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5.仲間Ⅸ

 よく眠れたようで、朝は意外にもしっかりと起きることができた。いつもは畳の上とか、洗濯物にまみれて寝ていることが多かったから、それに比べるとふかふかの布団だったのが良かったかもしれない。


「準備できた?」


 アニータが声を掛かる。準備といってもやはり私には持ち物がそこまでないので用意することがない。むしろ、肩掛けの鞄とか、水筒とか聖十字セイントクロスの皆が用意してくれたので、私に限ってはいつでも出発が出来る状態と言えた。


「できてる。私はそんなに準備するものないし」

「あはは、それもそうだね。でも、覚悟とか心の準備とかそういうのも含めてどう?」

「……他に選択肢があれば迷うかもだけどね」

「充分充分」


 少し皮肉っぽく言ってみたのだが、アニータには通じなかったようだ。まぁ、アニータにも言っても仕方ないけど。

 何が嬉しいのか分からないけど、アニータは白い歯を見せながら、私の手を引く。不意を突かれたため抵抗する間もなく、そのまま地上へと連れてかれてしまった。


 以前とは違う町外れのほうに出る。さびれた町並みがさらに人気も少ない裏通りのような場所だった。これから町の外へと出やすいように、出口を選んだのだろう。そこには、すでに聖十字セイントクロスの皆が見送りに集まっていた。そこには、町長さんと奥さんも来ていた。


「すまんな。本当はきちんと見送ってやりたいところだが……」

「いえ、充分です」


 町長が申し訳ないと頭を垂らしながら呟く。町の人間の反応を思い返すに無理な話だ。私でも察するくらいだ。アルも理解して気にしないようだ。



「よく寝たかい?」

「まぁまぁ」


 尋ねてきたアルも準備万端で構えていた。服は変わらないが、微妙に色が違う。ベルトも主張するような皮のものだ。見るからに大きなリュックを背負っているあたり、これから旅をするという雰囲気が強まっていた。

 ドゥーガルも同じように大荷物だ。ただ、車輪がついているケースで、少し自分のいた世界を思い出した。こっちにも同じような文化があるようだ。


「よし。それじゃさっさと出発しようぜ。ぐずぐずしてると、聖騎士たちと遭遇するかもしれねぇ」

「あぁ」


 私が最後だったようで、ドゥーガルが先を急ごうとする。アルもそれに応えて、いつでも出発可能だ。そこで、ロレーナが一歩前に出る。胸の前で祈るように手を握っていた。


「アニータ、気を付けてね」

「分かってる。任せて」


 ロレーナの心配そうな表情にアニータはウインクで応える。


「アヤメちゃんも。魔女姫なんかに負けないでね」

「う、うん……大丈夫」


 多少潤んだ瞳が向けられる。魔女姫と戦うはずはないのに、何だかはっきりと否定しにくい。結局最後まで言い出せなさそうだ。生い立ちをきいてしまったともなると、なおさらだった。


「エルムはどうするの?」


 この町に来て別れてから、結局まだ合流することができていない。


「戦力は少しでもほしいところだ。町を探してみたが見つからなかった。ついていくと言ったのも気まぐれに近いものだと思えるし、何より待っているわけにもいかない。エルムには悪いが出発しようと思う。もし見つかったときは、セネガルさんに任せるから大丈夫だ」

「そう……」

「この町にいる人間は全員把握している。おおよその外見的特徴もきいたからね。エルムと言う者を見かけたら保護するよ」


 アルに視線を向けられたセネガルさんが安心してくれと話す。それならまぁ問題ないだろうか。普通よりも野生っぽいところもあったし何とかなると思う。からかいがいがあったので少し残念だ。


「お、おい」


 突然呼び止められる声が響く。声の主はあっさり見つかる。昨日特訓しているときに仲間にしてくれと言ってきたカイルという少年だった。


「絶対に、魔女姫を倒してくれよな」

「あぁ、わかってる。待っててくれ」


 カイルの強いまなざし。自分が何も出来ない代わりに頼むという期待に満ちた瞳だった。あまりにまっすぐで私には眩しい瞳だった。それにアルもまた力強く返答した。



「いい加減出発しようぜ。野宿はしたくないからな。日が暮れる前には次の町に辿り着いておきたい」


 ドゥーガルが急かす。確かに野宿はしたくない。私のなかではエルムのことだけが懸念だったので、それも確認できたので問題はない。


「あぁ行こう」


 アルの言葉を皮切りに出発する。ロレーナに、兄のシモンを始めとする聖十字セイントクロスの皆が盛大に見送ってくれた。




§



 比較的道は緩やかだ。制服で舗装もされていない道を歩くのはしんどいだろうけど、支給してもらった格好は動きやすいので、さほど問題なかった。

 問題があるとすれば隣を歩くアニータだろうか。


「ふぇ……ぐすっ……」


 何と別れ際は普通だったのに、皆とさよならしてから泣き始めてしまった。


「いつまで泣いてんだ?」


 呆れたドゥーガルに問うと、アニータは涙声で懸命に反論した。


「だって~……私、今まで皆と暮らしてて、……外に出るのなんて、ほとんどなかったんだもん」

「はいはい」

「まぁそのうち、泣いている暇もなくなるだろうから今のうちにたくさん泣いたらいいんじゃないか」

「アヤメちゃんは仕方ないとしても、アルとドゥーガルのほうが何でそこに淡白なのか分かんない」

「俺はあの町を離れたことは何回もあるし」

「俺もわりとあの町にいたのは日が浅いしな」

「薄情者~」


 アルとドゥーガルがそれぞれの事情で弁明する。そうこうしているうちに、歩きやすい平坦な道は変わり始め、凸凹とした山道に差し掛かる。


「それより、北に向かうのならまずはビショップの町だろ? どっから行くんだ?」

「そうだな」


 ドゥーガルが先頭を歩くアルに疑問を投げた。背中越しにアルが返事をしたわけだけど、気になる言葉を私も耳にした。


「どっから?」

「いくつかのルートはあるんだけど、俺たちは狙われているわけだからね。堂々と開けたルートを行くわけにも行かない。少し体力は使うが、森のほうを通るとするか」

「ガヤの森か。攻略しがいがある」

「何? 何か不吉な感じがするんだけど」

「魔獣も出るから魔法の鍛錬にもなる。アニータもそろそろ泣き止んで気合を入れてくれ」

「分かってるよ~……っ!?」


 語尾を長くして返事するアニータだが、急に背後を振り返る。隣を歩く私はびっくりしてしまう。何かあったのか。


「え? 何?」

「アル、ドゥーガル」

「分かってんよ」

「見られてるな」


 視界は比較的良好だ。でも誰もいない。邪魔な鞄を下ろして戦闘態勢に入る三人に倣って私も身軽になって周りを警戒した。


「何かいるの?」

「いや、正確には何か出て来るってとこだ」


 アルの宣言通り、魔方陣が展開される。紅く大きく複雑な魔方陣だ。ゆっくりと円を描きながら光を放出する。魔方陣のなかからは得体の知れい、目つきの悪い人間が二人現れた。


「聖騎士じゃないのか」

 


 


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