、不思議なことに、エレンの脳内に声が聞こえてきた。
『そこの"彼女"…エレン。君に来てもらいたい』
「…これ…あの時の…?」
少しずつ、軽い頭痛を伴いながら、アールによって消されていた記憶が蘇る。
そして…
『"女神の写し子"を渡せぇっ!!』
「っ!」
その言葉を聞いた瞬間、エレンの中で、何かが弾けて割れる音がした。それから、今までアールが消してきた記憶も全て、はっきりと蘇ってきた。
「わ…たし…私は…"写し子"…? あの、女神の…?」
軽い目眩に襲われ、右手で頭を押さえながら、ゆっくり地面に膝をついた。目からは、知らぬ間に涙が溢れていた。
「どう、して…? どうして私…泣いてるの…? どうして…!!」
広い草原で一人、エレンは両手で顔を覆い泣いた。自分の正体を知ったことの衝撃か、重大な事実を隠されていたことに対する失望か…その理由は、今の彼女でさえもわからなかった。今はただ、溢れてきた涙を流すことしかできなかった。




