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5.仲間Ⅴ

 一瞬も気が抜けない攻防が続く。


「くっ」


 動きが速すぎて追い切れない。アルの拳の動きに集中すれば、もう一方の拳に気付けない。魔力の動きも同時に感知して、次の動きを予測するしかなかった。


「良い闘志だ。やり返す気満々って顔だね」

「当たり前でしょ」


 私の考えを知った上での、その余裕顔を歪ませたくなる。カウンターを狙っているのはもう知られている。それは言葉のやり取り以上に、アルの動きからも推察される。


 容赦なく拳を向けるのは変わらないが、すぐさま次の動きに移行できるよう、間違っても重心は前には来なかった。私の狙いが分かっている分、反撃の効果は薄い。そうなると、アルの攻撃を完全に躱す必要が出て来る。


「……っ」


 そう思って反撃の隙を狙っていたけど、アルの姿を一瞬見失う。と同時に、私は脚に衝撃を受けてバランスを崩していた。アルが態勢を下げて、足払いをしたんだ。あくまで予見が出来ているだけ。予測の範疇を超えることはなく、必ず蹴りがないとも限らないということだ。


「この……」


 転倒は免れない。ならせめて、次の動きにつなげないと。腰を無理矢理に捻り、せめて腕で支える。完全に転ぶことはなく、腕で支え膝を曲げて足は地を踏み締める。そのまま地を蹴って一旦距離を取った。腰を沈めたアルもすぐさま追って来るにはタイムラグが生じたようだ。転倒させられかけたけど、何とか窮地を脱した。


「機転もきく。思ったよりいい動きだよ」

「……そりゃどうも」


 褒められても嬉しくない。アルは意外にも立ち上がっただけでその場を動こうとはしていなかった。どういうつもりだと疑念を抱く。が、何てことはない。今度はそっちから打って来いということだろう。

 構えた後、四本の指を折り曲げて挑発する。


「いくよ」


地を蹴り距離を詰める。アルやデズモンドのように、腕を伸ばしただけで攻撃出来る手段は私にはない。物は試しだ。思いっきり拳を構えた。


「……!」


 勢いをつけてストレートを繰り出すがこれも軽く避けられてしまう。右側に避けたところ、反撃の隙も与えないようにそのまま回し蹴りを放つ。


「くっ……」


拳と蹴りを織り交ぜると、少しは対処しにくいようだ。アルが冷静さを崩した隙を狙い、そのまま応酬していく。


 普通に攻撃を出すと見せかけたあと、体を沈めた。先程のお返しとして、アルの足を払う。が、アルはそれを予見していたようで軽いジャンプで躱していた。すぐに立ち上がって追い込む。


拳を繰り出す。逃げる隙を与えず、背後に回るアルを予測して、そのまま後ろに回し蹴りを放つ。アルは頭を引いてこれも躱す。そのまま、回転を加えながら飛び蹴りするが、アルは態勢を低くしてやはり躱す。着地と同時に、またも回し蹴りを放った。後退して距離を取るアルに追いかけて、もう一度態勢を下げた。



態勢を下げたのはフェイントである。もう一度ジャンプするであろう隙を狙ってストレートを撃った。

繰り出した右拳は、アルの顔手前で止められる。すでに着地したアルが正面から片手で受け止めたのだ。


「今のはやられたよ。いきなりそれだけの動きが出来たら上出来だ」


反撃とまではいかないが、手を出させられた結果にアルは満足がいったようだ。穏やかな笑みを浮かべていた。


「そんなことよりムカついてるから一発殴らせて」

「そこまで根に持ってたのかっ」


一転して慌てた表情をしたアルが何だか可笑しかった。まぁその余裕そうな顔を崩せただけでも良しとしよう。型は荒いが、やはりポテンシャルはあると評する。その時、ガサッと草むらが動いた。


「誰だっ」


生い茂る木陰に向かって、アルが厳しい視線と問いを投げる。ガサガサと木陰が揺れ動くと、出てきたのは小さな影だった。


「君は……」


 出てきたのは背丈の低い男の子だった。何処かで見たことがある気がする。少し考えて、街中でアルにお金を渡された後、投げ返していた少年だったと思い出す。


「何でここに……?」


 むしろ、少年は自ら飛び出てきた。何か用があったのか、アルが尋ねた。すると、返っててきた答えは意外なものだった。


「お、お前ら強いんだな。お、俺も、仲間に入れてくれ」

「……!?」


 それは、魔女姫を打倒する聖十字のメンバーに入れてくれということだろうか。私より、エルムより小さいこんな子供が?

 冗談でしょと言い掛けて私は口を噤む。少年の長い前髪から覗く眼は大きく、真っ直ぐに見据えるものだった。とても冗談だと笑い飛ばす気にはなれなかった。


「……駄目だ」

「何でっ」


 アルも馬鹿にすることはない。だがそれでも、少年の求める答えでなかった分、当然食い下がる。


「君は……ビスタさんのところの子だろう。確か、カイルといったか」

「……そうだよ。なら、知ってるだろ。俺だって、あいつらと戦いたいんだ。母ちゃんも父ちゃんも、街の皆もあいつらに逆らえない。もう嫌なんだ。本当はあいつらの言うことなんか聞きたくないのに。俺も、俺だって……」

「……駄目だ。ブルトスたちと戦うってことは死ぬかもしれないんだ。そんな危険な真似はさせられない」


 きっぱりとアルは断る。カイルという少年も子供ながらに感じたんだと思う。どうあってもお願いをきいてはくれないだろうと。


「……くそっ。も、もう頼まねぇよ!」


 カイルは再び振り返って駆け出してしまう。再び木陰の向こうへと姿を消してしまった。


「あれで良かったの?」

「あぁ。さすがにあんな子を戦いに巻き込みたくはない」


 さすがに子どもは受け付けられないか。……あれ、私も一応子どもではないだろうか。

疑問に感じたが、さすがに口にするのは咎められた。おそらく「アリス」だからとか言われるだろうと思えてしまったからだ。

 

「君は例外だよ」

「うぇ!?」


心を読まれたのか。突拍子もない核心をついた発言で、妙な声を上げてしまった。

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