002
嗚呼、最悪__。
顔面神経症になりそう……。いつものことだとしても今日は一層つらい。
「姫様、今日もご機嫌麗しく……」
「そのような世辞はいらない。」
にこり、牽制の意味も込めて笑う。早くどっか行ってほしい。
目の前にはにこやかに笑みを浮かべながら権力のあるおい、ご老人がいらっしゃいます。一応結構近い身内で力のある方だったんだけど。ええ、もう隠居していただいても大いにかまわないのですが。
「八代、貴方はただ挨拶しにきたのではないでしょう?」
目上のものにする態度ではないわ。
安易にそう諭すと御無礼を、と頭を垂れるがどうせ何も思っていないのだから仕方がない。
チラチラと雪柳の方を見て態度で紹介しろと言っていて鬱陶しい。ふぅ、と息を吐いて。
どうせなら、伯父にも火の粉をふりかけてやる……!
「丁度いい、他の者も気になっているようだし。」
各々で話をしておきながらこちらに視線を浴びせる奴らには鬱陶しいこと甚だしい。
少しだけ、姿勢を正して。皆に聞こえるような声を。
「こいつは、長が直々に連れてきたもので今日から私の眷族として屋敷に住まうもの、いい?“私”が赦したの。勝手な振る舞いは許さないわ」
皆、良くしてやって。
最後に付け加えて皆を見渡すと全てが手を突いて私たちの方に向いて頭を下げている。まぁ、これがカタチだけのモノだとしても。
「さて、宴を続けて。」
からん、と目の前に置かれたコップを鳴らして。その瞬間ざわざわと先程と同じような空間に包まれる。
上座に座っているから皆がよく見える。見えたくもないけれど。それにしても急な召集なのによく集まったなと舌を巻く。端から数えても普段この家には出入りしていない人までいて誰かの策略かと疑いを受けてしまう。宴なんて、勢力を誇示するためだけの催しで誰しも本当に楽しんでなんかないのに。でも、今日はまだマシかな。新年とか酷かったからなー。
「……蒼。食べないのか?」
一人物思いに耽っていると横から雪柳が私の全く減っていないお膳を見て心配そうに聞いてくる。うん、なんだこいつ。会ったばっかの、元は敵対同士だった相手の心配って笑える。それでも、なんとなく嫌な気はしない。
「宴では食べないようにしてるのよ」
「宴なのにか?」
「色々あるのよ。」
自嘲気味にふっと笑って。彼も何か察したらしくそれ以上は聞いてこなかった。
宴の席で食事に手を付けるのは申し訳程度くらいで作ってくれてるひとには悪いけれどあとで残り物を処理しているから許して欲しい。宴は獲物を狩る絶好の好機だから狙っているものはたくさんいるだろう。そんな奴らに隙なんて見せてやらない。
にこやかに微笑みながらも臨戦態勢をとっている私に不用意に近付いてはこないだろうけど。
ほとんど飲まず食わずでにこやかにしてるのって本当に意味なく疲れる。そんな中で終わった宴をこれからどうとんずらするかを考えながら。優雅に酒を飲んでいた伯父に思いっきり何かを投げ飛ばしたくなったことは言うまでもない。
かくして、雪柳のお披露目は終わったけれど叔父さんが雪柳と私をみて切なげに微笑んだのは見間違い___
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ふぅ」
「……なぁ、蒼」
「ん?」
風呂上がりに部屋に来いと言って招いていた雪柳が訝しげな声を出したのでそれに返事を返す。
「何だこれは。」
雪柳が指差しているのは宴会で出た料理の数々が所狭しと並べられている。うん、美味しい。
「残りものー。あ、雪柳も食べる?」
ずい、と雪柳の目の前に皿を持って行ってやれば呆れたように取られる。
「お前、食わないって言ってなかったか?」
「宴会で食べないだけでいつもこうしてるわ」
どかりと向かいに座り箸を持って皿によそっていく姿を見てはて、と疑問に思う。
「鬼って食物食べるの?」
「確かに昔の鬼は人肉食ってたから生気と血肉を養えたけど、今は食わないから専らこっちだな。」
「ふぅん」
私達が聞かされてる鬼とは少しずつ異なる目の前の鬼。幼い頃から教えられて来た鬼は、人の食べ物なんか口にしない。さっき雪柳が言った昔の鬼のことしか教えられなかった。
鬼は、ヒトを喰らう。
血肉は身体の糧に。
生気は魂の源に。
ヒト1人喰らえば力は倍に跳ね上がり
ヒト2人喰らえば力はその倍になる。
でも、それはヒトを喰らった場合で__
「本当に生命維持出来てるの……?」
「ん、あぁ。確かにヒト1人分の飯じゃ同じって訳にはいかないから辛いけど、どうしようもないからな。」
だから、その分食べる量が増えるだけだ。となんでもない風に言う雪柳に少し違和感を覚えた。
「凛、いらないなら食べるぞ」
箸が止まっている私の丼を指している雪柳に慌てて牽制して。
私だって、この霊力を維持するために途轍もないほどのエネルギーを消費してしまう。まだ儀を裳してないなら外からの供給が出来なくてこうして食べることによってしか出来ない。
__なんであと1年なのよ。
一族の掟を、これほどまでに鬱陶しく思のはこのひとつだけ。仕方が無い、とは思うけど歯痒い
いつの間にか殆ど平らげている雪柳をチラリと見て私も食事に専念する。
あと、1年。
その時彼はここにいるのだろうか__




