↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/67

3:荒んだ町Ⅴ

「な、何のつもりだよ!」


 子供は吠えた。アルは取り出した金貨を子供に握らせたのだ。盗んだ相手にお金を渡そうとしている。アルの行動に私たちも戸惑ってしまう。


「それが欲しかったんだろ。あげるよ。さすがに全部は難しいけど」

「なっ! お前、何言って……」


子供が驚く。と同時に、エルムも口を挟んだ。


「そうだよ何でわざわざ。その金貨一枚があれば一月は暮らせるのに」


 その金貨の価値を知っているエルムが、アルを叱責する。しかし、今のアルにはどこ吹く風だった。


「いいんだ。これで好きなものでも買うといい」


アルはしゃがんで子供に目線を合わせている。私からは、アルの丸まった背中しか見えない。どういう思いでそんなことを言ってるんだろう。私には分からなかった。表情が見えないことも相まって、アルの心象は測れなかった。


「こんなもん!」


対して、アルの表情が窺えただろう子供は、弾けたように声を荒げる。握らされた金貨を地面へと叩きつけたのだ。


「なんだお前。せっかく……」

「うるせぇ!」


子供の反抗的な態度をエルムが叱りつけるが、子供は怯むことなく吠え上げた。


「同情なんかすんじゃねぇよ。施しなんか受けねぇ! 俺は、俺は他の奴とは違うんだ!」


子供はそう叫んだあと、一心不乱に駆け出して行った。


「何だったんだ?」


エルムがそう零してしまうのも無理はない。私にもよく分からなかった。ただ一つ分かるのは、アルが良かれと思った行為は、あの子供にとっては良くなかったということだ。


「アル?」

「……何でもないよ。行こう」


何故金貨を無償で渡そうとしたのか。何故、あの子が去るのをじっと眺めていたのか。問いを投げる前に、アルには何でもないと言われてしまう。私にしては珍しく、追求することを憚られてしまった。

エルムも特に言及することはなく、少し有耶無耶になってしまったように思った。


「おい待てこらあ!」


そんな折、劈(つんざ)くような怒声が響いた。見れば先程エルムが覗いていたパン屋だった。だだだっとひょろっとした男が駆けるのが見えた。商品のパンを抱えていたのを見ると、万引きしたようだ。それを、パン屋が必死に追い掛ける。


「おい」

「あぁ」


逃げた男は足が速かったようだ。パン屋も逃すまいと追い縋る。だが、屋台として展開するパン屋は一人しか店番がいない。誰もいなくなったのを良いことに他の人間が、ここぞとばかりにパンを盗んでいく。


「はいストップ」


多少食い荒らしながら、パン泥棒の二人は、持てるだけ持ち逃げする腹積もりだったらしい。エルムがパン泥棒の腕を掴んだ。


「な、なんだガキ」

「コソ泥にガキなんて言われる覚えはないよ。ちゃんと金払うんだろうな?」

「うるせー。店員がいないのに払うわけねぇだろ」

「邪魔すんな」


エルムは無下に振り払われてしまう。けど、それで大人しく引っ込む性格じゃないのは、もう何となく分かっていた。


少し頭に来たらしいエルムは、再びパンに手を伸ばす腕を掴むとねじり上げた。


「いで、でででっ……」


この小さい体の何処にそんなパワーがあるのか不思議だけど、泥棒の右腕を後ろに回して跪かせてしまう。そして、何処からか瞬時に出した銀色の鋏が、男の首元に添えられた。


「私これでもハンターやってっからさ。あんまり調子乗ってるとお縄についてもらうよ」

「ぐっ……」


かなわないと思ったのか。泥棒二人はそれ以上の悪行を中断させて、そそくさと逃げていった。持ち逃げするのは諦めたようだが、屋台の売り場としては、ぐちゃぐちゃに荒らされた後だ。とても商売ができる状態じゃない。

そんな光景を目にしていると、パン屋が戻って来た。一人だけ。ということは、万引きにはまんまと逃げられたようだ。苦渋に満ちた顔からも、その結果はうかがえる。だが戻ってきたところで、パン屋にとっては一難去ってまた一難である。


「あ、な、これは……」


当然ながら驚いていた。少し目を離した隙に食い散らかされたような状態なのだ。


「お前らか。こんなにしたのは」

「は? 違うし。これはさっき二人組が盗もうとしてたから、それを止めたんだし」

「そんなの信じられるか。弁償しろ」

「はあ?」


現場を見ていないのも分かるが、まさか弁償を請求されるとは予想外だ。エルムは当たり前だが憤慨する。せっかく被害を抑えたのに、恩を仇で返された心境だろう。


「ふざけるなよ。何で私が弁償しなきゃいけないんだ。だいたい店を離れたあんたが悪いだろ?」

「盗もうとしたのか知らんが、目を離した隙にやった奴が悪いに決まっている。これじゃあ商売ができん。何としても払ってもらう」


あ、やばい。しばらく傍観してたけど、このままではエルムが爆発しそうだ。でも気持ちは分かる。どうせ説明しても信じてはもらえないし、逃げる選択肢でいいのでないかと思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。