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5.仲間Ⅶ

 食堂なんて大層なものはなかった。机、テーブルを持ち寄って、それに近い空間を作り上げているだけだった。まだ作業を大幅に残している人たちは、食事を作業場の近くに運んで取っている人もいた。


 アニータに手を引かれるまま、私はあるテーブルの一角に案内される。


「ロレーナも呼んでくるから待ってて」


 そう言ってアニータが颯爽とリボンが特徴的な気弱な女の子を連れてくる。ついでに料理も一緒に持ってきたようで、テーブルにはすぐに始めて目にする料理が並んだ。

 西洋っぽい世界だけあって、見た目は外国の料理に似ていた。緑の多い野菜類のいためもの、ピザのようなパン生地に彩られた食材。明らかにメインディッシュとなるのはこってりと暖められた肉料理だ。


 ロレーナとも挨拶を交わして一緒に食べることにした。正直運動したあとだったので、アニータたちには聞かれなかったようだけど、お腹の虫も少し鳴いていたくらいである。

 食事中、アニータは何とかロレーナも同行するようにあの手この手で誘っていたけど、町の外に出ることにやはり抵抗があるようだった。


「もう。手ごわいな~」

「ごめんなさい、アニータ。誘ってくれるのは嬉しいんですけど。でも……」

「分かったよ。ただ旅するわけじゃないもんね。ロレーナの分も頑張ってくるよ」

「はい」


 食事も終わって一息つく。すると、アニータが「次はお風呂入ろ」と言ってきた。当然汗は流したいから同意した。けど、一緒に入るとは聞いてない。


「ひろっ」

「凄いでしょ。皆の魔法で作ったんだ。普段はあんまり使わないけど、私は今日で使えるのも最後だからね」


高級な造りでは決してなかった。無理矢理穴を掘って作ったようなもので、タイルのようなものを引いてるものの、お湯を溜めているのは岩を敷き詰めただけの無造作なものだ。


「いやー良い湯だね」

「……」


 岩風呂に浸かったアニータが悠々と腕を上げて伸びをしていた。ぽよんっと揺れるアニータの褐色の胸。何とも数字の暴力を見せつける振る舞いである。

 つい自分の胸元を見てしまう。比較にもならにない事実に少しだけ心が挫けた。隣を見てみると、ロレーナが顔を赤くして同じように肩近くまで浸かっていた。普段はリボンを結んでいるけど、今は代用の紐でふわふわした髪を纏めあげていて、いつもより少し活発な娘に見えた。


「よし」


 さすがにロレーナには勝っていたようだ。


「何がよしなの?」

「え、あ、いや別に」

「?」


 ロレーナも首をかしげていたが、勝手にしょもない勝負をしていたと言えない。何とか笑ってごまかすことにした。


「あの……、アヤメさんは別の世界から来たんですよね?」

「そうだけど」

「どんな世界なのですか。良かったら聞かせてほしいです」

「……面白くない世界だよ」


 少しだけ目を輝かせたロレーナには悪いけど、わざわざ話すようなことじゃないと思った。そして、外の世界が怖いとは言っていたけど、興味はあるんだろうなと思えた。

 私がつれなく返したせいだろう。ロレーナはしゅんとしてしまった。

 何か返したほうがいいと思った。だけど気の利いた言葉は思いつかなかった。


「きっと、ルークさんと同じ世界だよ」


 その時、アニータが言葉を投じた。聞き慣れない名前だった。


「ルークさん?」

「アヤメより前にこの世界に来たアリスだよ。とても強かった。魔女姫を相手に勇敢に戦ったんだ」


 アリス。別の世界から来たこの世界の救世主。それが前にもいたという事実に少しだけ驚いた。


「アルが言ってたよ。ルークさんから聞いてたのと同じ世界だった。だからきっと、アヤメがアリスだって」


 そう言われても、私にはやはり実感などあるはずもない。やはり、アリスとして戦う気はないと言うべきではないかと少し悩んでしまう。


「そのルークって人は?」

「……私達を庇って……」


 死んでしまったのか。アルが私にアリスとして戦ってほしいと頭を下げた理由を考えれば、何となく想像はついた。


「ごめんね」

「え?」


 それ以上言葉を紡げないでいると、アニータのほうが謝ってきた。何に対しての謝罪なのだろう。よく分からなかった。


「たぶん、別の世界から来たアヤメには魔女姫と戦うメリットってないと思うんだ」


 困ったような、まいったような笑顔でアニータは零した。


「それはね。私にも分かる。でも、それでも私たちと戦ってほしい。アヤメの力が必要なんだ」

「わ、私からもお願いします。そ、その、怖くて一緒に行けない私が言うのもおかしと思うんですけど」


 ロレーナが湯の中を回り込んで、私の正面に来て力説する。何となく大人しい印象を覚えるこの娘からすると、頑張って口にしているのが窺えた。


「……その、二人は何で、魔女姫を斃そうとしてるの?」


 後からハッとなって自分でも驚いた。何を聞いているんだろう。こんなことを聞いて私は何を考えているんだ。悔やんでも遅い。私の口から洩れた質問に、ロレーナがゆっくり答える。


「私はその、たまたま皆さんに拾われたんです。幼い頃に両親をなくしてしまって……それで、……で、でも、私みたいな子がいなくなるように、魔女姫を斃すことはできなくても、皆さんのお手伝いをしようと思います」

「そうなんだ」

「私も、似たようなもんだよ」


 アニータの表情が、一瞬悲しい顔になった気がした。

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