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7:訣別Ⅴ

「さっきとは違いますか。面白い。どれだけ違うのか見せてもらいましょうか」

「……」


 膨れ上がったデズモンドの魔力。奥底がまるで見えない魔力量。風を纏い、空気を操ることをもはや隠す気などない佇まいであった。


「お前はここで斃す。もうお前に仲間を殺されるのはうんざりだ」

「それはこっちのセリフですねぇ。聖十字セイントクロスとかいう蛆虫は……ここらで捻り潰してやんよっ!」


 デズモンドの不可視の魔法。魔力の増大さは隠す気はないが、その効力はまだまだ底を見せていない。アルもそれは分かっている。仕掛けるのはデズモンド。身体能力は、そこらの騎士のレベルなどとうに超えているのは明白だ。直線の動きだけでも、洗練された無駄のない体術である。

 空気というより、風を纏った剣を向ける。常人なら退きたくなる殺気。しかしアルは、臆することなく立ち向かう。否、懐に潜り込む。剣を持った相手に向かって、さらに一歩踏み込んだ勇ましさも、評価に値するが、デズモンドの並みならぬスピードを超えて、間合いを詰めたのだ。

 デズモンドは、さきほどまでのアルの動きとは、かけ離れた予想をも上回る速さに瞳孔を開いた。


「なんだと……」


 すぐに繰り出しやすい蹴りへ意識を向けるが、アルのほうが先手となる。魔力を溜めたであろう赤いオーラを帯びた拳で、デズモンドの腹部に思いっきり打ち込んだ。


「あああぁ!」

「ぐふぁっ……」


 打ち上げるように振り抜いた拳。デズモンドの体を吹き飛ばしてしまった。その体は、木々にぶつかり、それでも勢いが殺されず、バキバキとさらなる後方まで吹っ飛んでしまう。


「ほう……」


 リディアも噂にはきいた兎の実力。それを目のあたりにして称賛の声を漏らす。なかなかの魔力。あのデズモンドを吹っ飛ばすとまでなると、一目でリディアからしても実力者であることが伝わったはずだ。そこに、エルムが攻撃を仕掛ける。余所見をしているリディアに向けて、断罪パティス大鋏・シェーレンを振りかざす。


 まるで視界の外に意識は向いているはずが、やはり悠々と細い剣一本で、しかも片腕でエルムの身長と同じ大きさほどの鋏を受け止める。


「くっ……」

「もう少し楽しませな。赤フード。無理かもしれないけどね」


 わずかばかりの鍔迫り合いで、実力にかなり差があることを思い知られる。けど、だからといって退くわけにはいかない。魔女姫を斃すチャンスが目の間にあるのだから。


「くっそ」

「そろそろ受け止めるのも飽いた。今度はこちらから攻めてあげる」


 的確に急所を狙う刺突がエルムを襲う。瞬きすらする暇を与えないほどの神速。。これがリディアの能力か。

 エルムが戦った第三部隊隊長が使った突きに似ているが、威力も速さも全く非なるものだった。

 間一髪で躱したエルム。風圧で僅かにフードが浮きそうになる。金色の髪がパラっとかすめる。ただの突きではない。まともに喰らったらただでは済まないことを理解する頃には、もう次の突きが繰り出される。


「そら、次だ」

「っ……」


 点を読み、線で躱す。エルム自身の俊敏な動きと、獣のごとく嗅覚と危機察知能力がなければ、凌ぐこともできないほどの神速とも言える突き。


「そら、呆けている暇などないぞ」

「な、ん……」


 鋏で受けとめる。躱しけれないと察知した突きに対して、自分の体との間に挟み込む。

 ガキィィン……。


 なんて重い。一介の騎士が持っているサーベルと変わらない。だというのに、エルムと変わらないそんな細腕のくせして、なんて重い一撃を繰り出すのか。エルムは困惑にも近い感情を覚える。


「いちいちこの程度で驚くな。小娘」

「……っ」


 ビリビリと、断罪の大鋏を持つ手にも振動が響く。何がこの程度か。苦々しくエルムは危うく笑ってしまいそうな出鱈目っぷりに、驚くなというほうが無理だと、内心で悪態をつくのが精いっぱいだ。

 リディアが可憐な顔で、突きと思わせた攻撃から一瞬にして、切り結ぶ剣技へとシフトさせた。


「さて、そろそろウォーミングアップもこれくらいにしとうかと思うのだが、そっちはどうだ? 体は温まってきたか?」

「ふざけてるね……」


 これが魔女姫。これがガラスの靴を持つとされるリディア姫。しかもおそらく、ただ剣を振っているだけで、まだ魔法なんか使っちゃいない。

 早くアルに加勢してもらわないと殺されるかもしれない。エルムの危機察知が良すぎるのも考えもの。自分の死期を早期に感じ取ってしまう。

 まだまだ児戯のつもりなのか。無垢とも映る表情を浮かべた、リディア姫を見ての素直な感想である。

 だが、エルムの思惑と違い、アルが加勢に来るのは当分、いや下手すれば永久に無理な相談だった。


「……ってぇな。調子に乗ってんじゃねぇぞ。このクソ兎ごときが。今、俺に何しやがったんだ、アァ!?」


 思わぬ反撃にブち切れるデズモンド。吹き飛んだ距離をものともせず、一直線にアルに向かう。今のデズモンドに、もうアル以外視界に留めていないだろう。まるで、闘牛のように向かう様は怒りで我をなくしたかのように見える。だが、デズモンドは頭も切れる。というよりは一種の天才である。特に戦闘、殺しのことにかけては。

 アルの動きがより洗練された事実。そのカラクリにはとっくに気づいている。

 ならそれを含めて、目の前の兎を狩るだけだ。

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