表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/67

4:凶行

 ブルトスは軽々しくとんでもないことを口にした。町長、またその場にいる人々、いや私すらも開いた口が塞がらない。


「そ、それはどういう……」

「だって知らないんでしょ? 知ってたら教えてほしいんだけど。ならもうこの町の誰かを、代わりに連れて行って差し出すしかないじゃないかね?」


 何かおかしいこと言ってる?

 と、ブルトスは酷く平静だ。それが当然だろうと不思議そうに眉をひそめた。 冗談を言っているのではない。妥協案として生贄を連れて行くと、真面目に言っているのだ。そして同時に、もう一つの事実が確定した。アリスと兎男。つまりは私とアルは、連れて行かれると殺されるのか。


「どう? 僕の考え。間違ってる?」

「いえ、さすがブルトス様です。これ以上ないお考えかと」

「ぶははっ、そうだろうそうだろう。とりあえず男と女だ。お前ら、適当に連れて来い」

「ま、待ってください。ブルトス様。そ、それはあまりにも」


 部下に命ずるブルトスに、町長、また町の人々は顔を青ざめる。当然納得いかないだろう。抗議とはいかないが、撤回を要求する町長に、ブルトスは重い言葉を掛けた。


「そんなに嫌か? ぶふ、それじゃあ金貨100枚でどうだ? それで手を打ってやってもいいぞ」

「っ……。そんな、先日、お渡ししたばかりだっ」


 言葉を噤む人々の様子から、呑める条件でないことは明らかであった。厭らしく口元で弧を描くブルトス。おそらくブルトスも分かっているのだろう。呑めない条件を提示していることを。


「あれも嫌。これも嫌。そんなワガママは通らないよ。お前ら、無理矢理連れて行け」

「はっ」


 暴力行為に訴えるべく、部下三人は全員携えるサーベルを抜いた。丸腰の町民に向かって、剣を向けたのだ。


「うわああぁっ」

「きゃあぁぁあ」


 生じる混乱の中、サーベルを振り抜く三人が急に動きを止めた。


「なっ……」

「ぐくっ」


 膝を折り、上から抑えつけられるように部下は呻いていた。この様子を見たのは何度目になるか。


「止めろ。俺がその兎男だ」

「なに?」


 屋根の上に凛然と立つアルがいた。横では、あちゃーと頭を抱えるドゥーガルが見える。


「なるほどなるほど。重力の魔法を扱うというのは報告通りだ。つまりお前が……アルフレッド・グラデミスか」

「そうだ」


 アルは屋根から飛び降りる。地に着く寸前、一瞬ふわりと風が生じた。確認するまでもなく、アルの表情には静かに怒っている感情を見せる。


「ぶふふ、良かったな。町長。本人が出てきてくれた。余計な犠牲者を出さずにすんで」

「……アルフレッド」


 町長が静かに行く末を見守っていた。僅かに青ざめている。他の人達も、標的か変わり同じように足を止めていた。


「お前たち、いつまでそうして固まっているんだ。早く捕らえろ。逃げられんように足の一本くらい切り落としても構わんぞ」

「はっ」


 部下の三人は命令通り、静かに立ち上がる。今までの敵とは少し違う。おそらくアルの魔法が破られたのだ。


「兎の被り物はどうしたのだ? 逃げるために捨てたか」


 部下の一人。黒髪の男がアルに言葉を投げ掛ける。アルは何も返さない。明らかな軽口に付き合うつもりは毛頭ないようだった。

いや、それも仕方ない状況である。三人は距離を保ちながら、ゆっくりとアルの周りを囲い始める。まるで獲物を見定める獣のように。じわりじわりと追い込んで行く。


「ったく。しゃーねぇな」


 固唾を呑むなか、打ち破ったのはドゥーガルだった。アルと同じように悠々と屋根から飛び降りる。ただ、アルとは違いそのまま飛び降りた衝撃が起こった。しかし、ドゥーガルは全く意に介す様子はなく、首に手を回してコキコキと鳴らす次第だ。


「アヤメちゃん。此処で待ってて」

「え?」

「アルが出ちゃったんだから、私も行かないと」


 同時に、側にいたアニータが大通りへと出て行く。向こうが三人なら、こちらも三人ということだろう。理解した私は素直に応じることにした。


「私も混ぜてもらおうかね」

「ドゥーガル、アニータ」

「なるほど。仲間がいたか」


 ブルトスはニヤリと顔を歪める。部下の三人も、手間が省けたとばかりに戦闘態勢を取った。


「何で出てきたんだよ。奴らの狙いは俺だけのはずだろう」

「アルのお馬鹿。決まってんでしょ。仲間だからよ」


 アニータはそう言って、にししと笑う。褐色肌のほっぺが赤みを帯びて、白い歯をめいいっぱい見せつ付けていた。


「くさいなお前」

「うっさい」


 呆れ顔でドゥーガルがボヤくと、アニータは照れたように反論した。その隙を狙い、部下たちは即座に攻撃を仕掛ける。各々が標的を見付け、散るように剣を振りかざす。


「そうだ。白髪の男だけ連れて来い。あとの二人は殺しても構わん」

「は、仰せのままに」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ