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2:魔女姫の世界Ⅱ

「もう何となく分かるかもしれないけど、此処は彩芽がいた世界とは異なる世界だ。名をパラミシア。かつては平和な世界だったよ」


 かつては……。そのような言い方をしたからには、今は違うのだろう。私を必要としたと言うのも、この異なる世界とやらを救ってほしいと言っていた。


「どういう世界かは、実際に目で見てもらった方が早いと思う。大きく違うのは、大概の人間が魔法という術式を使役することが出来ること。そして、この世界は七つの国に分類されていることなんだ」


 真剣な面持ちのアルを前に、水を差すようなことは出来なかった。しかし、私は内心、下手なファンタジー小説の設定でも聞かされている錯覚に見舞われた。七つの国がある異世界。私がもう少し子供だったならワクワクしていただろうか。

 アルは続ける。


「問題はその七つの国を統括する姫たちなんだ」


 私は少し、軽い気持ちで聞いていたかもしれない。何せ自分の出来ることはたかが知れてる。床に伏せた姫でもいるのか。母親がいなくて寂しい思いをしている姫でもいるのか。統括しているのに、女王ではなくあえて「姫」と表現したことに、幼い女の子を想像したのである。

 そのまま、私は思うままを口にした。


「その姫たちの遊び相手でもすればいいわけ?」

「いや、違う」

「……っ」


 私の言葉に反応したアルは、眉間に皺を寄せる。柔らかい印象は反転し、確固たる憎悪を孕んだ眼を見せた。


「その七人の姫を討つんだ。俺たちで」

「は?」


 討つ?

 倒すってこと?

 それとも殺すってこと?


 私の頭に描かれたイメージとはかけ離れたアルの言葉に、私は腰を上げる。物騒な事を言いのけるアルに、私は声を荒げた。


「ちょ、ちょっと待って」

「何?」

「何でそうなるの? 国を統括してる人を討つ? 何で?」

「腐ってるからだよ」


 躊躇うことなく、平然と口にしたその言葉。憎悪を秘めているのは間違いなかったが、より一層冷たい口振りに思えた。


「どういうこと?」

「そのまんまの意味だよ。七つの国全てが、統括する「姫」たちの悪政により多くの人間が苦しんでいる。それぞれ事情は異なるものの、れっきとした事実だ。だからこそ、その「姫」たちは魔女姫なんて呼ばれている」


 私はようやく、アルの「救ってほしい」という言葉に合点がいったと感じる。けれど、それならばますます分からなくなることがある。


「事情は分かった。でも、それなら余計に分からない。何でそんなことを私に頼むのか。別に私じゃなくても……」

「それは彩芽がアリスだからだよ」


 私の言葉を被せるように、アルは紡ぐ。既に何度か聞き覚えのある「アリス」という言葉。ようやく話が見えてきた気がしたけど、まだまだ不明な点は多い。

 アルの言葉を私は黙って待つ。察したアルは、遅れて続けた。


「アリスというのは元々、世界を跨いだ者の総称だよ。たまにあるんだ。人為的なものもあるだろうし、偶発的なものもある。だが、今はそれとは微妙に違う。別の世界から来訪者。さらには、世界を動かすであろう力を持った者を指す。言ってみれば救世主と同義だ」


 救世主。そんな言葉を聞かされて、私は二の句が継げないでいた。あまりに突拍子もない話ばかりだったが、この時がより一層現実味がないと思えた。


「私が……? 何かの間違いとかじゃなくて……?」

「それは間違いない。魔法による選定は既に行われた。誰かの意思とかではなく、そういうふうに構築されたと言ってもいい」


世界には空や海があるのと同様に、そういう風に定義されたということらしい。どうやってこの世界が出来たのか。もし神様が作ったとするなら、私が選ばれたのも、神による選定ということだ。


「君はそれだけの力を持っている。だから頼む。この世界を助けてほしい」


アルは頭を下げた。信じ難い話には違いない。だけど、アルの言いたいことは分かった。だからこそ、状況を把握出来た今だからこそ、自分の感情がよく分かる。


「……他をあたって」


 自分自身、随分と冷めた言い様に驚く。随分と馬鹿げた話だった。けれど、暇潰し程度にはなったかと冷めた感情が働く。そして私が思うのは、そんな選定だとか、救世主だとか。そんなものは真っ平御免だという思いだ。


「信じられないのは分かるよ。俺も彩芽の立場だったら多分呑み込めないと思う。だけど……」

「そうじゃない」


 アルは何を勘違いしたのか。私がそんな話は信じられないから断ったと思ったようだ。

 けど違う。完全に信用とまでは確かにいかないけど、現に魔法だという嘘みたいものを目にした。常識では計れない現状にいることは、さすがに私も認めている。

 でも違う。むしろ、アルが言うことが本当だろうが嘘だろうが関係ない。どっちだとしても、私の意思は変わらない。そんなことに、私は関わる筈もないのだから。


「それが本当だったとしても、私が選ばれた救世主だったとしても、私はやらないよ」

「……それは、何故?」


 兎の被り物を取った今、アルの表情は分かりやすかった。目を見開き、私を驚く表情で見据えているのが容易に分かる。

 取り繕うべきかもしれない。それでも私は、あえてはっきりと口にした。


「面倒臭いから」

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