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4:凶行Ⅶ

「それよりさっきの攻撃。確実に間に合わないと踏んだのですがね」


 アルが仲間を弾き飛ばしたときだ。奇しくも背後からの奇襲という形になったというのに、アルはしっかりと対処に間に合った。その理由として、デズモンドの動きが急に鈍くなったように見えたのである。


「結界を張った」

「なるほど。自分の周囲に重力の負荷を掛けたのですか。通りで急に体が重くなったはずです。厄介ですね。自分の周囲を対象とするなら、所作なく魔法を使えるわけですか」


 折れた剣を柄に戻す。顎に手をやり、なるほどと言わんばかりにデズモンドはこちらの戦力を見極めているようだ。その時、目配せするデズモンドはぴくっと何かに反応する。


「……あなたは」


 デズモンドの視線の先。それは、私の視線と交差していた。灰色の眼が一層細くなり、善人顔を貼り付けたような表情だったのが、一瞬だけ崩れたようにも感じた。


「っ……」

「妙な魔力を感じる。微力でありながら力強い質の高い魔力。いや、微力というのも正確ではないですね。無理矢理蓋をして抑え込んだところから僅かに溢れた魔力。それが一番しっくり来る」


 ブツブツと呟きながら、デズモンドは歩を進める。ゆっくりと、だが確実に私との差を詰めてきていた。ぞわっと寒気を覚える。ただただ恐れを抱いて、僅かばかり後退をするのが精いっぱいの抵抗だ。


「く、来るなっ」

「底が見えない魔力だ。素晴らしい……ぐ、っ……」

「その娘に近付くな!」


 デズモンドが膝を折る。アルは腕を真っ直ぐにデズモンドへと向けていた。


「くくっ……。バカ正直ですねあなたは。そうですか。つまり、この娘が此度(こたび)のアリスというわけですか」

「っ……! お前は、ここで殺す」


 怒ってもまだ柔らかい雰囲気を残してたアルの表情が豹変する。兎どころではない。まるで獣の如く怒りと歯噛みした顔を見せる。と同時に、ドゥーガルとアニータが戦闘態勢に、いや、攻撃態勢に入っていた。

 ドゥーガルのブリキ人形クレイマン。アニータの白い龍が、重圧に圧し掛かられているデズモンドを間合いに留める。


「……うっとうしい」


 ブリキ人形クレイマンの手刀と龍の牙がデズモンドを仕留めに掛かる。その間際、デズモンドを中心に爆風が巻き起こった。ブリキ人形クレイマンと白龍は弾き飛ばされる。


「俺のクレイマンがっ!」

「なんて奴だよ」


 爆風に視界を奪われてしまう。目を閉じるだけでは足りない。腕を出して顔を護る。瞬間的な爆発が止んで閉じた視界を開けると、いつの間にかアルがすぐ前に位置していた。そして、デズモンドもすぐ目の前に迫っていた。

 打ち出した拳をアルがしっかりと受け止めているところだった。


「邪魔しないでくださいよ。困った兎さんですね」

「邪魔はお前だ。今ここで……」


 そのとき、一筋の光がデズモンドを狙う。瞬時に反応したデズモンドはその場を離脱して回避する。私には消えたように映る。何となく認識出来たのは、ブルトスの元まで退避したデズモンドと、地に刺さる、光輝く矢のようなものを見たからだ。


「……」


デズモンドは静かに自らの頬を摩る。完全には躱し切れなかったのか。右頬には縦に傷が走り、僅かに赤い血が垂れる。


「ちっ、次々と邪魔ばかり入る」


 姿は確認できないが、おそらく仲間の誰かが迎撃したのだと思う。


「……仕方ありませんね。ブルトス様、引き上げますか」

「な、何を言ってるんだ。僕を馬鹿にしたあいつらを見逃すというのか」

「えぇそうです。どうやら囲まれているようなので、このまま続けるとなると少々骨が折れそうなもので」

「ふ、ふざけるな。お前にもいくら払っていると思っている。こいつらを殺せ。今すぐだ。これは命令だ!」


 ブルトスは激昂して命令を下す。デズモンドの提案を受ける気はない。だが、デズモンドの一言が全てを黙らせた。


「リディア様の命は何だったか覚えていますか?」

「っ……」


 唾を飛ばす勢いだったブルトスが口を噤む。どちらが上の立場にあるのか分からなくなりそうな光景であったけど、デズモンドは構わず続けた。


「アリスと兎の生け捕りです。あなたに従うことは、リディア様の命令には背くということになりますが、いかがですか?」


 まずい。と思ったのだろうか。怒りで赤い顔だったのが、みるみるうちに顔を青く変色させていた。


「ぐっ、くくっ……、そ、それは……。な、ならせめて、それ以外の奴らを……」

「残念ですが、私の戦闘力では難しいですね。相手は聖十字セイントクロス。いつあなたを狙うか分かったものじゃありません。あなたを護りながらターゲットを殺さずにというのは難しい。……巻き込まないようにするのも結構気を使うんですよ」

「だ、だが……」

「それに、良かったじゃないですか。アリスと兎の男を見つけたんですよ。とっとと、見つけたことを報告すればリディア様から褒美がもらえるかもしれませんよ」

「いやまぁ、う、うむ……。そ、そうだな」


 褒美という言葉に、ブルトスはすっかり機嫌を良くしたようで表情を緩めていた。傍から見ても、うまく懐柔されていることが分からないのか。かなり滑稽に映る。


「というわけで、今日のところは帰りますね」

「ふざけるな。行かせるわけないだろ!」


 私としては退いてくれるならありがたい。この得体の知れない人間とは早くさよならしたかった。が、そこで行く手を阻むのはアルである。誰より早く、そして誰よりも苦渋に満ちた顔で奇襲をかける。

 一気に地を駆けて距離を詰める。それは一瞬のことだった。ゾニスと名乗った男のときと同じ。大きく腕を振り上げてデズモンドに向けて振り下ろす。町の地盤を破壊し陥没させる。ただの拳のはずがとてつもない威力を発揮していた。けど、デズモンドは悠々と躱す。追撃を仕掛けるアルだが、再び拳を向けた時、デズモンドの姿は粒子となって消え失せる。


「また来ますよ。アルフレッドさん。そして、アリス……」


 デズモンドだけではない。ブルトスと、アルたちが倒した三人の部下も同時に消え失せた。後に残るのは、ブルトスが乗っていた乗り物だけだ。


「おい、これまずいんじゃねぇのか」

「あぁ……、アリスの存在が魔女姫にバレる」


 私が思っている以上に、事態は深刻なのかもしれない。何となく、そんな風に思った。

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