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1:この世界は面白くないⅣ

 壁かと思ったが、違った。百九十センチはあろうかという大男だ。さらにはリーゼント風の髪型にサングラス。そんな男が握り拳を作ってポキポキと鳴らしているとなると、ほぼ百人中百人がビビる。

 現にマナーの悪い連中は委縮してしまっていた。


「い、いや何でも」

「な、なぁ」


 最初にいちゃもんをつけてきたスキンヘッド風の男も、さすがにやばいと感じたようで、腕を抑えながら弁明していた。


「そうですか。てっきり店内で喧嘩まがいなことでもしてるのかと思いましたが、私の気のせいでしょうか」

「そ、そう。気のせい気のせい」

「そんなことするわけねぇじゃん」

「しかし周りのお客様には大変迷惑になるので、今日のところは穏便に、お帰り頂いてもよろしいでしょうか?」


 大男はあくまで接客業としての丁寧な言葉を貫いていた。けれど、サングラスを取り、人を殺したことでもあるかのような、鋭利な睨みを利かせていた。


「お、おい。行こうぜ」

「あ、あぁ」


 凄い。手を出さずして、複数の男たちを帰らせてしまった。さすがというか何というか。けど、私もこれに便乗して退散しないとまずかったりする。


「すみません。お客様。お騒がせてしまって申し訳ありません。引き続き、ゲームをお楽しみください」


 大男は他のお客に、すかさず詫びを入れる。その横で、私は思いっきり腕を掴まれてしまい、とても逃げられそうになかった。


「手を離してよ」

「お前はちょっと事務所に来い。この不良娘が」


 やばい。面倒なのに捕まった。今日はいないと思ったのに、こんなデカいのが今まで何処に隠れていたんだ。


「うわ、ちょ、は、離せ! 」


 脇に抱えられるように、私は持ち上げられてしまう。前後逆に運ばれる格好はかなり情けない。


「困りますねぇ。お客様! 裏でしっかりとお話を聞かせてもらましょうか!」


 一連の騒動を目にしていたお客もいたのは確かだ。大男は、他の客に弁明するように、大声で口にした。


「変態、誘拐犯!?」

「はっはっは、お前みたいなちんちくりんに興味などないわ」

「死ねっ!」

「あがっ!?」


 碌な抵抗は出来ないけど、思いっきり反動を付けて、こいつの脛を蹴っ飛ばしてやった。





「なるほど、事情は大体分かった」


 半ば無理矢理連行されてしまい、私は事務所という名の狭苦しい倉庫みたいなとこに入れられてしまった。諦めず抵抗を続けたが、出禁にするぞと言われては従わざるを得ない。今は机を挟んで向かい合うボロいソファに座らされる。私の目の前には、脛を痛がりつつも威厳を見せるリーゼントが座っていた。

 御子柴城二(みこしばじょうじ)。とても接客するような風貌ではないが、このゲーセンの店長だったりする。そして本人によるとまだ二十代らしい。もちろん私は信じていない。



「けど、お前も悪い」

「何で!? 元々あいつらが……」

「事の発端はあいつらでも、それに応じたお前も悪い。それに、相手は複数で全員男だったじゃねぇか。いい加減状況を読めるようになれ。この馬鹿」

「先に手を出してきたのはあいつらだし、無抵抗だったら余計舐められてもっと酷い目に遭ってたっての」

「じゃあ最初から俺を呼べばいいだろーが。最悪警察沙汰だ。いや、それならまだいい。お前いい加減にしないと、ほんといつか怪我するぞ」

「うるさいな。私に構うなっての。鬱陶しい」

「ったく、この馬鹿娘。ん? おい、つーかお前、学校はどうした?」


 ぎくっ。

 そういや、この前も騒動を起こして、学校はちゃんと行くって言わされたんだっけ。


「おいコラ。こっち見ろ。彩芽」


 城二兄(じょーじにぃ)がむさ苦しい顔を近付けてきた。私は悟られないように平静を装う。


「もう終わった」

「何だそうなのか。今日はえらく早いんだな。テストか?」

「ん、まぁそんなとこ」

「……そうか」


 こいつにその辺の詳しいことなんか分かるわけがない。ここは適当に合わせて誤魔化そう。私の言うことを信じたみたいなのだが、目の前の大男は何故か携帯を取り出す。何やら操作し始めること数秒、何処かに電話をかけ始めた。


「あ、もしもし。(わたくし)三年の神條彩芽の兄です。ちょっと御伺いしたいことが……」

「やめろこのバカァ!」


 即座に手を伸ばして携帯を奪い取る。電話の相手なんか無視してすぐに通話を終了させた。


「はぁ、はぁ、い、いきなり何して……」

「お前の言うことが本当か確かめるんだよ。お前を呼び出せばちゃんと終わって帰ったのか。サボりなのか分かるだろ」

「っ……」


 やり方が汚い。兄どころか親戚ですらないだろ。


「だからその携帯早く返せ」

「……ああもう、分かった。サボった。サボりました。これでいいでしょ」


 余計なことをされたら敵わない。仕方なく私は早々に認めることにした。


「またか、この野郎。あっさり約束破りやがって。何がそんなに嫌なんだ」

「……全部」


 あそこは息苦しい。面白くもない話にヘラヘラ合わせて、好きでもない奴に媚びへつらって自分の居場所を必死に作ってる。

 早く生まれたからなのか、テキストに反って教えられるからなのか。相も変わらず教師は偉そうにしている。毎日、飽きもせず面白くない授業がある。受けなくてはならない。何の為に。勉強の為に。将来や夢の為に。

 そんなもの、ありはしないのに。あそこはいつだって、嘘と欺瞞で満ちていて気持ちが悪い。


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