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001

彼は静かに目を閉じて今からやろうとすることをわかって力を抜いてくれている。うん、やりやすい。


「蒼にお叱りお叱り申す。神に遣わす桜のもとに、我等が神桜の血の楔に縛られし我が名の下に。眷属として迎え入れよ」


私と雪柳を囲うようにして半径3メートルの円が出来る。青く、蒼く、光り輝く。


「我は蒼の姫なり___」


私から波のように連なり模様を描くようにして走る。その度に光を蒼を増して。風が吹き抜ける。意外に彼の能力が強くて、私の能力が抑えつけようとしているから風が吹いているのだ。まったく、無駄な能力__


「桔!」


無理やり能力を能力で抑え込ませて彼と私に鎖をかける。といっても目に見えない、細い細い糸で繋がれているようなものだけれども

成功したことに笑みを漏らす。雪柳のシャツのボタンをひとつひとつ外していく。


「……凛」

「黙って。」


何をするのか、問うように私の名前を呼ぶ彼を一喝して雪柳の心の臓があるの部分が見えるように脱がせる。そして、そこにあるモノを見て微笑う。ゆっくりと指を這わせて満足げに仕上げをする。


「___っ!」


雪柳が痛みで少しだけ疼くけれど、我慢して欲しい。こっちだって限界なんだ。


「廻れ、回れ、楔が我となるように」


歯で切った指先から流れる血が自我を持つように球体となってくるくると心臓の周りを回る。そして、鎖の形になり字を創る。多分、肌が灼けるような痛みが伴うだろうけどよく、保ってる。


「印せ__」


じわりじわりと緋と蒼の鎖の形をした痣が彼の肌、心の臓の位置に印される。これは私の眷族だという印。何者にもこれは違えることが出来ない契約


「これで、貴方は私の僕よ」


ふふ、と笑みを漏らせば雪柳は怪訝そうな顔を私に向ける。まぁ、了承得てないからしょうがないけど


「安心して、私は貴方を縛るつもりもないし、奴隷のようにこき使うつもりもないわ。ただ、」


奥の方で気配が見え隠れする。私と関わることになる貴方に害なすもの。私を貶めようとするもの。それからこんな方法で彼を守るなんて一時凌ぎにしか過ぎないけど。


「私の周りを彷徨くモノを、私の一族は容易く赦しはしない。だから、貴方は私の眷族として印したの。まぁ、伯父さんは違う意味を望んでたんでしょうけど。」


一応はこれで大丈夫。私の眷族に、私に、楯突こうものなら容赦はしない。徹底的に、私が一族にとってのどういう存在か知らしめてやろうじゃないの。

一息着いたところに、姫様と呼ぶ声が聞こえて襖が開いておかっぱ頭の女僮が手を突いて頭を垂れる。


「姫様、客人さま。宴のご用意が出来ましたので大広間へお越しくださいませ。」

「宴だなんて聞いていないわ。」


どうせ、あの外見だけはよろしい奴の仕業だろうと思いつつも伺う。

けれども次の言葉に一瞬で怒りがこみ上げたのは仕方が無いだろう。


「長様よりの姫様と客人さまへの御祝儀だそうで。」


__あ、の!糞っ!

御祝儀はうちの一族が誰かと契ったときに祝いの席として催されるそれだ。それを開くってことは私が契ったと確信していたから。そもそも伯父だって私が本気で結んだとは思ってないだろうに。ふと考えに没頭していれば雪柳が私の名を呼んだ。


「凛、___!」


一瞬にして風が吹いた。

とん、と音をたててクナイが畳に落ちる。


「鬼、姫様を名で呼ぼうなど……死に値…」

「朱、いらん。収めろ。」


目の前にさっきまで手を突いていた我が家の式の一人、朱が雪柳に向けてクナイを放った。当然、私の眷族としての守があるから当たらなかったのだが。溜め息が零れる。


「姫様、」

「私が赦しているわ。貴方たちがとやかく言う必要はない。それに、長の客人であるこいつに無礼よ。」


朱は暫く何かを考えてもう一度恭しく頭を垂れた。


「御無礼お許しくださいませ。それでは姫様、お客人さま、大広間にてお待ちしております故」


朱は襖を音もなく閉めていく。

トンと軽い音がした瞬間、盛大なため息をついたのは私。こんなやりとりをこれからしなければならないと思うと溜め息もつきたくなる


「すまないわね、我が家に仕える式だから上下関係に厳しいの。」

「いや、……俺もお前を姫と言った方がいいのか?」


__姫、

彼の口から出てくるなんて思わなかったから虚をつかれて少し返答に困る。


「……や、貴方はいいわ。ただ、呼び捨てはキツいものがあるかしらね……。いいわ。皆がいるときでは私のことを蒼と呼びなさい。」

「……蒼、か。たくさん呼び名があるのだな。」


彼が少しだけ遠い目をして何かを思い出すように苦笑した。それが何だかはわからないけれど私も苦笑する。そう、自分を表す名詞なんてたくさんありすぎて嫌になる。古くからの字が首をいくつもの楔で締め付ける。緩く緩く、次第に重くなって身動きが取れなくなるのはわかっているのに。

んー、と背伸びをして彼を見上げる。私よりも頭ひとつと半分高い彼はどこか遠くを見ていて掴めない。

__まぁ、なんで雪柳がここに来た経緯も理由も伯父が私に契れという理由もまだわからないけど。


「私の守は、私よりも下位のモノにしか効かないわ。といっても、この一族では私よりも血も能力も上位なモノはいないから安心して。せいぜい、伯父で同位か少し劣るくらいよ。」


腐れ狸どもが時間をかけて破ろうとするなら別だけど。


「さて、とりあえずは宴ね。何言われても笑っときなさい。いや、軽く交わすくらいでいいわ。」


紫金はまだ光を放たない。

何かあると踏んでいるけどわざわざおおっぴろに暴くのは性じゃない。それに彼のその仕草に表情に既視感と違和感を憶えているのもわからない。だから


「地道に行くわよ……」


は?と目で問う彼ににこりと微笑んで。襖を開ける。

彼が何を隠したがって、何を求めているのかなんてまだわからない。それにどこまで“私”を知っているのかもわからない。なし崩しに信用してはならないと思う。それでも、彼が隣にいるとゆう安心に少しだけ酔ってしまっている自分がいることも否めない。

__それを見極める為にも、向き合わなければならないのよ




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