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7:訣別Ⅵ

「クソ兎ィ!」

「来いっ! デズモンドッ!」


 躍動する。一直線のデズモンドの攻撃を読み、アルはカウンターを狙う。ゆらめく魔力。動きを予測しろ。デズモンドの動きの先を読め。

 アルの思考は冴えていた。だがそれを嘲笑うように、デズモンドは拳をビタッと寸前で止める。


「っ……!?」

「飛べっ!?」


 フェイク。相手の思考を止める挙動。悟ったアルが対応する頃には、デズモンドの攻撃は済んでいる。

 止めた拳から放たれる一撃。空気を操るデズモンドには容易い。アルの顔面に空気の衝撃が襲った。


「がっ……はっ……!?」


 赤く染め上がる顔。綺麗な白い肌は、一気に爛れた血の赤に染まった。

 咄嗟に魔力でガードしたことで、思った以上にダメージを負わせていない。冷静にデズモンドは戦況を、アルの魔力の流れを読み取る。

 (きた)る第二撃をアルは咄嗟にデズモンドの手首を上に弾く。カラクリを読み切ったからには、軌道を変えれば衝撃は躱せる。

 そのまま腕を引き上げてバランスを奪う。左の拳をデズモンドに叩き込むが、掌で受け止められた。重力を帯びたアルの一撃も、ビリビリと衝撃が発生したはずだが、デズモンドの表情は変わらない。


「らぁっ!?」


 デズモンドの右手首を掴んだまま投げ飛ばす体勢に入る。すぐに掴んだ拳を離すデズモンドだが、腕一本でデズモンドの体を持ち上げる。

 宙を舞い、デズモンドを地に叩き付けるつもりだ。重力の荷重を重ねて、威力を底上げする。

 デズモンドは足だけしっかり着地させ、背中は地と水平でありながら、地に背中を着かせることなく、僅かに空中でギリギリ浮いた状態で止まってしまう。


「効くかよ」


 下から見上げるデズモンド。掴まれていない左手をアルに向ける。すぐさまアルは上半身を動かし離脱する。空気圧の攻撃を躱して反撃に持ち込むが、デズモンドの攻撃をいなした間に、デズモンドは腕を抜き、体勢を整えている。


「今回はてめぇに合わせてやるぜ」


 こきっと拳を鳴らして振りかぶる。剣の類は使わないと宣誓したのだ。そして両の拳から繰り出されるラッシュ。何発かまともに受けてしまったが、すぐに反撃する。


 まさに拳の弾幕。デズモンドはアルの拳を見切り、頭だけ躱してみせる。しっかりと相手の動きを読み、拳を振るう。

 一方アルは、すぐに左拳を叩き込む。防御を固めるデズモンドとは真逆である。一瞬驚いたデズモンドだが、冷静に拳を受け止めようとした。その時、デズモンドの開いた掌ごと打ち抜いた。


「なっ……」


 容易く受け止められたのはついさっきのこと。驚愕して怯んだ隙にアルは攻め込む。防御を無視して攻撃することだけに特化した動きだ。


 アルのラッシュを受けながら、デズモンドは少しだけ合点がいったようだ。


(なるほど。手に集中させた魔法。ただの魔力ブーストだけでなく、重力を最大限に拳に集中させてやがるな。単純な手だがたいした威力だ)


「だがよぉ」

「……っ」


 打ち込んだ拳を頬に受けながらも、デズモンドは凍てつくような視線だけをアルに向ける。

 心臓を鷲掴みされたような感覚に陥ったアルが、一瞬動きを止めてしまう。


「そんなチンケな手がいつまで持つかって話だろ」


 デズモンドは天才だ。短絡思考に映るときもあるが、敵の能力、思考まで分析して、対処法を編み出す戦闘センスの持ち主である。


「パワーアンクル何キロ分だ?」


 重力を拳に纏う。攻撃力は格段に跳ね上がるが、当然重力により拳のみとはいえ、体力は大幅に持っていかれる。

 デズモンドがすでに弱点を看破したことを悟る。が、これが今できる最大限の、アルの戦い方だった。


 防御を捨て、どれだけ拳の弾幕が襲うとも無視して、デズモンドを打つ。だがそんな策略も、アルの腕は徐々に上がらなくなってきた。デズモンドによりめった打ちに遭ってしまう。


 すぐに腕を交差させて防御態勢を取る。

 頃合いを見計らううちに、アルの腹部にデズモンドの蹴りが叩き込まれる。


「……がはっ」

「くくっ、……離せよ」


 蹴りに耐え、咄嗟にアルはデズモンドの脚を掴む。


「離すかよ」


そう言ってアルはデズモンドの体を足一本を掴んだままだ。


「ったく、鬱陶しい兎だ」


 デズモンドの足から放たれるは空気圧の衝撃。アルは零の間合いから受け体を浮かせてしまう。そのまま後ろへと吹き飛んだ。


「く、そっ……」


 家があったはずの瓦礫のほうへアルの体が投げ出されるが、かろうじてアルはまだ戦う意志を残している。頭から血を流し、腰を落とした状態から立ちあがろうする姿は痛々しくも勇ましい様子だ。


「ぐぅ……ぅ……」


 だが、無情ともいえるデズモンドの攻撃を緩めはしない。動きが鈍くなったアルに向かって、手掌を伸ばす。

 アルの首に締め付ける衝撃を加えるよう、魔力を操っている。

 体力も魔力も枯渇しかけているアル自身に、逃れる術はない。必死に首を絞める手を止めにかかるが、実際の実物は遠く離れたデズモンドの手掌だ。


「さぁどうするクソ兎。ようやく、あの世に送ってやれるようだな。今まで俺が殺したお前らの仲間に逢ったら、よろしく言っておいてくれな」


 抵抗らしい抵抗もできず、勝負はついた。このままではアルまでもが殺されてしまう。

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