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絡まる蔦と緑の手  作者: もののけ
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プロローグ

家族の愛情に飢えていたわけじゃないのに人一倍愛されたがりだった私は、兄妹に向ける親の視線すら自分に向けたくて幼い頃からやたらと頑張り屋さんだった。


小学校に入る前からお母さんが読んでくれた本で字を覚え拙い字で手紙を書いて見せては家族の関心を集め、兄妹が外に遊びに行くのを横目に家事手伝いを行いお母さんを一人占めする方に専念したりと。

他にも両親、特にお母さんに褒められそうなことは何でも頑張ったし、ありがたいことにそれなりにこなせる程度には私の能力は高かったようだ。


近所の子ども達の面倒も見たし勉強や運動も頑張ったから周囲の人からは神童なんて噂されていたけど、私はただ愛されたかっただけなのだ。


でも私の努力程には成果を得ることはできなかった。


両親は評判になんか惑わされず兄妹を分け隔てなく平等に愛してくれるある意味素晴らしい人達だったのだ。


自分のことを愛してくれているのはよく分かるけど、同じ愛情が特に何かを頑張っているわけでもなく好きに過ごしている兄と妹にも注がれているのが納得いかなかった。


もちろん私だって兄や妹のことを家族として愛しているし大事に思っているけど、それでも自分を一番に愛して欲しいという気持ちを止められなかっただけ。


自分の努力とそれに対しての見返りが思うほどじゃなくて少しいじけたりもしたけど、お母さんが用事があって出掛ける時は必ず私に兄妹のことを頼むから私が一番お母さんに頼りにされてるんだってことが分かって優越感も覚えてたと思う。




でもそれが覆ったのは私が中学校に入った夏のこと。



兄の和樹は小学校から続けているサッカーでレギュラーになり、毎日真っ黒になって帰ってきてはお父さんとテレビを見ながらサッカーのよく分からない話で盛り上がっている。


妹の美樹は最近好きな人ができたとかでお母さんと今度買いに行くいくと言う服の話をきゃっきゃっと嬉しそうに話してる。


私は全員分の夕食を一人キッチンで作っている。


何年か前に共働きの両親を助けるため自分からやると言った時から続いていることだけど、最初はお母さんが休みの日や早く帰ってきた日は2人で一緒にキッチンに立ってたし、できたご飯を家族は凄いと何度も褒めて美味しいと言ってくれた。


でもそれがいつの間にか当たり前になっちゃって、私が料理している間中ずっと兄妹が両親をそれぞれ連れて行ってしまい、食事の時も私が聞いていないから分からない話でワイワイ楽しそうに話すようになってしまった。


私は自分を見て欲しくてやっているのになんでこうなっちゃったんだろう。

でもずっといい子をやっていたから今更ワガママも言えなくてだんだん苦しくなってきた。


それでもなんとかいつか私を一番に見てくれる日が来ると言い聞かせ過ごしていたのに、ある日私が買い物をして家に帰ってみたのは誰もいない真っ暗な家と両親からの置手紙一枚。


『早苗叔母さんが倒れてしまったと連絡があったのでお見舞いとそのままお婆さんのお世話をしに1週間実家の方に泊まります。和樹と美樹は一緒に連れて行くからお留守番をお願いね。マロンとゴローのこともよろしくね?食費や必要なものは渡してある財布から使っていいから。  お母さんより』


文字は目に入っているのに意味が分からない。


マロンは美樹が友達から貰ってきたきじ猫でゴローは和樹兄さんが拾ってきた雑種の犬。

どちらも自分が世話をするといって買って貰ったのにただ可愛がるだけで面倒な世話は気が付いたら私がしていた。


ペットを連れて行くことができないから世話をさせるために私は置いて行かれたの?

和樹兄さんと美樹のペットなのに世話をすることもお留守番もさせられないから?

私は一人でも大丈夫だと思ってるから?


家族5人分の食材がずっしりと両手に掛り立っていられなくなった私はその場にしゃがみ込んでしまった。


他の人は仕方ない、ただの留守番だと言うかもしれない。

でも愛されたがりの私には耐えきれないほどショックだった。


兄妹は連れて行ってもらえたのに、私は帰宅を待ってもくれず置手紙だけ。


これが今まで私が頑張ってきたことで得た信頼の結果だというのだろうか?






「…………あっ、何かもういいや」


頭の中で何か張りつめていたものが切れたような感じがした瞬間、今までのこだわりがどうでもいいように思えた。





 

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